広報活動

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2016年8月18日

理化学研究所

高分子量バイオプラスチックを生産する海洋性の光合成細菌

-生分解性や生体適合性を持つプラスチックの実用化へ前進-

要旨

理化学研究所(理研)環境資源科学研究センター酵素研究チームの沼田圭司チームリーダー、樋口美栄子研究員らの共同研究チームは、海洋性の光合成細菌[1]が高分子量のポリヒドロキシアルカン酸(PHA)を生産することを発見しました。

PHAは微生物が体内に生産するバイオプラスチック[2]の一種であり、生物が貧栄養時に備える炭素やエネルギーの貯蔵物質です。生分解性や生体適合性などの特性を持つことから、PHAは石油由来のプラスチックの代替材料として注目を集めています。これまでの研究により、光合成細菌がPHAを生産することが既に報告されていましたが、そのほとんどが淡水性の光合成細菌によるものでした。共同研究チームは、海水を培地として利用できること、また高塩濃度での培地により他の細菌の混入を減らすことができるという観点から応用展開が期待される海水性の光合成細菌に注目しました。

まず、共同研究チームは、海洋性の光合成細菌である12株の紅色硫黄細菌[3]紅色非硫黄細菌[4]のPHA生産能を検証し、全ての種類の光合成細菌がPHAを生産することを発見しました。また、人工海水[5]を培地として用いたPHA生産も可能であることを示しました。さらに、生産されたPHAの性質を調べたところ、一部の紅色硫黄細菌、紅色非硫黄細菌が非常に高い分子量のPHAを合成していることが分かりました。

PHAの抽出や精製過程において分子量が低下することが報告されていることから、今回のような高分子量のPHAは非常に有用な材料といえます。また、高分子量のPHAでは、引張り強度や再延伸性などの物性も向上します。今後、二酸化炭素からのPHA生産を最適化することにより、より環境負荷の低いプラスチック生産が期待できます。

なお、本研究は革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)「セレンディピティの計画的創出による新価値創造」(研究開発責任者:沼田圭司)の支援を受けて実施されました。

本研究は、米国のオンライン科学雑誌『PLoS ONE』(8月11日付け)に掲載されました。

※共同研究チーム

理化学研究所 環境資源科学研究センター
酵素研究チーム
チームリーダー 沼田 圭司 (ぬまた けいじ)
研究員 樋口 美栄子(ひぐち みえこ)
研究支援パートタイマー 森崎 久美子(もりさき くみこ)

質量分析・顕微鏡解析ユニット
上級研究員 豊岡 公徳 (とよおか きみのり)

背景

化石燃料の使用による二酸化炭素排出量の削減や化石燃料の枯渇を防ぐという観点から、石油由来のプラスチックの代替材料として、生物由来のバイオプラスチックが注目されています。バイオプラスチックの一種であるポリヒドロキシアルカン酸(PHA)は、生分解性や生体適合性などの特性を持ち、有用な生体材料となることも期待されています。

PHAは、微生物が栄養飢餓に備えて細胞内に蓄積する炭素やエネルギーの貯蔵物質であり、多くの微生物によって合成されることが知られています。炭素源として光合成産物を利用するという観点で、高等植物やシアノバクテリア(ラン藻)を用いたPHA生産の研究が進められてきました。しかしこれまでのところ、これらの生物が生産するPHAの量はそれほど多くありませんでした。。一方、非酸素発生型光合成細菌(光合成細菌)は比較的高いPHA生産能が報告されていましたが、研究に用いられている株は限られており、そのほとんどが淡水性の光合成細菌によるものでした。

海洋性の細菌によるPHA生産についての研究は、それほど多く行われていません。しかし、高塩濃度での培養となるため他の細菌の混入を減らすことができ、また地球上に大量に存在する海水を培地として利用できるという応用展開を目指す上での大きな利点が考えられます。そこで共同研究チームは、PHA生産の宿主株として海洋性の光合成細菌に注目しました。

研究手法と成果

まず、共同研究チームは、海洋性の光合成細菌である紅色硫黄細菌3株、紅色非硫黄細菌9株を用いてPHA生産能を検証しました。光合成細菌は窒素成分を欠乏させた培地(窒素欠乏培地)で培養することによって、PHAを生産することが報告されています。そこで、窒素欠乏培地に炭素源として酢酸(CH3COOH)と重曹(炭酸水素ナトリウム、NaHCO3))を添加し、12株の光合成細菌を培養しました。それぞれの株のPHA生産量をガスクロマトグラフ質量分析計(GC-MS)[6]により測定し、通常の生育培地と窒素制限培地とで比較しました。

その結果、3株の紅色硫黄細菌は窒素欠乏培地でPHA生産量が大きく増加し、PHAが顆粒状に存在する「PHAグラニュ-ル」が観察されました(図1)。一方、紅色非硫黄細菌では、3株は窒素欠乏培地でPHA生産量が増加したのに対し、6株は、通常の生育培地で乾燥菌体重量当たり約20~30重量%という高いPHA生産量を示し、窒素欠乏培地におけるPHA生産量の大きな増加は観察されませんでした。

次に、人工海水を培地として用い、紅色非硫黄細菌のうち1株についてPHA生産を検証しました。検証を行った紅色非硫黄細菌は人工海水のみではあまり生育がみられず、培地の成分として用いている酵母抽出物を人工海水に添加したところ、細菌の増殖はみられましたが、PHAは生産されませんでした。一方、酢酸を炭素源として人工海水に添加すると、紅色非硫黄細菌はPHAを生産することが明らかになりました(図2)。

また、光合成細菌からPHAを抽出・精製し、精製したPHAの数平均分子量[7]ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)[8]により測定しました。微生物が生産するPHAの数平均分子量は30万程度であることが報告されていますが、一部の紅色硫黄細菌、紅色非硫黄細菌ではその2~3倍の数平均分子量を示す高い分子量のPHAを合成していることが分かりました(図3)。バイオプラスチックの生産過程においては、抽出・精製による分子量の低下が引き起こされます。また引張り強度や再延伸性の向上という物性においても高い分子量は有用な特性の一つです。本研究において高分子量のPHAを生産する光合成細菌を同定できたことは、産業的にも非常に有用であるといえます。

今後の期待

共同研究チームは、高分子量バイオプラスチックを生産する光合成細菌を発見しました。発見した光合成細菌の生育条件やバイオプラスチック生産条件の最適化によりさらなるバイオプラスチックの増産が見込まれます。また今後、二酸化炭素を用いた光合成細菌によるPHA生産の最適化を進めることによって、より環境負荷の低いプラスチック生産が期待できます。

原論文情報

  • Higuchi-Takeuchi, M. Morisaki, K. Toyooka, K. and Numata, K., "Synthesis of high-molecular-weight polyhydroxyalkanoates by marine photosynthetic purple bacteria", PLos ONE, doi: 10.1371/journal.pone.0160981

発表者

理化学研究所
環境資源科学研究センター バイオマス工学研究部門 酵素研究チーム
チームリーダー 沼田 圭司 (ぬまた けいじ)
研究員 樋口 美栄子 (ひぐち みえこ)

報道担当

理化学研究所 広報室 報道担当
Tel: 048-467-9272 / Fax: 048-462-4715
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理化学研究所 産業連携本部 連携推進部
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補足説明

  1. 光合成細菌
    光合成を行って生育する細菌の総称。酸素発生型光合成をする藍色細菌と、紅色硫黄細菌や紅色非硫黄細菌などの酸素非発生型光合成細菌がある。
  2. バイオプラスチック
    原料として再生可能な生物(動物・植物)資源由来の物質から成る高分子材料。
  3. 紅色硫黄細菌
    水素・硫化物・二酸化炭素の存在下で光独立栄養的に生育する光合成細菌。
  4. 紅色非硫黄細菌
    有機物などの存在下で光従属栄養的に生育する光合成細菌。
  5. 人工海水
    海水に似た成分を人工的に調整して作られた液体。
  6. ガスクロマトグラフ質量分析計(GC-MS)
    気化した有機化合物を分離し、質量を分析することにより、物質の同定・定量を行う分析装置。
  7. 数平均分子量
    高分子の有機化合物(ポリマー)の全重量を、ポリマーを構成する全分子数で割った値。すなわち、分子の数で平均した分子量。
  8. ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)
    分子の大きさにより試料を分離し、分子量の測定などを行う分析装置。

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紅色硫黄細菌と紅色非硫黄細菌の異なる培地におけるPHA生産の比較図

図1 紅色硫黄細菌と紅色非硫黄細菌の異なる培地におけるPHA生産の比較

紅色硫黄細菌と紅色非硫黄細菌を通常の生育培地と窒素欠乏培地に培養し、細胞内のPHAグラニュール(白い粒状の構造)を透過型電子顕微鏡により観察した。上段の紅色硫黄細菌は窒素欠乏培地でPHA量が大きく増加し、PHAグラニュ-ルが観察された。下段の紅色非硫黄細菌は、通常の生育培地でもPHAグラニュールが観察され、紅色硫黄細菌のように窒素欠乏培地でPHA量の大きな増加はみられなかった。

人工海水の培養によるPHA生産

図2 人工海水の培養によるPHA生産

紅色非硫黄細菌1株を人工海水で培養し、PHA蓄積量をガスクロマトグラフ質量分析計(GC-MS)により定量した。酢酸を添加した場合と酢酸と酵母抽出物を添加した場合が、PHAを生産することが分かった。

海洋性の光合成細菌による高分子量PHAの生産の図

図3 海洋性の光合成細菌による高分子量PHAの生産

上段の紅色硫黄細菌は3-ヒドロキシブタン酸(3HB)からなる高分子PHAを生産し、下段の紅色非硫黄細菌は3HBと3-ヒドロキシ吉草酸(3HV)からなる高分子PHAを生産することが分かった。

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