広報活動

Print

2016年6月14日

理化学研究所

止血役にはストレスが必要

-巨核球細胞での小胞体ストレスが血小板を生む-

血小板ができるために細胞がバラバラになる

細胞がばらばらになるときに役立つ小胞体ストレス

小胞体は細胞小器官の1つで、膜タンパク質、分泌タンパク質、脂質が合成される場です。合成されたタンパク質は、三次構造、四次構造などの立体構造を形成した後、脂質膜でできた袋に包まれて細胞膜や他の細胞小器官に運ばれます。ところが、小胞体で作られたタンパク質の立体構造がうまく形成されなかったり、構造が壊れたりする場合があります。このようなタンパク質が小胞体に蓄積した状態を「小胞体ストレス」と呼びます。小胞体ストレスの状態になると、立体構造形成不全を起こしたタンパク質が凝集しやすくなるため、細胞にとって負担になるといわれています。

一方、血小板は傷口の止血にとって欠かせない血液成分です。血小板は、骨髄中に存在する前駆細胞の巨核球細胞が多数の突起を持つ胞体突起細胞になり、さらに脱核して数千個の細胞質断片になることで作られます。細胞が変形したり、ばらばらになったりする現象は、細胞の自死現象の1つのアポトーシスに共通しています。アポトーシスは、発生過程での組織作り、古くなった細胞の消失、がん化する可能性のある細胞の除去など、発生や健康の維持にとって重要な現象です。理研の研究チームは、血小板形成とアポトーシスの間の類似性に着目しました。両者に共通して「カスパーゼ族」と呼ばれるタンパク質分解酵素が働き、細胞形態変化を起こすのではないかと考え、そのメカニズムの解明を試みました。

研究チームは、培養した巨核球細胞株から血小板ができる過程を調べました。その結果、カスパーゼ3とカスパーゼ4が活性化していることが分かりました。カスパーゼ4はイニシエーターとして、小胞体ストレスに応答して起動し、カスパーゼ3を活性化させてアポトーシスを起こすことが知られています。研究チームは、血小板が作られるときにも小胞体ストレスが起きている実験的証拠を得ました。また、小胞体ストレスを解消する薬剤やカスパーゼ4の阻害剤があると、血小板が形成されにくくなりました。さらに、小胞体ストレスを増強する薬剤によって、血小板形成効率が上がることを突き止めました。これらの結果により、血小板形成のためには小胞体ストレスとカスパーゼ4の活性化が重要であることが分かりました(図参照)。

本研究は、今後、培養細胞から血小板を大量生産するための技術開発につながると期待できます。

理化学研究所
小林脂質生物学研究室
専任研究員(研究当時) 森島 信裕 (もりしま のぶひろ)
(現:理研伊藤ナノ医工学研究室 専任研究員)
協力研究員(研究当時) 中西 慶子 (なかにし けいこ)
(現:理研脳科学総合研究センター神経膜機能研究チーム 研究員)