広報活動

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2016年11月8日

理化学研究所

有機両極性半導体による回路の低消費電力化に成功

-塗るだけで製作できる省エネデバイスの実現-

要旨

理化学研究所(理研)創発物性科学研究センター創発分子機能研究グループの瀧宮和男グループディレクター、中野正浩特別研究員らの研究チームは、有機両極性半導体[1]を用いたデジタル回路デバイスの基板にアルキル処理を施すことで、流れるキャリアの種類(電子、正孔)[2]を制御し、消費電力を大幅に低減する手法を開発しました。

有機半導体[1]は、材料の溶液を塗布することにより、容易に、かつ低エネルギーなプロセスで半導体層を形成することができます。さらに、インクジェットや輪転機など既存の印刷プロセスを適用することで大面積化も可能で、製作コストも無機半導体に比べ低いというメリットがあります。しかし、デジタル回路を製作するためには、正孔伝導型・電子伝導型の2種類の有機半導体を用意し、それぞれの塗り分けをしなければならず、印刷による回路製作は容易に実現できるものではありませんでした。一方、両極性半導体[1]は正孔、電子の両方のキャリアを利用できるため、1つの材料でデジタル回路を製作することが可能です。このため、有機半導体と両極性半導体の両方の特性を持つ有機両極性半導体を用いれば、単一の材料を塗布するだけでデジタル回路を製作することができます。しかし、両極性半導体には、電子と正孔が無差別に流れてしまうため消費電力が大きくなる、という致命的な欠点が指摘されており、実際には有用な材料ではないと考えられてきました。

一方2015年に、基板上に製作した単分子膜[3]が有機半導体中に電荷層を形成し、有機半導体の特性に影響を与えることが報告されました注)。研究チームは、両極性半導体のキャリアの種類を制御する方法として、この電荷層に着目しました。マイナスに帯電したフッ化アルキル[3]の単分子膜によって有機両極性半導体中にプラスの電荷層を発生させ、電子キャリアを捕集し、正孔のみを伝導させることに成功しました。また、プラスに帯電したアミノアルキル[3]の単分子膜を用いることで、電子のみを伝導させることも可能です。このキャリア制御法によって、有機両極性半導体を用いながらも低消費電力なデジタル回路が実現できました。

有機両極性半導体には魅力的な性質がありながらも、消費電力が大きいというデメリットによって現実的な応用が不可能であるとみなされてきました。本研究ではこの有機両極性半導体のデメリットを解消し、十分な低消費電力化が可能であることを実証しました。今後、有機両極性半導体を用いた、次世代に最適な軽量、柔軟、低コスト、省エネルギーなエレクトロデバイスの実現が期待できます。

本研究はドイツの科学雑誌『Advanced Materials』に掲載されるのに先立ち、オンライン版(11月4日付け:日本時間11月4日)に掲載されました。

注)Aghamohammadi, M.,, Rödel, M., Zschieschang, U., Ocal, C., Boschker, H., Weitz, R.T.,  Barrena, E.,and Klauk, H., ACS Applied Materials and Interfaces 7: 22775-22785 (2015).

背景

有機半導体は、材料の溶液を塗布することにより、低エネルギーなプロセスで半導体層を形成することができます。そのため、通常は複雑な製作工程を必要とするデバイスを、基板表面に溶液を塗るだけで容易に製作することが可能です。また、インクジェットや輪転機など既存の印刷プロセスを適用できることから大面積化も可能で、製作コストも無機半導体に比べて低いというメリットがあります。しかし、デジタル回路を製作するためには、正孔伝導型・電子伝導型の2種類の有機半導体を用意し、それぞれの塗り分けをしなければならず、印刷による回路製作は容易に実現できるものではありませんでした(図1a)。

一方、両極性半導体は正孔(プラス)、電子(マイナス)の両方のキャリアを利用できるため、正孔伝導型、電子伝導型の2種類の材料を必要とする回路やデバイスを単体で製作することが可能です(図1b)。このため、有機半導体と両極性半導体の両方の特性を持つ有機両極性半導体を用いれば、単一の材料を一様に塗布するだけで、デジタル回路などを実現することができます。しかし有機両極性半導体を用いたデバイスは、正孔、電子のうち、動作に必要なキャリアのみを選択的に用いることが難しく、常に電子・正孔いずれかのキャリアが流れつづけてしまうため、消費電力が大きくなる、という致命的な欠点が指摘されてきました(図2a)。そのため、有機両極性半導体を用いた応用研究は、これまで積極的にはなされてきませんでした。

研究手法と成果

マックスプランク研究所のハーゲン・クラークらは2015年に、基板上に製作した単分子膜が有機半導体中に電荷層を形成し、有機半導体の特性に影響を与えることを報告しました。そこで研究チームは、有機両極性半導体のキャリアの種類を制御する方法として、この電荷層に着目しました。

有機両極性半導体デバイスのシリコン基板上に、マイナスに帯電したフッ化アルキルの単分子膜を製作したところ、半導体中にプラスの電荷層が発生し、電子(マイナスのキャリア)が電荷層に捕集され動けなくなることが分かりました。結果として、有機両極性半導体中を流れるキャリアを正孔(プラスのキャリア)のみに限定することに成功しました(図2b)。さらに、プラスに帯電したアミノアルキルの単分子膜を用いた場合にはマイナスの電荷層が発生し、半導体中のキャリアが電子のみに限定されることを発見しました(図2c)。このようにして、有機両極性半導体中のキャリア種を、正孔・電子のどちらかのみに制御することが可能となりました。

さらに、上記の手法を組み合わせ、基本的なデジタル回路であるCMOSインバータ[4]を製作し(図3a)、有機両極性半導体を用いたデバイスでもキャリア種を適切に制御することで、消費電力を大幅に低減できることを実証しました(図3b、図3c)。

今後の期待

有機両極性半導体は「単一の材料を塗るだけで複雑な回路を実現することができる」という魅力的な性質が認められていながらも、消費電力が大きいというデメリットによってその応用は現実的ではないとみなされてきました。本研究では、この有機両極性半導体のデメリットを解消し、十分な低消費電力化が可能であることを実証しました。今後、有機両極性半導体を用いた、次世代に最適な軽量、柔軟、低コスト、省エネルギーなエレクトロデバイスの実現が期待できます。

原論文情報

  • Masahiro Nakano, Itaru Osaka, Kazuo Takimiya, "Control of major carriers in ambipolar polymer semiconductor by self-assembled monolayers", Advanced Materials, doi: 10.1002/adma.201602893

発表者

理化学研究所
創発物性科学研究センター 超分子機能化学部門 創発分子機能研究グループ
特別研究員 中野 正浩 (なかの まさひろ)
グループディレクター 瀧宮 和男 (たきみや かずお)

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中野 正浩

瀧宮和男グループディレクターの写真

瀧宮 和男

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補足説明

  1. 有機両極性半導体、有機半導体、両極性半導体
    有機半導体はフレキシブル、プリンタブルであり、ウェアラブルデバイスなどの次世代型デバイスを実現可能な材料として注目されている。両極性半導体は、正孔(プラス)、電子(マイナス)のいずれのキャリアも利用することができる材料である。なお、有機材料は他の材料系に比べ、両極性半導体の開発が容易であり、半導体製作にかかるコストも低い。
  2. キャリア、電子、正孔
    半導体中ではキャリアと呼ばれる荷電粒子が動くことで電流が流れる。キャリアには、マイナスの電荷を持つ電子とプラスの電荷を持つ正孔の2種類がある。
  3. 単分子膜、フッ化アルキル、アミノアルキル
    単分子膜とはアルキルシリル化合物を基板表面と反応させることで得られる1分子分の厚さの極薄膜のこと。通常は有機半導体のキャリア移動度を向上させるために用いられる。正確には自己集合単分子膜(SAM:Self Assembled Monolayer)と呼ばれる。フッ化アルキルとはアルキル基にフッ素が結合した化合物で、アミノアルキルとはアルキル基にアミノ基が結合した化合物である。
  4. CMOSインバータ
    正孔(プラス)伝導型の半導体と電子(マイナス)伝導型の半導体を相補的に組み合わせたデジタル回路の一種。「1」が入力されたとき「0」を、「0」が入力されたとき「1」を出力する。NOT回路とも呼ばれる。通常は消費電力が小さく、出力電圧が切り替わる瞬間に流れる電流値が最大となる。CMOS はComplementaly Metal Oxide Semiconductorの略。

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有機半導体と有機両極性半導体を用いたデジタル回路(CMOSインバータ)の図

図1 有機半導体と有機両極性半導体を用いたデジタル回路(CMOSインバータ)

(a)正孔伝導型(緑色)および電子伝導型(桃色)の2種の有機半導体によるデジタル回路。
(b)単一の有機両極性半導体によるデジタル回路。

有機両極性半導体中を流れるキャリア種の制御の図

図2 有機両極性半導体中を流れるキャリア種の制御

(a)有機両極性半導体中のキャリア動作。正孔(プラス)、電子(マイナス)の両キャリアが無差別に伝導されてしまう。

(b)基板上にフッ化アルキル処理(青色部分)をした後のキャリア動作。フッ化アルキルはマイナスに帯電している。そのため、絶縁体に近い半導体中にプラスの電荷層が発生し、ソース電極から入ったプラスのキャリアは伝導するが、ドレイン電極から入ったマイナスのキャリアはプラスの電荷層に捕集され、伝導しない。

(c)基板上にアミノアルキル処理(ピンク色部分)をした後のキャリア動作。アミノアルキルのアミノ基の窒素はプラスに帯電している。そのため、半導体中にマイナスの電荷層が発生し、ソース電極から入ったマイナスのキャリアは伝導するが、ドレイン電極から入ったプラスのキャリアはマイナスの電荷層に捕集され、伝導しない。

製作したCMOSインバータの模式図と省エネルギー効果の図

図3 製作したCMOSインバータの模式図と省エネルギー効果

(a)CMOSインバータの模式図。正孔が流れるべき箇所にフッ化アルキル処理(青色)、電子が流れるべき箇所にアミノアルキル処理(ピンク色)を施したもの。

(b)キャリア種制御を施していないCMOSインバータの特性。青線は出力電圧、赤線は回路を流れた電流量を表す。赤線を見ると、回路中を常に大きな電流(~10-5A)が流れ続けていることが分かる。

(c)キャリア種制御を施したCMOSインバータの特性。bと同様に、青線は出力電圧、赤線は回路を流れた電流量を表す。出力電圧が切り替わる瞬間に電流量がピークに達し、常時大きな電流が流れることはなくなっていることが分かる。

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