広報活動

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2016年8月31日

理化学研究所
早稲田大学

ワンポット合成で天然物を神経分化調節分子へ

-神経疾患の治療やメカニズムの解明に期待-

天然有機化合物は、これまで1世紀にわたって医薬品のリード化合物の供給源として大きな役割を果たしてきました。例えば、1928年、アレクサンダー・フレミングによってアオカビから発見されたペニシリンは世界初の抗生物質です。また、1978年、大村智博士によって土壌の微生物から発見されたエバーメクチンは、わずかに構造を改変することで、熱帯病の河川盲目症に対する抗寄生虫薬メクサジン(商品名)として世に出ました。メクサジンによって、アフリカの2億以上の人々が病気から救われたといわれています。2人はその功績により、それぞれ1945年、2015年にノーベル生理学医学賞を受賞しました。

天然有機化合物に属するアゲラジンAは、海に生息する海綿動物から単離され抗がん作用を示すことが知られています。これまで抗がん作用の向上を目指してアゲラジンAの誘導化が検討されてきましたが、従来の方法では手間や時間がかかるなどの問題があり、さまざまな誘導体を合成することができませんでした。

そこで、理研の科学者を中心とする国際共同研究グループは、アニリンまたはアルギニンを原料として、一つのフラスコ内に4種類の試薬を順番に加えることで、7種類の反応を一挙に行う「ワンポット合成」を開発しました(図参照)。ワンポット合成では、中間体を精製する必要が全くないため、簡便かつ短時間でアゲラジンA(収率5%)や新しい多くの誘導体(収率2%~34%)を得ることができました。

さらに、得られた誘導体16種類ついて、マウスのES細胞から得られる神経幹細胞(各神経細胞のもとになる細胞)の分化調節活性を調べました。その結果、非常に低い濃度でニューロンへの分化を促進する誘導体2種類と、逆に抑制する誘導体1種類を発見しました。また、この3種類の誘導体はグリア細胞のアストロサイトへの分化には全く影響を与えませんでした。このように国際共同研究グループは、天然有機化合物を神経分化調節分子へと変換することに成功しました。

今後、本成果は、複雑な神経分化のメカニズムの解明や、さらにはダウン症、アルツハイマー病等の神経疾患に対する治療法の開発につながる可能性があります。

アゲラジンA誘導体のワンポット合成の図

アゲラジンA誘導体のワンポット合成

理化学研究所
准主任研究員研究室 田中生体機能合成化学研究室
准主任研究員 田中 克典 (たなか かつのり)
研修生(研究当時) 岩田 隆幸 (いわた たかゆき)
(現 九州大学先導物質化学研究所 助教)