広報活動

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2016年11月2日

理化学研究所
日本医療研究開発機構

患者由来iPS細胞による脊髄小脳変性症の病態再現

-小脳プルキンエ細胞変性から病態を理解し、創薬への道を開く-

甲状腺ホルモンT3の有無によるプルキンエ細胞の形態変化の図

甲状腺ホルモンT3の有無によるプルキンエ細胞の形態変化

脊髄小脳変性症は、主に小脳や脳幹の神経細胞が選択的に変性、脱落した結果、歩行時にふらついたり、手が震えたり、ろれつが回らないなどの症状を呈する病気です。日本には約3万人の患者がいると推定されています。遺伝性が約1/3を占め、多くの原因遺伝子が明らかになっていますが、その病態や発症のメカニズムはほとんど分かっていません。そのため、根本治療につながる治療法の開発が待たれています。

遺伝性のうち日本で最も多いタイプの一つは、脊髄小脳変性症6型(SCA6)です。SCA6では、小脳皮質での情報処理を中心的に担う、小脳プルキンエ細胞(以下、プルキンエ細胞)特異的に神経変性がみられます。原因遺伝子の「CACNA1A」は、神経細胞にあるP/Q型カルシウムイオン(Ca2+)チャネルのα1サブユニットCav2.1をコードしています。この遺伝子内のCAGリピート配列(シトシン・アデニン・グアニン配列)が異常に長くなることは分かっていますが、神経変性に至る機構は明らかではありませんでした。

今回、理研を中心とする共同研究グループは、SCA6患者の皮膚・血液細胞からiPS細胞を樹立し、プルキンエ細胞を分化誘導させ、病態の一部を再現しました。患者由来のプルキンエ細胞を観察したところ、健常人のプルキンエ細胞に比べて、神経細胞の興奮・抑制などをつかさどる役割を担うP/Q型Ca2+チャネルのα1サブユニットのCav2.1が異常に蓄積していました。また、患者由来のプルキンエ細胞ではCACNA1A遺伝子のC末端断片がコードする転写因子(α1ACT)、およびその標的分子の発現が低下していました。さらに、患者由来のプルキンエ細胞にストレス(プルキンエ細胞の維持・成熟に重要な甲状腺ホルモンT3を除く)を与える特殊な条件下で培養すると、高い“脆弱性”を示して、樹状突起が太くなったり枝分かれが減少するなど異常な形態が現れました(図参照)。この形態変化を指標に化合物評価を行ったところ、SCA治療薬の甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(TRH)や筋委縮性側索硬化症治療薬のリルゾールにその脆弱性を抑える効果があることが分かりました。

本成果によって、これまで不明だったSCA6の病態の理解が進み、創薬研究への道が開かれると期待できます。

理化学研究所
多細胞システム形成研究センター 非対称細胞分裂研究チーム
客員研究員 石田 義人 (いしだ よしひと)
専門職研究員 六車 恵子 (むぐるま けいこ)