広報活動

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2016年9月20日

理化学研究所

水素分子の解離過程を8フェムト秒で制御

-極端紫外アト秒パルス光によるコヒーレント制御の幕開け-

アト秒パルス列を照射して生じた水素イオンの生成量の図

アト秒パルス列を照射して生じた水素イオンの生成量

水素分子(H2)は、水素原子(H)が2個結び付くことによって構成される最も簡単な構造の分子です。したがって、水素分子が水素原子2個に分離する過程(解離)は、最も簡単な化学反応と言えます。しかしこの解離過程は1種類ではなく、異なる解離過程を経て生じた水素原子は内部の電子の様子が異なり、それぞれ別の状態の水素原子として区別されます。最も簡単な化学反応であるにも関わらず、異なる解離過程を超高速で制御することはこれまで不可能でした。

 このように分子の化学反応を制御する方法として、レーザー光を用いた手法が盛んに研究されてきました。これまでに可視光の数10フェムト秒(1フェムト秒は1000兆分の1秒、10-15秒)レーザー光を用いた制御方法が考案されてきましたが、光子エネルギーが低く(波長が長く)かつパルス幅の短縮が不十分であるといった問題がありました。

2015年に、研究チームは、3,000兆分の1秒という短い時間幅のパルスが並んだ「アト秒パルス列(APT)」(1アト秒は100京分の1、10-18秒)という特殊なレーザー光で水素分子をイオン化すると、水素分子イオン(H2)が振動を始めるための準備時間が、従来考えられていた時間よりはるかに長いことを発見し、使用するパルスによってその準備時間を制御可能なことを示しました。このことから、実験系の改良を行うことで新たな水素分子イオン解離過程を見つけ、異なる解離過程を超高速で制御できるのではないかと考えました。

今回、研究チームは、実験系に改良を加えて集光強度を高めた極端紫外波長領域のAPTを水素分子に照射し、生じた水素イオンの運動量分布を測定しました。すると、異なる方向の運動量を持つ水素イオンを同時に観測することに成功しました。次に、APTを二つのビームに分け、二つのビームの遅延照射時間を少しずつずらしながら、各方向の水素イオンの生成量を測定しました(図)。その結果、片方の水素イオンの生成量が最大から最小になると同時に、もう片方の水素イオンの生成量が最小から最大へ変化する時刻が存在し、その変化がわずか8フェムト秒で生じることを見出しました。これは、水素分子イオンの基底状態における振動波束の振動周期の半分の時間に相当し、水素分子イオンが“最も縮んだとき”にAPTを照射した場合は片方の解離過程が優先され、“最も伸びたとき”にAPTを照射した場合はもう片方の解離過程が優先されることを意味しています。

今後、可視光レーザーではこれまで到達できなかった、多様な分子の励起状態の超高速ダイナミックスを利用した反応制御ができることが期待できます。

理化学研究所
光量子工学研究領域 エクストリームフォトニクス研究グループ アト秒科学研究チーム
チームリーダー 緑川 克美 (みどりかわ かつみ)
専任研究員 鍋川 康夫 (なべかわ やすお)
研究員 沖野 友哉 (おきの ともや)
客員研究員 古川 裕介 (ふるかわ ゆうすけ)