広報活動

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2016年7月11日

理化学研究所

細胞を活性化できるチタン

-貝の接着から学ぶ-

チタンプレートに固定化されたIGF-1の細胞増殖促進活性

図 チタンプレートに固定化されたIGF-1の細胞増殖促進活性

ムラサキイガイは、食用にされる場合にはムール貝とも呼ばれる二枚貝です。殻長は5cm程度で、腹側の殻の隙間から足糸(そくし)と呼ばれる粘性の分泌物を何本も出して、体を海中の岩場などに固定します。足糸の主要成分は「接着タンパク質」です。足糸は非常に強靭で、接着力も強いため、容易に剥がすことはできません。

一方、チタンは、比重が鉄とアルミニウムの中間程度の軽い金属です。また、比重の割には強度が高く、特にチタン合金は実用金属の中でも最大級の比強度(密度当たりの引っ張り強さ)があります。さらに、チタン材の表面に形成される酸化チタンは非常に安定で侵されにくく、白金や金とほぼ同等の強い耐食性を示します。そのため、チタンは人工臓器の材料(生体材料)として、例えば人工関節、歯科インプラントなどに実用化されています。金属やセラミックスなどの無機材料は、強度については十分ですが、移植後の生着に長い時間を要し、その間に感染症を引き起こして生着しない場合もあります。また、代謝機能がないため、加齢に伴い、劣化や不具合が生じるなどの問題があります。この問題を解決するためには、無機材料の表面にタンパク質を固定化する手法がありますが、従来法では生体親和性があまり高くありませんでした。そこで、今回、理研の科学者を中心とする国際共同研究グループは、ムラサキイガイの接着性に注目しました。

ムラサキイガイの接着性の源となるのは、ドーパ(DOPA)と呼ばれる化合物です。DOPAは天然アミノ酸のチロシンに水酸基(-OH)が一つ付加した化合物で、水酸基が多い分チロシンよりも水素結合が強くなるため、さまざまな物質に接着できると考えられています。遺伝子組換え技術と酵素法によって、成長タンパク質IGF-1のC末端にムラサキイガイ由来の接着性ペプチドをつなげた「IGF-1-X-K-X-K-X(X=DOPA、K=リシン)」を作り出すことに成功しました。この新しいタンパク質の効果を調べたところ、チタンに強く結合し、マウス細胞の増殖を活性化する効果を持つことが分かりました(図参照)。さらに、作製した接着性ペプチドはチタン表面に固定化されるため、細胞内への取り込みが抑制される結果、長期間にわたり細胞成長刺激を与えることができることも分かりました。

今後、本成果は、再生医療や医療機器開発などの分野で貢献する方法になると期待できます。

理化学研究所
主任研究員研究室 伊藤ナノ医工学研究室
国際プログラム・アソシエイト 張 晨 (ジャン チェン)
専任研究員 宮武 秀行 (みやたけ ひでゆき)

創発物性科学研究センター 超分子機能化学部門 創発生体工学材料研究チーム
チームリーダー 伊藤 嘉浩 (いとう よしひろ)

主任研究員研究室 佐甲細胞情報研究室
研究員 稲葉 岳彦 (いなば たけひこ)