広報活動

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2016年11月15日

理化学研究所

休眠と冬眠の代謝制御機構の共通点を明らかに

-能動的低代謝の臨床応用を目指して-

哺乳類の熱産生系の図

図 哺乳類の熱産生系

私たちヒトも含めて動物は、睡眠時など静止して運動していない状態でも、体温維持、呼吸、心臓の動きなどのさまざまな生命活動を続けています。このような生きていくために必要な最小のエネルギー消費を基礎代謝と呼びます。リスやクマなどの冬眠動物は、「冬眠」に入ることで基礎代謝を正常時の1~25%まで低下させ、エネルギー消費を節約すること(低代謝状態)で冬期や飢餓を乗り越えることが知られています。

死に至るような低代謝状態から、目覚めると通常の活動を再開することから、冬眠は可逆的な変化といえます。これをヒトやヒトの臓器に実現できれば、現在では難しい重症患者搬送や再生臓器の長期ストックなど、高代謝がゆえに弊害となるケースを解決できる可能性があります。実際に2000年代に入って冬眠を行うサルが、アフリカのマダガスカル島やベトナムで発見されました。しかし、冬眠のメカニズムはいまだによく分かっていません。一方でマウスは条件が整うと、数時間にわたって基礎代謝が30%程度になる「休眠」という「能動的低代謝状態」に入ることが知られています。しかし、休眠の安定した誘導法や休眠と冬眠のメカニズムの共通点は分かっていませんでした。

今回、理研の研究チームはまず、マウスの個体差のばらつきをなくすために、個体差を含んだ代謝の数理モデルを作成しました。そして、この数理モデルから推定される値から外れる低代謝状態を休眠状態と定義しました。この手法により、客観的で安定したマウスの休眠判定が可能になりました。また、この休眠判定法を使い、C57BL/6Jというマウスの系統では、外気温が12~24℃の範囲内だと100%の確率で休眠に誘導できることが分かりました。そこで、この安定的な休眠誘導法を使って、さまざまな環境温度で休眠を誘導し、休眠中の体温制御のパラメータを推定しました。その結果、休眠中のマウスは冬眠動物と同様に「熱産生感度Hを低下させることで低代謝状態になること」が分かりました。ここで熱産生感度とは、マウスが維持したい体温の設定温度TRと実際の体温TBの差に対して、どれだけの熱を産生するかを決定する係数を指します(図参照)。

能動的低代謝は、哺乳類が長年の進化を経て獲得した優れた生存戦略です。その生存戦略をヒトに応用することで、救急医療や再生医療を著しく改善できると考えられます。今後、能動的低代謝の研究が盛んになり、低代謝のメカニズムの理解が進むことで、“次世代型の低代謝医療”が現実味を帯びてくると考えられます。

理化学研究所
多細胞システム形成研究センター 網膜再生医療研究開発プロジェクト
研究員 砂川 玄志郎 (すながわ げんしろう)