広報活動

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2016年7月9日

理化学研究所
東京大学

酸化物界面を用いたスキルミオン制御

-界面作製技術による低消費電力エレクトロニクスに向けて-

界面に由来するスキルミオン生成の概念図

界面に由来するスキルミオン生成の概念図

淡橙色の層が強磁性体のルテニウム酸化物、その上の水色の層が強いスピン-軌道相互作用を示すイリジウム酸化物。左図のように強磁性体の層が厚いときは、界面(黄緑色の線)の効果が強磁性に勝てないため、スピン(橙色の矢印)をひねることができない。一方、右図のように強磁性体の層が薄くなると、界面のジャロシンスキー・守谷相互作用によりスピンにひねりが生まれ、スキルミオン(スピンの渦状構造)が生成される。

「スキルミオン」は、磁石の中で多くのスピン(電子の自転運動)が渦状に並んだ磁気構造体です。渦の大きさ(直径)は数ナノメートル(nm、1nmは10億分の1m)~数百nmと極小です。スキルミオンは50年ほど前に素粒子物理学で、理論的に導入された仮想粒子でしたが、2010年に理研の研究チームがその直接観測に成功しました。以降、スキルミオンは固体中で安定な粒子として振る舞い、低い電流密度で駆動できるなど、磁気メモリとしての応用に適した特性を持つことが分かってきました。従来の磁気メモリは、強磁性体(磁石)の磁化の向きを1、0に対応させ、記憶素子として用います。スキルミオンの場合は、スキルミオンの有無を1、0に対応させ、記憶素子とします。

スキミルオンの生成には、強磁性体のスピン同士に“ひねり”を加える「ジャロシンスキー・守谷相互作用」が有効だと考えられていますが、バルク物質(塊の状態)では特殊な対称性を持つ結晶構造が必要であり、なかなか実現できませんでした。

そこで今回、理研の科学者を中心とした共同研究グループは、強磁性体のルテニウム酸化物(SrRuO3)の層(厚さ1.6~2.8nm)の上に、強いスピン-軌道相互作用を持つイリジウム酸化物(SrIrO3)の層(厚さ約0.8nm)を積み重ねた高品質な薄膜界面構造を作製しました。スピン-軌道相互作用とは、電子の自転運動によって生じるスピン角運動量と、電子が原子核の周りを周回することによって生じる軌道角運動量との間に働く相対論的相互作用のことです。この界面では、強いスピン-軌道相互作用と空間反転対称性の破れの組み合わせにより、大きなジャロシンスキー・守谷相互作用が期待されます。

次に、薄膜の上側のイリジウム酸化物層の厚さは一定にし、下側の強磁性体層の厚さを変化させながら、スキミルオンの生成を示す数値を測定したところ、強磁性体が極めて薄いとき(厚さ1.6~2.4nm)にのみスキミルオンが実現していることが分かりました(図参照)。また、界面を考慮した数理モデルを用いて磁気構造の安定性を計算したところ、膜厚依存性を含めた実験結果とよく一致し、界面由来のジャロシンスキー・守谷相互作用がスキルミオン生成に有効であることが明らかになりました。今回の実験から見積もったスキルミオンの大きさは、およそ10nmでした。

理化学研究所
創発物性科学研究センター 強相関物理部門 強相関界面研究グループ
専任研究員 松野 丈夫 (まつの じょうぶ)
グループディレクター 川﨑 雅司 (かわさき まさし)
(東京大学大学院工学系研究科教授)

創発物性科学研究センター 強相関物理部門 強相関物性研究グループ
グループディレクター 十倉 好紀 (とくら よしのり)
(東京大学大学院工学系研究科教授)