広報活動

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2016年6月1日

理化学研究所
愛媛大学

アミロイドペプチドの凝集を阻害する生体反応を発見

-酸化ストレス疾患を治療する創薬研究に大きな手掛かり-

酸化ストレス条件下での8員環化合物形成による細胞制御の可能性の図。提供:田中生体機能合成化学研究室。

酸化ストレス条件下での8員環化合物形成による細胞制御の可能性

最近、「活性酸素」という言葉をよく耳にするようになりました。これは酸素分子が生体内で活性化し、強い酸化力を持つようになった酸素のことです。活性酸素は、殺菌作用が強く体に入った細菌などを駆除したり、酵素の働きを促進したりします。その一方で、増えすぎると強い酸化力のために、かえって生体にダメージを与えてしまいます。この状態を「酸化ストレス」と呼びます。アルツハイマー病やがん、脳梗塞、慢性疾患などは、酸化ストレスが原因で起きるといわれています。

酸化ストレス疾患の患者の体内では、「アクロレイン」という不飽和アルデヒドの中で最も小さいサイズの有機物が過剰に発生します。アクロレインは他の分子との反応性が高いため、細胞に対して毒性を持っています。そのため、アクロレインが酸化ストレスをさらに進行させることになります。また、アルツハイマー病の患者では、ポリアミン(タンパク質合成や細胞分裂に関与する因子)の濃度が高くなっています。

そこで理化学研究所の研究者を中心とする共同研究グループは、アクロレイン、ポリアミン、アルツハイマー病との関連性について調べることにしました。すると、アクロレインがポリアミンと生体内に存在する濃度で速やかに反応し、新しい生理活性物質の8員環化合物が効率良く生成されることを発見しました。この反応は、最初に生成する2分子の共役イミンが[4+4]環化反応(4原子と4原子が結合する過程)を経て進行した結果です。さらにこの8員環化合物は、アルツハイマー病発症の原因の1つだと考えられているアミロイドペプチド(アミロイドβタンパク質から、セクレターゼという酵素によって切り出されるペプチド断片)の凝集を著しく抑え、アミロイドペプチドの細胞毒性を中和していることが分かりました。

つまり、これらの結果は細胞が酸化ストレス下でアクロレインを発生し、ポリアミンなどの生体内アミンとの間で8員環化合物を形成することで、細胞機能を制御している可能性を示しています。この成果は今後、酸化ストレス疾患の発症メカニズムの究明や治療法の開発に貢献すると期待できます。

理化学研究所
准主任研究員研究室 田中生体機能合成化学研究室
准主任研究員 田中 克典 (たなか かつのり)
特別研究員 筒井 歩 (つつい あゆみ)