広報活動

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2016年6月9日

理化学研究所
高輝度光科学研究センター

シルクの材料特性とアミノ酸配列の相関を解明

-シルクの機械的強度、熱的安定性、結晶構造の制御に貢献-

野蚕の繭中のアラニンの繰り返し配列の割合と熱分解温度の相関図

野蚕の繭中のアラニンの繰り返し配列の割合と熱分解温度の相関

私たち人間は、古くからシルクを繊維として用い、その美しい光沢を利用した織物を製造してきました。シルクは通気性、吸水性、保温性に優れているため、肌の呼吸を妨げず、汗をすばやく吸収し、夏は涼しく冬は暖かく過ごすことができます。また、着心地はたいへん軽くしなやかです。

近年、シルクの軽量かつ丈夫で、生体適合性と生分解性を持つという性質に注目が集まり、構造材料や医療材料として利用するための研究開発が進められています。シルクは、繊維、ハイドロゲル、フィルム、スポンジなどに加工することが可能で、再生医療やドラッグデリバリーシステムへの応用も検討されています。一方で、加工時のパラメータを左右する、シルクのアミノ酸配列のどの領域が熱的性質や機械的性質に影響を及ぼすのかについての詳細は、分かっていませんでした。

理研の研究者を中心とする国際共同研究グループは、「家蚕(かさん)」から4種類、「野蚕(やさん)」から10種類、合計14種類の繭糸(けんし)を用いて材料特性を評価しました。熱重量分析と示差走査熱量分析から、野蚕は家蚕よりも熱的安定性が30℃程度良く、より高温に強いことが分かりました。引張試験では、野蚕は家蚕よりも明確な降伏点が観察されました。つまり、野蚕のシルクに外から力を徐々に加えていった場合、はじめは外力に対して抵抗力が働きますが、急にひずみだけが大きくなる点が存在することを示しています。また、放射光を用いたX線散乱法によって、野蚕は家蚕に比べて、単結晶とみなせる最大の集まりの大きさが1ナノメートル(10億分の1メートル)程度大きいことが分かりました。

その他、国際共同研究グループは、野蚕の熱安定性について、アミノ酸のアラニンの連続配列の割合が大きいほど熱分解温度が高くなる傾向にあることを見出しました(図参照)。また、機械的性質については、側鎖が嵩高いアミノ酸(トリプトファン、チロシン、フェニルアラニンなど)が多くなるほど機械的強度が低下するのに対して、最も単純なアミノ酸のグリシンが多いほど機械的強度が向上することを突き止めました。

本研究の成果は、優れた材料特性を持つシルクの産業利用への貢献、天然シルクを超えた物理的性質を持つ人工シルクの作製へつながると期待できます。

理化学研究所
環境資源科学研究センター バイオマス工学研究部門 酵素研究チーム
チームリーダー 沼田 圭司 (ぬまた けいじ)