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2016年9月16日

理化学研究所

スピン軌道相互作用による磁壁のトラップ

-電流パルスで磁壁を決まった位置に素早く止める技術-

ラシュバ型スピン軌道相互作用による磁壁のトラップの概念図

ラシュバ型スピン軌道相互作用による磁壁のトラップの概念図

ラシュバ型スピン軌道相互作用(ピンクの矢印αR)を局所的に(緑の領域)埋め込むことで、細線中の磁壁(黄色部分)をトラップする。磁壁は、電流パルス(緑の矢印)によって細線注を左から右へ動いている。ラシュバ型スピン軌道相互作用により発生する強い磁場BR(ピンクの矢印)が、強く磁壁をこの位置にトラップする。青の矢印は磁化(磁気モーメント)の向きを表す。

現在の情報機器は著しい性能向上を続けています。しかし、主メモリが揮発性のため、起動するたびに情報をメモリ上に読み込む必要があり、起動時間が長いという問題が残っています。省電力の観点からは、起動時間の大幅な短縮が求められます。そのためには、大容量かつ高速の不揮発性メモリの開発が不可欠です。現在、最も有望視され実用化されているのは「磁気抵抗メモリ(MRAM)」ですが、今後はより高密度化が必要となってきます。

そこで、不揮発性メモリの一つとして「レーストラックメモリ」に注目が集まっています。レーストラックメモリは、断面の直径がナノメートル(nm、1nmは10億分の1メートル)サイズの細線上に電流パルスを流し、“多数の磁壁(磁化の向きが揃った磁区領域の境界)を移動させること”によって、演算や情報処理を行います。磁壁を動かす技術はすでに確立していますが、磁壁をある決まった位置に素早く止めるトラップ技術はまだ確立していません。細線に作った“くびれ”を利用してする方法が考えられますが、nmサイズの細線に多くのくびれを均一に作ることは非常に難しいことなどからまだ実現していません。

理研を中心とする共同研究チームは、今回、「ラシュバ型スピン軌道相互作用」を利用する新しい理論を提案しました。ラシュバ型スピン軌道相互作用は重い金属の表面や界面で現れ、磁性体の磁気モーメントと電流を強く結合させる働きがあります。磁壁をトラップすべき位置に、この相互作用を局所的に作用させることにより、電流パルスを流した際に強い局所的磁場が発生させます。共同研究チームは、その際に磁壁を強く止める力が発生することを利用し、動いている磁壁を確実に決まった位置にトラップすることが可能であることを理論的に示しました。

ラシュバ型スピン軌道相互作用の導入は、重い金属薄膜の積層によって、容易にかつ精度よく実現可能です。今後、本研究の理論は、レーストラックメモリなどの次世代メモリの実現を前進させると期待できます。

理化学研究所
創発物性科学研究センター 量子情報エレクトロニクス部門 スピン物性理論研究チーム
チームリーダー 多々良 源 (たたら げん)