広報活動

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2016年9月20日

理化学研究所

室温スキルミオン格子の構造転移

-広い温度・磁場範囲に存在するスキルミオンと、四角格子を発見-

中性子小角散乱測定で観測された磁場中冷却過程でのスキルミオン格子のパターン変化の図

中性子小角散乱測定で観測された磁場中冷却過程でのスキルミオン格子のパターン変化

電子は、自転に相当する「スピン」と呼ばれる自由度を持っています。さらに電子は、スピンの大きさに比例し、向きがスピンの向きと逆の「磁気モーメント」と呼ばれる性質を持ちます。固体中のそれぞれの電子の持つ磁気モーメントが一方向に揃った物質が磁石(強磁性体)です。そして、固体中の電子の持つ磁気モーメントが“渦”を巻くように並ぶことがあり、この渦状の磁気構造体を「スキルミオン」と呼びます。スキルミオンの直径は数ナノメートル(nm、1nmは10億分の1メートル)~数百nmです。

最近の研究で、スキルミオンは固体中で独立した粒子として振る舞い、一度生成されると比較的安定に存在し、低い電流密度で駆動できるなど、磁気情報担体(0、1の情報を記録するために用いる磁気的物質)としての応用に適した特性を多く持っていることが分かり、注目を集めています。

また、複数のスキルミオンが規則正しく並んだ状態を「スキルミオン格子」といいます。スキルミオン格子は通常、二次元平面を最も隙間なく並ぶことができる「三角格子」が最も安定だと考えられ、最近、コバルト-亜鉛-マンガン合金において、室温および室温以上で三角格子の形成が報告されました。しかし、そのスキルミオン格子が安定して存在できるのは、磁気転移温度直下の狭い温度・磁場領域のみに限られるため、安定領域の狭さが課題の一つでした。

今回、理研を中心とする国際共同研究グループは、室温でスキルミオン格子状態を示す「Co8Zn8Mn4」という合金に着目し、交流磁化率と中性子小角散乱を詳しく調べました。その結果、室温のスキルミオン格子状態は磁場をかけたまま1分間に約1℃のゆっくりとした速度で冷却するだけで、真の安定状態ではないものの、あたかも安定であるかのように長時間存在し続けられる「準安定状態」として、絶対零度・ゼロ磁場まで含めた非常に広い温度・磁場領域に存在できることが分かりました。

さらに、この準安定状態の中でスキルミオン格子が、通常の三角格子から-120℃付近以下で「四角格子」へ構造転移することも分かりました(図参照)。四角格子は理論的には存在が予測されていましたが、実験的に観測されたのはこれが初めてです。これを機に、スキルミオンの基礎的特性の研究、デバイス応用を見据えた研究開発がより盛んになることが期待できます。

理化学研究所
創発物性科学研究センター 強相関物理部門 強相関物質研究チーム
特別研究員 軽部 皓介 (かるべ こうすけ)
チームリーダー 田口 康二郎 (たぐち やすじろう)

創発物性科学研究センター
センター長 十倉 好紀 (とくら よしのり)