広報活動

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2016年10月4日

理化学研究所

分子間エネルギー移動の単分子レベル計測に成功

-エネルギーダイナミクスの精密制御に前進-

分子間エネルギー移動を示すSTM発光スペクトルとSTM像の図

分子間エネルギー移動を示すSTM発光スペクトルとSTM像

異なる分子や原子、イオン間で、エネルギーが交換する現象を「エネルギー移動」といいます。一般に、高いエネルギーを持つものからより低いエネルギーを持つものへ、エネルギーは移動します。分子間のエネルギー移動は、光合成反応や、太陽電池・光触媒といったエネルギー変換デバイスの動作に不可欠な物理現象です。

これまで、エネルギー移動の研究には光学顕微鏡が用いられてきましたが、空間分解能が数百ナノメートル(nm、1nmは10億分の1メートル)と不十分なため、1nmスケールで起こるエネルギー移動の詳細は未解明でした。そこで今回、理研の研究チームは、独自に開発した「走査トンネル顕微鏡(STM)発光分光装置」を用いて、エネルギー移動を調べることにしました。STMは、先端を尖がらせた針(探針)を、サンプルの表面をなぞるように動かして、その表面の状態を観察する顕微鏡です。探針とサンプル間に流れるトンネル電流を検出し、その電流値を探針とサンプル間の距離に変換させることにより画像化します。

まず、研究チームは、分子間距離が1.7nmのフタロシアニン(H2Pc)分子-マグネシウムフタロシアニン(MgPc)分子の二量体と、分子間距離が2.4nmの同じ二量体の分子間エネルギー移動を調べて比較しました。STMのトンネル電流でMgPcを局所的に励起させ、STM発光スペクトルを測定しました。すると、MgPcの発光(1.89eV)に加えて、H2Pcの発光ピークが1.81eVに観測されました(図参照)。これは、トンネル電流を加えたMgPcから1.7nm離れたH2Pcへエネルギー移動が起こったことを示しています。また、発光強度は分子間距離が短いほど大きいことも分かりました。

さらに、H2Pc分子内の水素原子の移動に起因して、エネルギー移動の確率が変動する現象を発見しました。加えて、H2Pcの分子内の水素原子の配向を制御することによって、H2Pcがエネルギー移動確率の高低を切り替えることができる「単分子バルブデバイス」として作動することも発見しました。

今後、本手法の発展により、多種多様なエネルギーダイナミクスが分子レベルで解明され、励起状態の分子レベル制御が可能になると期待できます。

理化学研究所
主任研究員研究室 Kim表面界面科学研究室
協力研究員 今田 裕 (いまだ ひろし)
主任研究員 金 有洙 (キム ユウス)