広報活動

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2016年11月10日

理化学研究所
兵庫県立大学

病原菌が鉄を細胞内に取り込む仕組み

-細胞膜で働くヘム輸送体タンパク質の立体構造を解明-

病原菌の細胞膜を貫通しているヘムトランスポーターの立体構造図

図 病原菌の細胞膜を貫通しているヘムトランスポーターの立体構造

鉄(Fe)は、ヒトなどの動物や細菌を含めたほぼ全ての生物にとって重要な元素です。食物から吸収した鉄分は、体内でさまざまなタンパク質と結合した状態になります。例えば、赤血球中に存在するヘモグロビンは、鉄を含む「ヘム」という赤い色素とグロビンというタンパク質からできていて、肺で酸素と結合して体中の細胞へ酸素を運ぶ働きをします。一方で、鉄は病原菌の生存や増殖にも利用されており、ヒト(宿主)の血液のヘモグロビンからヘムを奪い、病原菌の細胞膜を貫通しているタンパク質「ヘムトランスポーター(ヘム輸送体)」を利用して、自分の細胞内に取り込みます。

これまで、このヘム輸送体の働きにはアデノシン三リン酸(ATP)という生体エネルギーを利用して、分子構造を大きく変化させることが分かっていました。しかし、実際にどのような構造変化が起こり、どのようにヘムが運ばれるのか、その詳しい仕組みは明らかになっていませんでした。

今回、理研の研究チームは、大型放射光施設「SPring-8」を利用したX線結晶解析法によって、病原菌性バクテリアのバークホルデリア セノセパシア菌が持っているヘム輸送体の立体構造を原子レベルで解析しました。その結果、ヘム輸送体の細胞膜を貫通している部分は、20本のらせん構造で構成され、その中央にはヘムを運ぶための細長い空洞(チャネル)があり、その出口が細胞内側へ大きく開いた“内開き構造”をしていることを発見しました(図参照)。内開き構造はヘムを輸送した直後の状態です。さらに、ヘムを輸送するチャネルの表面には、アスパラギン酸残基によって負に帯電する部位があり、その露出度によってうまく制御され、ヘムの負電荷部分と“反発”することで、ヘムはチャネル内部から細胞内に効率よく排出されるという仕組みを突き止めました。

今後、ヒトと病原菌間の鉄争奪戦の仕組みを原子レベルの構造情報をもとに、さらに詳しく解明していくことで、新たな感染症治療薬の開発につながると期待できます。

理化学研究所
放射光科学総合研究センター 利用技術開拓研究部門 城生体金属科学研究室
専任研究員 杉本 宏 (すぎもと ひろし)
主任研究員 城 宜嗣 (しろ よしつぐ)