広報活動

Print

2016年7月22日

理化学研究所
東京大学

分子モーターの「バックギア」を解明

-細胞分裂をつかさどるキネシンが微小管を逆走する仕組み-

逆行性キネシン-微小管複合体のクライオ電子顕微鏡による構造解析の図

図 逆行性キネシン-微小管複合体のクライオ電子顕微鏡による構造解析

微小管の上をマイナス端(左側)に歩く逆行性キネシン(青)。右図は、逆行性キネシンの拡大図。

生きものの特徴の一つは、「動く」ことです。動物はもちろん、一見動いていないように見える植物でも、細胞の中ではさまざまな分子が動き回っています。これらのマクロな動きやミクロな動きは、化学反応のエネルギーを運動エネルギーに変換する特別なタンパク質、「分子モーター」によって支えられています。分子モーターの一種キネシン(kinesin: 運動、分裂をさすkinesisより)は、哺乳類では45種類見つかっており、細胞内の運び屋として中心的な役割を担っています。例えば神経細胞は、軸索を含めた細胞の長さが1mにもなる場合があります。軸索の中では、「微小管」と呼ばれるタンパク質でできたレールの上をキネシンが移動して、必要な分子をシナプスの先端まで運んでいるのです。またキネシンは、細胞が分裂するときにも大事な役割があります。細胞分裂では、微小管が集まってできた紡錘体が、染色体を正しく娘細胞に分配します。このときキネシンは、微小管を正しく並べたり、染色体の移動を牽引したりしています。

微小管は「プラス端」と「マイナス端」という方向性を持ち、ほとんどのキネシンはプラス端側に動きます。しかしごく少数のキネシンは、この一方通行のレールをマイナス端側に逆走できます。細胞分裂では、これら2種類のキネシンが共同して働くことで、染色体の整列が可能になります。これまで、プラス端側に動くキネシンの駆動メカニズムはよく調べられていましたが、逆向きへ動くキネシンの分子メカニズムはほとんど分かっていませんでした。

理研と東京大学の共同研究グループは、キネシンタンパク質を構成するたった5つのアミノ酸配列が、動く方向を切り替える働きをしていることを突き止めました。さらに、クライオ電子顕微鏡と呼ばれる特殊な電子顕微鏡と、X線結晶解析による立体構造解析を駆使し、キネシンタンパク質の動きを逆転させる仕組みを解明しました(図参照)。アミノ酸配列のわずかな違いで「バックギア」を進化させた生命の巧妙な戦略には、感心するばかりです。分子モーターの構造・機能をさらに深く知ることができれば、ミクロの世界で自由自在に動くナノマシンの実現も夢ではないかもしれません。