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2016年11月2日

理化学研究所

iPS細胞からみえる統合失調症の特徴

-神経細胞・グリア細胞の分化段階の異常を患者由来細胞で発見-

神経幹/前駆細胞から神経系の細胞への分化誘導の図

神経幹/前駆細胞から神経系の細胞への分化誘導

統合失調症は、最も代表的かつ重篤な精神疾患です。症状には、主に幻聴や妄想などの陽性症状と意欲の低下や感情の平板化などの陰性症状があります。生涯罹患率は人口の約1%と高く、国内の総患者数は71万3,000人と推定されています(2011年厚生労働省の統計より)。また、発症年齢のピークは男性で18歳、女性で22歳と若い時期にかかりやすいという特徴があります。

病気の予防と治療には病因の解明が必須です。しかし、統合失調症は患者数が非常に多いにも関わらず、その病因は十分には解明されていません。発症のしやすさの一つとして、「神経発達障害仮説」という胎生期から生後早期にかけての脳の微細な発達障害が考えられています。しかし、神経発達初期やその後の分化過程の異常を、ヒトの脳を直接使って調べることは不可能です。したがって、これまでその具体像は明らかになっていませんでした。

今回、理研を中心とする国際共同研究グループは、分化誘導によってiPS細胞(人工多能性幹細胞)から、神経幹細胞と神経前駆細胞の塊(神経幹/前駆細胞)、神経細胞、グリア細胞(神経系そのものを作る細胞の中で神経細胞ではない細胞)が作製できることに着目しました。統合失調症の発症率を大きく上昇させる22q11.2欠失症候群(22番染色体の長腕11.2領域に微細欠失を持つ)の患者からiPS細胞を作製し、神経幹/前駆細胞から神経細胞、グリア細胞への分化を解析しました。

その結果、患者由来の神経幹/前駆細胞は健常者と比べて、①大きさが約30%小さいこと、②神経細胞への分化効率が約10%低く、グリア細胞の一種であるアストロサイトへの分化効率が約10%高いことが分かりました(図参照)。また、分化した神経細胞では、興奮を伝導する役目をする神経突起が短い、移動能が低いなどの異常がみられました。この異常には特定の「マイクロRNA(miRNA)」が関わっていることが分かりました。miRNAとはタンパク質をコードしていない短いの1本鎖RNAのことで、標的となるmRNAの翻訳を阻害します。さらに、患者の死後脳を用いた解析でも、健常者の死後脳と比べて神経細胞とアストロサイトの量比に異常がみられることも分かりました。

現在使用されている向精神薬は、主に神経伝達物質の受容体をターゲットとするものです。今後、miRNAが標的とする遺伝子を詳しく解析することで、新たな創薬ターゲットの発見に役立つと期待できます。

理化学研究所
脳科学総合研究センター 分子精神科学研究チーム
チームリーダー 吉川 武男 (よしかわ たけお)
研究員 豊島 学 (とよしま まなぶ)