広報活動

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2016年10月11日

理化学研究所

簡単手順で長期安定的な細胞の区画培養

-細胞定着防止試薬を培養容器に結合することで実現-

筋芽細胞の区画内培養の写真

筋芽細胞の区画内培養の写真

生命科学分野における基本的な実験の一つに細胞培養があります。培養されている細胞にさまざまな刺激を与えて、その細胞がどのように反応・変化するかを調べます。細胞の振る舞いや連携を研究する場合に、細胞を培養容器内のある区画内にとどめて培養することがあります。この際に重要なことは、区画内では細胞が定着し、区画外には細胞が侵入しないことです。

従来法では、細胞は培養当初は区画内にとどまりますが、10日もすれば区画外にはみ出してしまうという問題がありました。この理由は、区画内に「細胞定着試薬」としてコラーゲンやフィブロネクチンなどのタンパク質を、区画外に細胞定着試薬やその他のタンパク質が付着することを防ぐための「細胞定着防止試薬」を、それぞれコーティング(薄膜を塗って覆うこと)していただけだからです。コーティングしているだけなので、それぞれの試薬は培養容器から剥がれやすく、特に区画外の細胞定着防止試薬の剥がれが、この問題の原因になっていました。

今回、理研の研究チームはこの問題を解決するために、細胞定着防止試薬としてフッ素系の「撥水性試薬」を使用し、コーティングではなく“培養容器に結合する”方法を考案しました。具体的にはまず、撥水処理区画と非処理区画の区分には、“はんこ”のような凹凸構造をしたカバーを作製し、カバーを培養容器に密着させます。そして、その凸部分と培養容器の表面が密着した部分には撥水性試薬が到達せず、凹部分に撥水性試薬が“結合する”ようにしました。続いて、撥水処理の効果を確認するために、光る機能を持つタンパク質の溶液を培養容器に流し込み、タンパク質からの光を観察しました。すると、カバーとの非密着部分(区画外)は暗く、密着部分(区画内)は明るくなり、撥水処理部分ではタンパク質の吸着防止ができることを確認しました。さらに、その培養容器に筋芽細胞を含む培養液を流し込み、細胞の定着具合を観察したところ、培養区画に応じた区分が観察され、その区分が1カ月以上維持されることを確認しました。最終的に筋芽細胞は複数の細胞が融合し、細く長い筋繊維のような組織になることも分かりました(図参照)。

本手法は、一般的な生命科学分野の研究室内にある機器を用いれば手軽に実現できるため、今後広く利用されることが期待できます。

理化学研究所
生命システム研究センター 細胞デザインコア 合成生物学研究グループ 集積バイオデバイス研究ユニット
特別研究員 船野 俊一 (ふなの しゅんいち)
研究員 田中 信行 (たなか のぶゆき)
ユニットリーダー 田中 陽 (たなか よう)