広報活動

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2016年9月13日

理化学研究所

窒素分子から直接ニトリルを合成

-アンモニアを用いない省資源・省エネ型合成法-

要旨

理化学研究所(理研)環境資源科学研究センター先進機能触媒研究グループの侯召民(コウ・ショウミン)グループディレクター、島隆則専任研究員、ムラリ・モハン・グル特別研究員らの研究チームは、四つのチタンを含むチタン化合物を用いて、化学工業において重要な中間原料であるニトリル[1]を窒素分子から直接合成することに成功しました。

空気中の8割を占める豊富な資源である窒素分子は、二つの窒素原子が三重結合という強固な結合で結ばれているため非常に安定です。一方、この安定な性質のために、窒素分子を有用な「含窒素有機化合物」に直接変換することは非常に困難です。通常は、多くのエネルギーを必要とするハーバー・ボッシュ法[2]により作られたアンモニアから、含窒素有機化合物を合成しています。含窒素有機化合物の一つであるニトリルの合成法も同様に、アンモニアを原料とする手法にほぼ限られていました。

研究チームではこれまで、独自に開発した三つのチタンを含むチタン化合物を用いて、窒素分子の常温・常圧での切断・水素化、および極めて安定なベンゼンの炭素-炭素結合の切断と骨格変換反応に関する研究を進めてきました注1)注2)。今回、新たに開発した四つのチタンを含むチタン化合物から、特殊な試薬を用いずに窒素分子を切断しました。そして、切断した窒素種と入手が容易な酸塩化物[3]からニトリルを直接合成することに成功しました。この方法は、さまざまなニトリル合成に適用可能であり、その他の添加剤を一切使わずに、一段階で目的物を得られることが分かりました。

本研究は今後、アンモニアを用いずに窒素分子から直接、含窒素有機化合物を合成する省資源・省エネ型プロセスの開発につながると期待できます。

本研究は、ドイツの科学雑誌『Angewandte Chemie International Edition』のオンライン版(9月9日)に掲載されました。

注1)2013年6月28日プレスリリース 「窒素分子の切断と水素化を常温・常圧で実現
注2)2014年8月28日プレスリリース 「ベンゼンの「炭素-炭素結合」を室温で切断

背景

空気中の8割を占める豊富な資源である窒素分子(N2)は、二つの窒素原子が三重結合という強固な結合で結ばれているため非常に安定です。一方、この安定な性質のために、窒素分子を有用な「含窒素有機化合物」に直接変換することは非常に困難です。これまでは、多くのエネルギーを必要とするハーバー・ボッシュ法により作られたアンモニア(NH3)から、含窒素有機化合物を合成していました。

含窒素有機化合物の中にはニトリル(R-C≡N)という化合物があります。この化合物は化学工業における重要な中間原料であり、医農薬中間体、溶剤、アクリル繊維の前駆物質、ナイロンの原料など、その用途は多岐にわたります。ニトリルには炭素-窒素三重結合が存在し、原料としてアンモニアを用いた場合、アンモニアに結合している水素原子を全て取り除く必要があります。毒性のあるシアン化物(-C≡N)を用いてニトリルを合成する手法もありますが、このシアン化物を合成する際にもアンモニアが必要となります。

そのため、アンモニアを用いずに、窒素分子から直接含窒素有機化合物を合成しようとする研究が近年盛んに行われています。しかし、多くの場合、窒素切断に特殊な金属還元剤などの使用が必須であったり、切断した窒素種の有機化合物への変換にいくつもの添加剤が必要だったりと、実用化には大きな課題がありました。

研究手法と成果

研究チームはこれまで、独自に開発した三つのチタン(Ti)を含むチタン化合物を用いて、窒素分子の常温・常圧での切断および部分的な水素化反応や、窒素分子の切断・水素化の反応メカニズムの解明、また、極めて安定なベンゼンの炭素-炭素結合の切断と骨格変換反応に関する研究を進めてきました。

今回、新たに開発した四つのチタンを含むチタン化合物と窒素分子の反応を検討した結果、特殊な試薬を用いずに窒素-窒素結合を切断することに成功しました。さらに、切断した窒素種と、入手が容易で有機合成で多用される酸塩化物との反応により、ニトリルが選択的に生成されることを見出しました。また、このニトリル合成にはその他の添加剤を一切使用せず、一段階でニトリルが得られることが分かりました。

この反応で用いる酸塩化物の適用範囲は広く、従来のアンモニアを用いた方法では難しかった置換基(アルデヒド、ハロゲン置換基など)を有するニトリルも簡便に合成できます。また、生化学などでよく用いられる安定同位体標識[4]した15N-ニトリルも、15N-窒素分子から容易に合成可能です。加えて、反応で生じたチタン塩化物([Ti]Cl3など)は、再び原料としてリサイクルできることも分かりました。

今後の期待

今回、研究チームは、新たに開発した四つのチタンを含むチタン化合物から、特殊な試薬を用いずに窒素分子を切断しました。そして、切断した窒素種と入手が容易な酸塩化物からニトリルを直接合成することに成功しました。今後、アンモニアを用いずに、窒素分子から直接さまざまな含窒素有機化合物を合成する省資源・省エネ型プロセスの研究開発につながると期待できます。

原論文情報

  • Murali Mohan Guru, Takanori Shima, Zhaomin Hou, "Conversion of Dinitrogen to Nitriles at a Multinuclear Titanium Framework", Angewandte Chemie International Edition, doi: 10.1002/anie.201607426

発表者

理化学研究所
環境資源科学研究センター 先進機能触媒研究グループ
グループディレクター 侯 召民 (こう しょうみん)
専任研究員 島 隆則 (しま たかのり)
特別研究員 Murali Mohan Guru (ムラリ・モハン・グル)

研究チームの写真

左から侯召民グループディレクター、ムラリ・モハン・グル特別研究員、島隆則専任研究員

報道担当

理化学研究所 広報室 報道担当
Tel: 048-467-9272 / Fax: 048-462-4715
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補足説明

  1. ニトリル
    R-C≡Nという構造で表される含窒素有機化合物の一つ。化学工業における重要な中間原料であり、医農薬中間体、溶剤、アクリル繊維の前駆物質、ナイロンの原料など、その用途は多岐にわたっている。
  2. ハーバー・ボッシュ法
    ドイツのフリッツ・ハーバーが実験室で成功した研究を、化学品製造会社BASF社のカール・ボッシュが1913年に工業化したアンモニア合成法。鉄(Fe)触媒を用いて、窒素と水素を高温・高圧で反応させることでアンモニアを合成する方法。350~550℃、150~350気圧という条件が必要になるため、膨大なエネルギーを消費する。
  3. 酸塩化物
    R-C(=O)-Cl と表される構造を持つカルボン酸の誘導体のこと。反応性が比較的高く、有機合成で頻繁に用いられる基質。
  4. 安定同位体標識
    元素の性質を決める「陽子」は同じで、「中性子」の数が異なるため、同じ性質を持つ原子でありながら質量が異なるもの。例えば窒素では、大気中の窒素の中で14Nは、99.635%を占め、14Nより中性子が1つ多く、重い15Nは、0.365%存在する。15Nは化学成分として検出が可能であることから、生態系などの研究で、代謝過程などの指標として使われている。

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四つのチタンを含むチタン化合物による窒素分子の切断とニトリルへの変換反応の図

図1 四つのチタンを含むチタン化合物による窒素分子の切断とニトリルへの変換反応

1気圧の窒素分子に、トリアルキルチタン( [Ti] R3)と4気圧の水素分子を加えて60℃に加熱すると、四つのチタンを含むチタン化合物が得られる。この化合物に窒素分子(1気圧)を加えながら180℃に加熱すると、加えた窒素分子の切断反応が起こる。さらに、酸塩化物を加えて60℃で反応させることで、ニトリルを良好な収率(60~85%)で得ることに成功した。反応にはその他の添加物は一切必要なく、一段階で目的物が得られる。

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