広報活動

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2016年6月20日

理化学研究所

ガラス湾曲を利用した微粒子分離

-ナノメートルの隙間を制御して高精度な分離を実現-

要旨

理化学研究所(理研)生命システム研究センター集積バイオデバイス研究ユニットの田中陽ユニットリーダー、太田亘俊テクニカルスタッフらの研究チームは、ガラスの湾曲を利用して2枚のガラス板の間に広がる流路の高さを調整することで、微粒子をサイズごとに高精度に分離する装置を開発しました。

微粒子は、ナノメートル(nm、1nmは10億分の1メートル)から数百マイクロメートル(μm、1μmは100万分の1メートル)サイズの微小な粒子です。印刷用トナーなどの工業製品をはじめ、製薬やバイオテクノロジーの分野、さらに小麦粉や抹茶など食品の分野でも幅広く利用されています。

微粒子の特徴を表すのは、粒子の大きさ「粒子径」です。例えば、舌触りが滑らかな食品は、均一で小さな粒子径の粒子で作られています。薬に使われるマイクロカプセル[1]は、その粒子径によって体への吸収率が左右されます。このように、粒子径は粒子の性質に直結します。従来、粒子径は動的光散乱法[2]電気的検知法[3]などで測定されていましたが、比較的均一な大きさ・組成・形状の試料にしか適用できないという問題がありました。

研究チームは、ガラス基板と薄板ガラスを貼り合わせて高さがnmからμmの小さな隙間を作り、薄板ガラスを湾曲させることで、その隙間の高さを調整し、微粒子をサイズごとに高精度に分離する装置を開発しました。具体的にはまず、ガラス基板に流路(溝)を形成し、その上に厚さ90μmの薄板ガラスを設置しました。このとき、流路出口の高さは36nmでした。次に、ガラス基板と薄板ガラスの間に微粒子を送り込むガラス細管を挟み込みました。そして、薄板ガラスの上に重りを載せ薄板ガラスを下向きに湾曲するようにしたところ、出口から装置内に向かって、流路の高さが緩やかになり、この高さの変化を利用することにより粒子径ごとに微粒子を分離できることが示されました。

この装置の機能を検証するため、粒子径が均一な0.5、1.0、2.0μmのポリスチレン粒子を分散させた液体を使って粒子径ごとに微粒子を分離できるか実験しました。顕微鏡で観察したところ、粒子径が同じ粒子は同じ高さの流路位置で移動を停止し、粒子径に応じて一列に並ぶ様子を観察できました。

本研究は、nm~μmレベルのガラス微細加工に応用でき、軟らかい粒子の測定にも使えるため、細胞小器官や細胞からの分泌物などの微小構造体の分離や解析への応用が期待できます。

本成果は、国際科学雑誌『Journal of Chromatography A』(7月15日号)に掲載されるのに先立ち、オンライン版(6月20日付け)に掲載されます。

※研究チーム

理化学研究所 生命システム研究センター 集積バイオデバイス研究ユニット
ユニットリーダー 田中 陽 (たなか よう)
基礎科学特別研究員 川井 隆之 (かわい たかゆき)
テクニカルスタッフ 太田 亘俊 (おおた のぶとし)
研究補助 小和 百合 (おわ ゆり)

背景

微粒子は、ナノメートル(nm、1nmは10億分の1メートル)から数百マイクロメートル(μm、1μmは100万分の1メートル)サイズの微小な粒子です。印刷用トナーなどの工業製品をはじめ、マイクロカプセルとして製薬やバイオテクノロジーの分野、さらに小麦粉や抹茶に代表されるように食品の分野でも幅広く利用され、生活に欠かせないものとなっています。また、花粉など自然由来の微粒子やPM2.5[4]のように環境汚染を示す指標となる微粒子もあります。

微粒子の特徴を表すのは、粒子の大きさ「粒子径」です。例えば、舌触りの滑らかな食品は、均一で小さな粒子径の粒子でできています。薬に使われるマイクロカプセルは、その粒子径によって体への吸収率が左右されます。このように、粒子径は粒子の性質に直結します。従来、粒子径は動的光散乱法や電気的検知法などの方法によって測定されていましたが、比較的均一な大きさ・組成・形状の試料にしか適用できないという問題がありました。

そこで研究チームは、微粒子をサイズごとに高精度に分離できる装置の開発を目指しました。

研究手法と成果

研究チームは、薄板ガラスとガラス基板を貼り合わせて高さがnmからμmの小さな隙間を作り、薄板ガラスを湾曲させることで隙間の高さを調整し、微粒子をサイズごとに高精度に分離できる微粒子測定装置を考案しました(図1)。

まず、フッ化水素によるガラス基板のエッチング[5]を行い、ガラス基板上に高さの浅い流路を形成しました。そしてガラス基板上に厚さ90μmの薄板ガラスを設置したところ、白色光と単色光照射による干渉縞[6]から、流路出口の高さは平均して36nmであることが分かりました(図2a)。また、微粒子を装置に送り込むため、ガラス製の細管をガラス基板と薄板ガラスの間に挟み込みました。

次に、薄板ガラスの出口側から半分(流路に対して幅18mm、長さ7.5mm)のところに上から220グラムの重りを載せたところ、薄板ガラスが下向きに湾曲しました(図2b)。この湾曲により流路の出口付近(出口から60μmまで)での高さの変化が、重りを載せなかった場合に比べ、14.1%緩やかになり、この高さの変化を利用して微粒子を粒子径ごとに分離できることが示されました(図2c)。また、薄板ガラスを湾曲させた場合、出口付近では出口から装置内部に向けて流路の高さが一次関数的に増加していることが確認されました。そのため、微粒子の流路内での位置から、その粒子径を簡単に計算できることが示されました(図2c)。

この湾曲ガラスを用いた流路装置の機能を検証するため、粒子径が均一な0.5、1.0、2.0μmのポリスチレン粒子をオクチルフェノールエトキシレート[7]水溶液に分散させた液体を用いて実験を行いました。送液ポンプを使ってこの液体を1.0 μℓ/minの速さで装置内に3分間送り込み、その後0.5 μℓ/minの速さで微粒子を含まないオクチルフェノールエトキシレート水溶液でポリスチレン粒子を押し流すと、ポリスチレン粒子はその粒子径に応じて、流路内の一定の位置で流路に挟み込まれ移動を停止しました。同じサイズの粒子は、同じ高さを持つ流路位置で移動を停止するため、粒子径に応じて一列に並ぶ様子が観察されました(図3a)。

続いて、実際のサンプルへの応用の例として、軟らかい粒子を使った粒子径測定に取り組みました。細胞などの軟らかい粒子は、強い圧力をかけると変形してしまい、粒子径が正確に測定できないため、送液時にかかる圧力を制御する必要があります。今回の装置は送液ポンプによる流量調整が簡単に行えるため、圧力による変形を最小限に留めることができると考えられます。

ヒト白血球細胞とマウス胚性幹細胞[8]DAPI[9]で染色し、送液ポンプを使って0.5 μℓ/minの速さで細胞サンプルを装置内に送りこみ、圧力による細胞の変形を抑えました。その結果、流路内で計測された細胞の大きさと、顕微鏡で観察した液滴中の細胞の大きさが近い値を示し、細胞のような軟らかい粒子であっても、正確な粒子径が測定できることを実証しました(図3b)。

今後の期待

本研究では、薄板ガラスの湾曲を利用することでマイクロ・ナノ空間の調製が可能であることが示されました。今後、マイクロ~ナノメートルレベルでガラスを微細加工する技術への応用が考えられます。また、この装置は細胞小器官や細胞からの分泌物などの微小構造体の分離や解析への応用が期待できます。

原論文情報

  • Nobutoshi Ota, Yuri Owa, Takayuki Kawai, Yo Tanaka, "Micro/nanoparticle separation via curved nano-gap device with enhanced size resolution", Journal of Chromatography A, 10.1016/j.chroma.2016.05.064

発表者

理化学研究所
生命システム研究センター 細胞デザインコア 合成生物学研究グループ 集積バイオデバイス研究ユニット
ユニットリーダー 田中 陽 (たなか よう)
テクニカルスタッフ 太田 亘俊 (おおた のぶとし)

田中陽ユニットリーダーの写真

田中 陽

太田亘俊テクニカルスタッフの写真

太田 亘俊

報道担当

理化学研究所 広報室 報道担当
Tel: 048-467-9272 / Fax: 048-462-4715
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補足説明

  1. マイクロカプセル
    粒子状の微小な容器。通常、粒径は数μmから数百μm。内部に含んだ薬剤が目的地(患部など)に届く前に分解されることを防ぎ、薬剤の効果を高める働きをする。
  2. 動的光散乱法
    液中に分散した微粒子にレーザー光を照射し、その散乱光から微粒子の拡散速度を求め、粒子径を計算する粒子径測定法。
  3. 電気的検知法
    二つの電極間にある細い流路を微粒子が通過する際、電極間の電気抵抗が変化する。微粒子が既知の電気抵抗値や組成を持つ場合、高精度に粒子径を測定することができる。
  4. PM2.5
    大気を漂う粒子状の物質で、粒径が2.5μm以下のもの。微小なため吸い込むと肺の奥まで入りやすく、ぜんそくや肺がんを引き起こす危険性がある。自動車の排ガスや工場のばい煙などに含まれる。
  5. エッチング
    フッ化水素を使用してガラスを溶かし、微細な溝などをガラスに彫る技術。
  6. 干渉縞
    干渉は、二つの光波がある1点で重なるとき、互いに強め合って明るい領域(明線)、または弱めあって暗い領域(暗線)を作る現象。干渉により明線・暗線が生じることによりできる縞模様を干渉縞と呼ぶ。
  7. オクチルフェノールエトキシレート
    鎖状で親水性のポリオキシエチレンと疎水性のオクチルフェノール基が結びついた非イオン性界面活性剤。
  8. 胚性幹細胞
    ほ乳類の着床前胚(胚盤胞)に存在する内部細胞塊から作製した細胞株で、身体を構成するすべての種類の細胞に分化する能力(多能性)を持つ。マウス、サル、ヒトなどから樹立されており、未分化なまま試験管内で培養して無限に増やすことができる多能性幹細胞の一つ。
  9. DAPI
    青色に蛍光する色素で、DNAに対して結合する。細胞の染色にも広く使われ、蛍光顕微鏡観察に利用される。

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ガラス湾曲を利用した微粒子測定装置の図

図1 ガラス湾曲を利用した微粒子測定装置

(a)ガラス製微粒子測定装置の全体図。送液ポンプから送り込んだ微粒子が、微粒子測定流路で粒子径ごとに分離される。観察は下側から顕微鏡で行う。

(b)微粒子測定流路の構造。高さ36nmの流路を彫ったガラス基板の上に薄板ガラスを貼り合わせ、2枚のガラス板の間に微粒子を送り込むガラス細管を挟み込む。ガラス基板の流路は、0.8%のフッ化水素と20%の硝酸を含む水溶液を用いたエッチングにより形成した。

(c)実際の微粒子測定流路部を真上からみた写真。流路の幅(紙面上から見て縦)は約18mm、長さ(紙面上から見て横)は約15mmである。流路出口付近には、薄板ガラスが持ち上がるのを防ぐため、ポリイミドでできた黄色のシール(厚さ60μm)が貼ってある。このシールには数百μmサイズの流路出口の穴が1~数カ所開けてあり、ここから溶媒のオクチルフェノールエトキシレート液が流出する仕組みとなっている。写真の流路出口の穴は150μmほどの大きさ。

測定流路の高さの解析結果の図

図2 測定流路の高さの解析結果

(a)微粒子測定流路に、白色光または単色光を当てた場合の干渉縞の様子。照射する光の違いにより、異なる干渉縞のパターンがみられるため、流路の高さを干渉縞から計算できる。

(b)微粒子測定流路の高さ。重りを載せていない場合(赤の実線)に対して、上から220グラムの重りを載せた場合はガラス湾曲により流路の高さが変化すると予測された(黒の破線)。実際に流路の高さを測定したところ、下向きにガラスの湾曲がみられた(青の実線)。

(c)微粒子測定流路の出口付近(出口から60μmまで)での高さ。重りを載せた場合(青の点線)の高さの変化(傾き)は、重りを載せなかった場合(赤の点線)に比べて、14.1%緩やかになった。黒の破線は重りを載せた場合の理論的な予測だが、一次関数的な変化がみられる。そのため、微粒子の流路内での位置から、その粒子径を簡単に計算できる。

測定流路での微粒子計測結果の図

図3 測定流路での微粒子計測結果

(a)粒子径の均一な0.5、1.0、2.0μmのポリスチレン粒子を測定流路に送り込み、蛍光顕微鏡で観察した様子。粒子径が同一である場合、写真のように粒子が一列に並ぶ。左側が測定流路の出口、右側がガラス細管の方向である。

(b)細胞の大きさを測定した結果。ヒト白血球細胞の大きさを微粒子測定流路で計測した場合(緑色)と顕微鏡観察時の写真から計測した場合(灰色)、マウス胚性幹細胞の大きさを微粒子測定流路で計測した場合(青色)と顕微鏡観察時の写真から計測した場合(黄色)ともに、異なる測定法から近似した細胞の大きさの分布が得られた。

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