広報活動

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2016年7月20日

理化学研究所
東京大学
東北大学金属材料研究所

光照射だけでスピン偏極電流が発生する磁性トポロジカル絶縁体

-高速スピントロニクスへの応用に前進-

ゼロ電場光電流の励起波長依存性の図

ゼロ電場光電流の励起波長依存性

現在、電子の持つ電荷とスピンの両方を利用する新しい電子工学で、次世代の省電力・不揮発性の電子素子の動作原理を提供すると期待されている「スピントロニクス」の研究が進展しています。そのような中、スピントロニクス応用への有力な候補の一つが「トポロジカル絶縁体」です。

トポロジカル絶縁体は、内部は絶縁体であるにもかかわらず、表面にはスピン(電子の自転運動)の向きが揃った(スピン偏極した)ディラック電子が流れており、金属のように電気伝導を示します。通常は、逆向きにスピン偏極した電子も流れているため磁性を示しませんが、電流を流すと特定の向きのスピン密度が増加して、磁気的性質が変化します。この変化をスピントロニクスに応用したいのですが、電流を流すことで熱が発生してエネルギーが逃げてしまうという欠点があります。

一方で、物質が光を吸収することで電子の運動状態が変化したときに生じる電流を「光電流」といいます。発生した光電流のスピンが揃っている場合は、スピン偏極光電流と呼ばれます。もし、トポロジカル絶縁体に電流を流すことなく、光照射だけでスピン偏極光電流を発生させることができれば、省電力かつ高速のスピン偏極光電流源としての応用が期待できます。

今回、理化学研究所の科学者を中心とした共同研究グループは、磁性元素Cr(クロム)を添加したトポロジカル絶縁体Cr0.3(Bi0.22Sb0.78)1.7Te3(Bi:ビスマス、Sb:アンチモン、Te:テルル)の薄膜を作製しました。膜の組成や厚みを工夫し光応答を最適化すると同時に、添加した磁性元素Crとディラック電子状態との強い相互作用を利用しました。その結果、薄膜に直線偏光の赤外線パルス光を照射し外部磁場をかけると、6マイクロアンペア(100万分の6A)という大きな光電流が流れました。また、0.25電子ボルトの光を照射したときに、光電流が最大となることが分かりました(図参照)。

今後、光電流を用いた磁化反転などを利用することで、省電力の磁気メモリデバイスや高速磁気情報制御が実現する可能性があります。

理化学研究所
創発物性科学研究センター 統合物性科学研究プログラム 創発光物性研究ユニット
ユニットリーダー 小川 直毅 (おがわ なおき)

創発物性科学研究センター 強相関物理部門 強相関物性研究グループ
グループディレクター 十倉 好紀 (とくら よしのり)
(東京大学大学院工学系研究科教授)
研修生 安田 憲司 (やすだ けんじ)
(東京大学大学院工学系研究科博士課程1年)

創発物性科学研究センター 強相関物理部門 強相関界面研究グループ
グループディレクター 川﨑 雅司 (かわさき まさし)
(東京大学大学院工学系研究科教授)

創発物性科学研究センター 強相関物理部門 強相関量子伝導研究チーム
基礎科学特別研究員 吉見 龍太郎 (よしみ りゅうたろう)