広報活動

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2016年8月25日

理化学研究所

生体分子の電荷分布の高精度解析法

-電子顕微鏡で生体分子機能発現を担う電荷を精密解析-

タンパク質は、私たちの体を構成しさまざまな生命活動を担う源です。生体内にはたくさんのタンパク質が存在し、それぞれが決められた役割を果たします。タンパク質の機能を明らかにするためには、複雑なその立体構造を詳しく知ることが重要です。

タンパク質の立体構造を決めるための最も一般的な手法は、タンパク質の結晶を作製しX線回折測定を行う「X線結晶構造解析」です。しかし、生命活動にとても重要な膜タンパク質などでは、結晶を造ることが難しいという問題があります。一方、「低温電子顕微鏡による単粒子解析」という手法では、タンパク質の溶液を急速凍結し、それを電子顕微鏡で観察して、電子顕微鏡像から立体構造を明らかにすることができます。そのため、結晶を必要とせず、利用できる試料の幅は大きく広がります。ただし、これまでこの解析では“空間分解能”が悪いという問題がありました。しかし、この数年の急速な技術革新により、X線結晶構造解析に匹敵する高い空間分解能で構造決定ができるようになってきました。ここで、空間分解能とは、どのくらい細かくものを見ることができるかの目安のことで、分解能の値が小さいほど細部まできれいにみえることに相当します

X線は波長のごく短い光で、電気的に中性であるのに対して、電子顕微鏡で用いる電子線は負の電荷を持っています。このため、電子線では、物質の荷電状態に関する情報を得ることができます。特に、アミノ酸や金属イオンの荷電状態はタンパク質が機能を発揮する上で大きな影響を及ぼすため、電子線解析から得られる情報は非常に有益だと考えられます。しかし、これまでその可能性はほとんど検討されてきませんでした。

今回、理研の研究チームは、電子線に対する原子の散乱因子を精密化する手法(計算ソフトウェアScatCurve)を開発し、低温電子顕微鏡法により決定した構造から、その電荷分布の情報をより詳細に解析することに成功しました(図参照)。

今後、本成果を新しい基盤技術として確立することができれば、生命科学の発展や医療・創薬・工学などの分野への貢献が見込まれます。

β-ガラクトシダーゼの阻害剤(PETG)とマグネシウムイオン(Mg2+)結合部位の低温電子顕微鏡による単粒子解析構造の図

β-ガラクトシダーゼの阻害剤(PETG)とマグネシウムイオン(Mg2+)結合部位の低温電子顕微鏡による単粒子解析構造

電荷を与えて構造精密化した構造。静電ポテンシャルマップ(灰色の網目)と原子モデル(赤・黄・青の線)がよく一致しているのがみてとれる。E416は416番目、E461は461番目のグルタミン酸、D201は201番目のアスパラギン酸、H418は418番目のヒスチジンを表す。中央の緑の球がMg2+、その周りの赤い球は酸素原子を表している。

理化学研究所
放射光科学総合研究センター 利用技術開拓研究部門 米倉生体機構研究室
准主任研究員 米倉 功治 (よねくら こうじ)