広報活動

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2016年9月17日

理化学研究所
慶應義塾大学

植物青色光受容タンパク質の形と光受容変化

-植物の青色光受容における分子機構の一端を解明-

要旨

理化学研究所(理研)放射光科学総合研究センター生命系放射光利用システム開発ユニットの岡島公司客員研究員、山本雅貴ユニットリーダーらの研究チームは、植物が持つ青色光受容タンパク質フォトトロピン[1]1の最小機能単位の立体構造を、大型放射光施設「SPring-8[2]」の放射光を用いたX線小角散乱法[3]によって明らかにしました。

1880年にチャールズ・ダーウィンらは、植物における光合成効率を最適にするための運動である「光屈性(茎などが光の方向に曲がる現象)」を発見しました。その光屈性の原因タンパク質として、青色光受容によって制御されるタンパク質フォトトロピン1が1997年に見出されました。しかし、これまで、どのようにしてフォトトロピン1が、青色光受容信号という物理刺激をリン酸化という生体内信号に変換しているのか不明でした。

今回、研究チームは、青色光受容ドメイン(領域)とリン酸化酵素ドメインからなる機能最小単位の立体構造をSPring-8の放射光を使って調べることで、青色光受容に伴って分子の形が変形することや、その変化を担うアミノ酸を同定することに成功しました。

この成果は、生体における光センシング[4]の解明や、光によって遺伝子発現を制御するオプト・ジェネティクスへの応用が期待できます。

本研究は、米国の科学雑誌『Journal of Biological Chemistry』(9月16日号)に掲載されます。

※研究チーム

理化学研究所 放射光科学総合研究センター 利用システム開発研究部門
ビームライン基盤研究部 生命系放射光利用システム開発ユニット
研修生 大出 真央(おおいで まお)(慶應義塾大学 理工学研究科)
客員研究員 岡島 公司(おかじま こうじ)(慶應義塾大学 理工学研究科 特任助教)
研修生(研究当時) 嘉祥寺谷 幸子(かしょうじや さちこ)(大阪府立大学理学研究科)
研修生(研究当時) 高山 裕貴(たかやま ゆうき)(慶應義塾大学 理工学研究科)
客員研究員 苙口 友隆(おろぐち ともたか)(慶應義塾大学 理工学部 専任講師)
研究員 引間 孝明(ひきま たかあき)
ユニットリーダー 山本 雅貴(やまもと まさき)
客員主管研究員 中迫 雅由(なかさこ まさよし)(慶應義塾大学 理工学部 教授)

背景

1880年にチャールズ・ダーウィンと息子のフランシスは『The power of movements in plants(植物の運動力)』という本を著しました。この中で、彼らは、植物が行うさまざまな屈曲運動を報告しています。その中でも、大きく興味を引かれるのが、光の方向に植物の茎などが屈曲する「光屈性」と呼ばれる現象です。その117年後(1997年)に、光屈性を示さないシロイヌナズナの研究から、タンパク質「フォトトロピン1」が青色光受容体として光屈性の初発反応を担っていることが明らかになりました。その後の研究から、フォトトロピンは高等植物において、光屈性だけではなく、青色光強度に応じた葉緑体の集合や逃避運動、気孔開口や葉の展開を制御していることが明らかになりました。これらの個体運動制御は光合成の効率を個体レベルで最適化するものであることも明らかになりました。

フォトトロピン1は青色光で制御されるリン酸化酵素で、約1,000個のアミノ酸と光を受容するための低分子フラビンモノヌクレオチド2個で構成され、LOV1、LOV2と名付けられた二つの青色光受容ドメインとリン酸化酵素ドメインに折り畳まれていると考えられています。各LOVドメインには、フラビンモノヌクレオチド1分子が結合しています。LOV2が青色光受容すると、その信号がリン酸化酵素ドメインに伝達され、他のタンパク質をリン酸化してさまざまな細胞運動を誘起します。青色光という物理刺激をリン酸化という生体内信号に変換するしくみを知るためには、それらの配置や青色光照射での変化を知る必要があります。

研究手法と成果

フォトトロピン1の全長を大腸菌などで大量に発現することはいまだに困難で、LOV1とLOV2ドメインの結晶構造および、リン酸化酵素ドメインのバイオインフォマティクス[5]による予測構造が知られているのみです。今回、研究チームは、SPring-8のビームラインBL45XUにおいて、X線小角散乱法により、フォトトロピン1の機能最小単位であるLOV2-リン酸化酵素ドメインの青色光受容に伴う構造変化や、青色光受容したLOV2の構造変化の信号をリン酸化ドメインに伝達しているアミノ酸を調べることにしました。X線小角散乱法では、高純度に精製したタンパク質溶液にX線を照射し、得られる散乱パターンからタンパク質の低分解能構造を推定することが可能です。特にBL45XUでは、アンジュレータ[6]から得られるX線を集光して試料に照射するため、極微量のタンパク質溶液試料の測定が可能です。

まず野生型のLOV2-リン酸化酵素ドメインについて測定を行ったところ、この機能単位が二つ組み合わさって存在していること(二量体)が明らかとなりました。また、暗中と青色光照射下での測定を行い、青色光照射によって分子の形が変化することを見出しました(図1)。散乱パターンから予測された分子の形に対して、これまでに得られている各ドメインの構造モデルを当てはめたところ、青色光受容によってLOV2とリン酸化ドメインの相対位置が変化していることが分かりました。さらに、青色光照射によってLOV2の励起が起こらない変異体、青色光受容後のリン酸化活性が低下する変異体についても、暗中と青色光照射下でX線小角散乱法による測定を行いました。その結果、野生型で観測された構造変化が青色光受容で励起されたLOV2がリン酸化酵素ドメインを制御していることの直接的証拠であることが示され、また、青色光受容で励起されたLOV2からリン酸化酵素ドメインに構造変化を伝達するアミノ酸が見出されました。

今後の期待

研究チームでは、これまでに、シロイヌナズナのフォトトロピン2、藻類のフォトトロピンについて研究を行ってきました。これまでの研究と今回のフォトロロピン1の結果を併せると、LOV2ドメインとリン酸化酵素ドメインの間にある連結部分に、青色光受容LOV2からリン酸化酵素ドメインへの分子内構造変化伝達のカギとなる構造があることが確かになりました。今後は、分子の全体構造を原子レベルで明らかにする必要があります。

フォトトロピンのような光受容分子は、光を利用して細胞を制御するオプト・ジェネティクスに利用され始めています。しかし、その分子機構が未解明であるため、フォトトロピンにおいて光刺激をリン酸化に変換できる機構を解明できれば、デザインされたオプト・ジェネティクスの展開が可能になると期待されます。

原論文情報

  • Mao Oide, Koji Okajima, Sachiko Kashojiya, Yuki Takayama, Tomotaka Oroguchi, Takaaki Hikima, Masaki Yamamoto and Masayoshi Nakasako, "Blue Light-excited Light-Oxygen-Voltage-sensing Domain2 (LOV2) triggers a rearrangement of the kinase domain to induce phosphorylation activity in Arabidopsis phototropin1", The Journal of Biological Chemistry, doi: 10.1074/jbc.M116.735787

発表者

理化学研究所
放射光科学総合研究センター 利用システム開発研究部門 ビームライン基盤研究部 生命系放射光利用システム開発ユニット
客員研究員 岡島 公司 (おかじま こうじ)
(慶應義塾大学 理工学研究科 特任助教)
ユニットリーダー 山本 雅貴 (やまもと まさき)

報道担当

理化学研究所 広報室 報道担当
Tel: 048-467-9272 / Fax: 048-462-4715
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補足説明

  1. フォトトロピン
    植物の青色光受容タンパク質の一種。茎などが光の方向に曲がる現象の光屈性(フォトトピズム)に関わっており、これが語源となっている。多くの植物にはフォトトロピン1とフォトトロピン2の2種類がある。
  2. SPring-8
    理研が所有する兵庫県の播磨科学公園都市にある世界最高の放射光を生み出す施設。その運転管理と利用者支援は高輝度光科学研究センターが行っている。SPring-8の名前はSuper Photon ring-8 GeVに由来。放射光とは、電子を光とほぼ等しい速度まで加速し、電磁石によって進行方向を曲げた時に発生する強力な電磁波のこと。SPring-8では、この放射光を用いての基礎科学からリチウムイオン電池や製薬などの産業利用までの幅広い研究が行われている。
  3. X線小角散乱法
    X線を物質に照射して散乱するX線のうち、散乱角が小さいものを測定することにより物質の構造情報を得る手法で、タンパク質や核酸などの生体高分子、微粒子や液晶、合金の内部構造といった数nmでの構造解析に用いる。例えば、超臨界流体のような系では、その中・長距離構造を粗密な領域からなる不均一構造(密度ゆらぎ)や密度ゆらぎの相関距離といった構造パラメータにより、定量的に評価することが可能となる。
  4. 光センシング
    光を対象物に照射することで生じる相互作用を観測し、対象物の構造・特性を非破壊的調べる技術である。最近では医療診断分野において積極的に応用され、光干渉断層法や血糖値計測、血液中の酸素濃度測定などが研究されている。
  5. バイオインフォマティクス
    応用数学、情報学、統計学、計算機科学などの技術応用によって生物学の問題を解こうとする学問。「生命情報学」「生物情報学」などと訳される。近年、多くの生物を対象に実施されているゲノムプロジェクトや構造ゲノムプロジェクトによって、大量のバイオ関連情報が得られるようになり、それらの情報をタンパク質の系統解析、構造予測、相互作用予測など有用なバイオインフォマティクス技術につなげることが求められている。
  6. アンジュレータ
    NとSの磁極を交互に上下に配置し、その間を通り抜ける電子を周期的に小さく蛇行させ、特定の波長を持った光を作り出す装置。SPring-8では、世界に先駆けて開発した真空封止型アンジュレータや27mにおよぶ長尺アンジュレータなどを整備し、世界最高レベルの放射光発生を実現している。X線自由電子レーザー施設用に開発したアンジュレータは、1台の長さが約5mであり、1台あたり277周期で磁石が交互に配列されている。

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フォトトロピン1最小機能単位のX線小角散乱プロファイルと予測された構造モデルの図

図1 フォトトロピン1最小機能単位のX線小角散乱プロファイルと予測された構造モデル

左:暗中と光照射下でのX線小角散乱プロファイルの変化(矢印は散乱強度の増大、現象を示す)
右上:アミノ酸配列上で予想されるフォトトロピン1の機能ドメインの位置
右下:暗中と光照射下での可逆的な形状変化と予想されるドメイン相対配置の変化

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