広報活動

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2016年6月27日

理化学研究所

免疫を活性化させるミクロシナプス構造を発見

-外敵を検知したT細胞のミクロの接着力が免疫応答を増強-

要旨

理化学研究所(理研)統合生命医科学研究センター免疫シグナル研究グループの斉藤隆グループディレクター、多根(橋本)彰子上級研究員らの研究チームは、外敵を検知したT細胞が、接着分子の小さなリング構造を作って接着を増強することにより、T細胞の活性化を誘導することを発見しました。

私達の体は、細菌、ウイルス、寄生虫といった病原体や、花粉、ダニなどの異物に常にさらされています。体内に侵入した異物(抗原[1])は、免疫細胞の一種の樹状細胞[2]などに取り込まれ分解されます。樹状細胞はリンパ節に移動し、免疫の司令塔であるT細胞と接着して、抗原をT細胞に提示します。T細胞は抗原をT細胞受容体(TCR)[3]で検査し、その結合力が強ければ有害と判断し、活性化して抗原を排除する免疫反応を起こします。一方、TCRとの結合が弱ければ無害と判断し、活性化せず免疫も働きません。したがって、TCRの感受性が上がり過ぎると本来無害な抗原にも免疫が働いて自己免疫疾患[4]やアレルギー疾患を起し、感受性が下がり過ぎると、免疫が働かず感染症を起こします。また、T細胞と樹状細胞の接着の強さはTCRの感受性とT細胞活性化の度合いを調節しています。細胞間接着分子のインテグリン[5]をブロックして接着を弱めると、TCRの感受性が下がり免疫反応が弱くなることが知られています。しかし、細胞接着がTCRの働きを調節する仕組みはよく分かっていませんでした。

研究チームは、2005年にTCRが抗原と結合してT細胞を活性化するときに、TCRが100個程度集まったクラスター(TCRミクロクラスター)を数多く作り、そこにシグナル分子[6]を集めて活性化を引き起こすユニットになっていることを報告しました。今回はさらに、それぞれのTCRミクロクラスターをインテグリンなどの接着分子がリング状に取り囲む構造「ミクロシナプス」を発見しました。この接着分子リングはT細胞の活性化初期の接着力を強めて、TCRの感受性とT細胞の活性化を増強する働きをすることが分かりました。

今後、接着分子リングを標的とした薬剤を開発することで、T細胞による免疫反応の感受性と強弱を調節できる可能性が示されました。

本研究は、米国の科学雑誌『Journal of Experimental Medicine』に掲載されるのに先立ち、オンライン版(6月27日付け:日本時間6月27日)に掲載されます。

背景

免疫とは敵から体を守る防衛機構です。細菌、ウイルス、寄生虫といった病原体や、花粉、ダニなど外部からの侵入物、腫瘍など体内で発生した有害物は、免疫が異物として認識し排除します。これらの異物(抗原)に対して、まず免疫細胞の一種の樹状細胞などが反応を開始し、さらにそれを検知したT細胞が活性化してさまざまな免疫反応を起こします。特に、T細胞が活性化して始まる反応は「獲得免疫」と呼ばれ、抗原を特異的に排除するだけでなく、ワクチン効果[7]にみられるような恒久的な免疫力、つまり抵抗性の獲得につながる高度で重要な反応です。

T細胞の活性化は、主に樹状細胞との接触によって始まります。皮膚や粘膜に存在する樹状細胞は異物を取り込んで分解し、リンパ節に移動して、T細胞に異物の断片を抗原として提示します。T細胞は、表面に持つT細胞受容体(TCR)で樹状細胞が持ってきた抗原を検査し、TCRと強く結合した抗原を有害と判断し、活性化して増殖します。増殖したT細胞は、ヘルパー細胞になって抗体産生を促したり、キラー細胞になって感染細胞を殺したりして、異物を排除します。このとき働いたT細胞の一部は長く生き続け、その異物への抵抗力となります。一方、TCRとの結合が弱い抗原は無害と判断し、T細胞は活性化しません。TCRの感受性が高くなり過ぎると、本来無害な抗原も有害と判断されてT細胞が活性化し、自己免疫疾患やアレルギー疾患などを誘発します。逆に、TCRの感受性が低くなり過ぎると、多くの抗原が見逃されてT細胞が働かず免疫不全が生じ、侵入した細菌やウイルスが増殖して感染症を引き起こします。

研究チームは2005年に、TCRが結合力の強い抗原と結合すると、樹状細胞との間にTCRが100個程度集まったクラスター(TCRミクロクラスター)を数多く作ることを発見しました注1)。それぞれのTCRミクロクラスターには、種々のシグナル分子が集まりT細胞の活性化を引き起こします。やがてTCRは中央に集まって大きな集合体を作ります。そして、細胞接着分子インテグリンの一種であるLFA1がTCR集合体の周りを同心円状に取り巻く「免疫シナプス」[8]と呼ばれる構造を形成しました注2)図1)。

インテグリンLFA1はT細胞に、インテグリン結合分子ICAM1は樹状細胞に発現し、それらの結合が細胞間接着を促します。LFA1による接着を阻害するとT細胞の活性化が抑制さることから、接着がT細胞活性化に重要なことは知られていました。しかし、最初にTCRが抗原を検知して判断するときの接着分子の役割は明らかにされていませんでした。

注1)2005年11月7日プレスリリース「免疫応答のスタートポイントを発見
注2)2011年6月24日プレスリリース「免疫応答開始に必要な免疫シナプスを形成するメカニズムを発見

研究手法と成果

研究チームは、抗原とLFA1結合分子ICAM1を含む人工脂質膜[9]を樹状細胞の代わりとして使用し、T細胞が接着してTCRが抗原に結合するときのTCRやシグナル分子を全反射照明蛍光顕微鏡[10]を用いて観察し、分子の集合や動きからT細胞が活性化する仕組みを研究しています。

本研究ではまず、上述のシステムでTCRと抗原が結合した瞬間のT細胞の接着分子の様子を調べました。その結果、TCRミクロクラスターの形成とほぼ同時に、インテグリンLFA1や、LFA1と一緒に働く接着斑[11]構成分子paxillin、Pyk2などの接着分子がTCRミクロクラスターを囲むように「接着分子リング」を作ることを発見しました(図2)。このTCRミクロクラスターを接着分子リングが取り巻く構造は、LFA1がTCR集合体を取り囲む「免疫シナプス」と似ており、ミクロなスケールの免疫シナプス構造といえます。したがって研究チームは、この構造を「ミクロシナプス」と呼ぶことにしました。また、TCRと抗原が結合した後、TCRミクロクラスターは5分以内に接着面の中心へ移動しましたが、接着分子リングはそれよりも早く2分程度で消失しました。ミクロシナプスの形成は一過性の現象であることが分かりました。

次に、人口脂質膜に添加する抗原や結合分子ICAMの濃度を変えて、TCRミクロクラスターや接着分子リングの形成に与える影響を調べました。その結果、抗原濃度を低くし、結合力を弱めるとTCRミクロクラスターの形成は減りましたが、接着分子リングの形成は変わりませんでした(図3左)。また、結合力が弱いとミクロシナプスの形成が長く続いたことから、ミクロシナプスはT細胞の活性化(特に弱い刺激の時)をサポートし、TCRの感受性を上げていると考えられました。

一方、T細胞側の接着分子インテグリンと接着するICAM1の濃度を下げて接着を弱めると、TCRミクロクラスターの形成は変わらないのに、接着分子リングの形成とシグナル分子であるSLP76の活性化クラスターが減少しました(図3右)。このことから、インテグリンの結合が接着分子リングの形成と一部のTCRシグナル分子の活性化に必要であることが分かりました。

次に、接着分子リングがT細胞活性化に及ぼす影響を調べるため、shRNA[12]を用いて接着斑構成分子PaxillinとPyk2の両方の発現を抑制したところ、接着分子リングが減少しました。その結果、TCRミクロクラスターの形成と細胞増殖を促すErkキナーゼを含むシグナル分子の活性化が減少し、T細胞の活性化が抑制されました。これらの結果から、接着分子リングは、TCRミクロクラスターを囲んだミクロシナプスの構造を作ることで、TCRミクロクラスターの集合構造と機能の両面をサポートし、T細胞活性化を誘導していることが分かりました(図4)。

TCRと抗原が結合した瞬間に観察されたミクロシナプスは、特にTCRと抗原の結合力が弱い場合に接着分子の活性に依存して持続的に形成され、一部のシグナル分子を活性化しました。さらに、ミクロシナプスの形成を抑えるとT細胞活性化も抑えられたことから、接着分子リングによる強い接着力がTCRの感受性を上昇させ、T細胞活性化を助けていることが分かりました。

今後の期待

TCRの感受性は、高すぎても低くすぎても疾患につながります。本研究から、ミクロシナプスにおいてインテグリンや接着斑構成分子が、TCRの感受性とT細胞の活性化を調節する有望なターゲットになることが分かりました。将来的に、これらの接着分子を調節する薬剤でT細胞活性化の調節ができると期待できます。

原論文情報

  • Hashimoto-Tane, A. Sakuma, M. Ike, H. Yokosuka, T. Kimura, Y. Ohara, O. and Saito, T., "Micro adhesion rings surrounding TCR microclusters are essential for T cell activation", Journal of Experimental Medicine, doi: 10.1084/jem.20151088

発表者

理化学研究所
統合生命医科学研究センター 免疫シグナル研究グループ
グループディレクター 齊藤 隆 (さいとう たかし)
上級研究員 多根(橋本) 彰子 (たね(はしもと) あきこ)

報道担当

理化学研究所 広報室 報道担当
Tel: 048-467-9272 / Fax: 048-462-4715

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補足説明

  1. 抗原
    樹状細胞やマクロファージによって取り込まれた異物は、分解されて断片になりMHC分子と複合体を作り、この複合体をT細胞の抗原受容体が認識する。リンパ球が検出するターゲットになると、抗原と呼ばれる。
  2. 樹状細胞
    皮膚組織や粘膜に存在し、表面に多くの突起を持つ免疫細胞。異物を取り込んで活性化するとサイトカインを放出したり、リンパ節に移動してT細胞に抗原を提示したりする。ナイーブT細胞は、樹状細胞によって初めて活性化される。
  3. T細胞受容体(TCR)
    T細胞の表面にあり、抗原に結合する分子。各T細胞がそれぞれ異なる特異性のTCRを持ち、多様な外敵に対応できるようになっている。TCRが結合するのは抗原単独ではなく、抗原とMHC(主要組織適合遺伝子複合体)分子の複合体である点が、抗体と異なる。抗原の検知によって活性化し、シグナル分子を集め、T細胞の遺伝子発現や細胞分裂を促す。
  4. 自己免疫疾患
    免疫反応は生体防御のために、外敵を検知して排除する。しかし、自分の成分に対しても反応を起こしてしまい、T細胞や抗体が自分を攻撃して発症する疾患。Ⅰ型糖尿病、関節リウマチなどがある。
  5. インテグリン
    多くの細胞表面に発現する細胞間接着分子。多くの種類があり、相手のリガンドの種類と発現細胞や結合する細胞やマトリックスによって接着の特異性が決まる。リンパ球の接着を広く担っている。
  6. シグナル分子
    外部からの刺激を次の現象につなげる情報伝達を担う分子。TCRの場合、TCRが抗原と結合すると集まってくるZAP70キナーゼやSLP76アダプター分子などの分子群のことを指し、遺伝子発現や細胞増殖・細胞分化などを誘導する。
  7. ワクチン効果
    特定の抗原に対する免疫反応を、リンパ球が記憶していて、二度目に抗原が侵入した際には、すばやく強い免疫応答を起こすことができること。
  8. 免疫シナプス
    樹状細胞が提示する抗原をT細胞が検知して活性化し、数分経つと両方の細胞の境界に観察される特殊な構造。TCRが中央に集まり、そのTCRの外側をインテグリンがドーナツ状に取り巻く構造をとる。
  9. 人工脂質膜
    細胞膜は、グリセロール脂質やスフィンゴリン脂質を主成分とした脂質二重膜に膜タンパク質が加わってできている。人工脂質膜は、それを真似るように脂質膜を人工的に調整し、それに膜タンパク質を埋め込んだもの。
  10. 全反射照明蛍光顕微鏡
    蛍光顕微鏡は、蛍光分子でラベルした細胞や分子の場所や動きを観察する。全反射照明蛍光顕微鏡は、レーザー光をガラス面で反射させたときにガラスの反対側に滲みだす微量な光であるエバネッセント照明を用いた蛍光顕微鏡で、試料のレンズに近いところだけを感度良く観察することが出来る特徴を持つ。
  11. 接着斑
    細胞間接着の構造の一種で、細胞同士が、杭を打ったかのように局所的に強固に接着している箇所の名称。接着斑に関与する分子としてFアクチン、Paxillin、Pyk2、などがある。
  12. shRNA
    DNAに保管された遺伝情報は、メッセンジャーRNAに読み取られてからタンパク分子が合成され機能を発揮する。shRNAは小さなRNAであり、配列を選んで細胞内に存在させると、その配列が結合するメッセンジャーRNAを分解させ、特定の分子の合成を特異的に阻害することができる。

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ミクロクラスターと免疫シナプスの図

図1 ミクロクラスターと免疫シナプス

TCRが結合力の強い抗原(抗原提示細胞)と結合すると、樹状細胞との間にTCRが100個程度集まったクラスター(ミクロクラスター)を数多く作り、そこから細胞が活性化される(左)。やがてミクロクラスターは接着面の中央に集まり、10分後には中心部分にTCRが集まる免疫シナプスを形成する(右)。

接着分子Ryk2、受容体TCR、重ね合わせの全反射照明蛍光顕微鏡写真

図2 TCRミクロクラスターを囲む接着分子リング「ミクロシナプス」の発見

T細胞の初期活性化の全反射照明蛍光顕微鏡写真。抗原を検出したT細胞受容体(TCR)は、接着面に数多くのTCRミクロクラスターを作り(中央、赤)、接着分子Pyk2はそれぞれのTCRミクロクラスターを囲むリング構造(左、緑)をとった。右は、TCRミクロクラスターと接着分子Pyk2を重ね合わせた画像である。それぞれの赤いTCRミクロクラスターを緑の接着分子Pyk2が取り囲んでリングを形成している様子「ミクロシナプス」がみてとれる。

接着分子リングのインテグリン依存性の図

図3 接着分子リングのインテグリン依存性

左: 抗原の濃度を低くすると、TCRミクロクラスターの密度は減少するが、接着分子リング(Pyk2リング)の密度は変わらない。

右: インテグリンと接着するICAM1を減らすと、TCRミクロクラスターの密度は変わらず、接着分子リング(Pyk2リング)とシグナル分子(SLP76)の密度が減少する。

ミクロシナプスによるT細胞の感度と活性化の増強の図

図4 ミクロシナプスによるT細胞の感度と活性化の増強

T細胞表面のTCR(赤)が抗原と結合すると、TCRミクロクラスターを形成する。TCRミクロクラスターは、接着分子(緑)や接着斑構成分子(青)にサポートされて活性化分子クラスターを維持し、T細胞を活性化するシグナルを送る。TCRはやがて中央に集まり、「免疫シナプス」と呼ばれる構造をつくる。接着分子リングに囲まれたTCRミクロクラスターの構造を「ミクロシナプス」と呼ぶ。

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