広報活動

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2016年11月28日

理化学研究所

糖鎖は不均一であることが重要

-糖鎖特有の分子認識機構をマウスで解明-

合成した「不均一な」糖鎖クラスターとマウス内での非侵襲的な蛍光イメージングの図

図 合成した「不均一な」糖鎖クラスターとマウス内での非侵襲的な蛍光イメージング

糖鎖とは、単糖(シアル酸やガラクトースなど)が数個、ときには数百個以上も枝分かれしながら連なったものです。タンパク質や細胞の表面には「アスパラギン結合型糖タンパク質糖鎖(N-結合型糖鎖)」と呼ばれる糖鎖が付いています。N-結合型糖鎖は、ウイルスの認識、細胞同士の接着、タンパク質の安定性などに深く関わっており、生命の維持活動に欠かせない分子です。

しかし実際の糖鎖は、1種類の糖鎖分子としてはではなく、異なる構造を持つ複数個のN-結合型糖鎖がタンパク質や細胞の表面に付いた状態で存在しています。これを「糖鎖の不均一性」と呼びます。特に細胞表面は、多くの種類の糖鎖分子からなる糖鎖クラスターで覆われています。一方で、糖鎖分子の種類は無数ともいえるほど多く、構造の複雑な糖鎖分子を有機合成することは簡単ではありません。また、N -結合型糖鎖は天然からごく少量しか得ることができないため、これまでに糖鎖の不均一性を解析することはできませんでした。

今回、理研を中心とした国際共同研究グループは、「理研クリック反応(6π-アザ電子環状反応)」を用いて、糖鎖の付加位置や量を制御することによりアルブミン(血清中の大部分を占める分子量6万程度の安定な可溶性タンパク質)の表面に多様な不均一糖鎖クラスターを合成しました。さらに、その中で6種類の不均一糖鎖クラスターを6匹のマウスにそれぞれ注射し、生きたままで蛍光イメージングを行いました。その結果、クラスターの構造の違いによって、膀胱や腸管からの尿や便としての排出速度や、体内での集積箇所(肝臓の非実質肝細胞など)が変化しました(図参照)。すなわち、糖鎖の不均一性がタンパク質の動態や臓器選択的な集積に大きく影響していることが分かりました。これは、生体内に「糖鎖の不均一性効果」という“分子認識機構”が存在することを示しています。

現在、体内の薬物分布を量的・空間的・時間的に制御し、コントロールする薬物伝達システムである、ドラックデリバリーシステム(DDS)の開発が進められています。DDSは、特定の組織への効果や副作用が軽減できると考えられています。今後、本成果の糖鎖の分子認識機構が抗体やペプチドに代わる、がんや疾患に特異的な新しいDDSの設計につながると期待できます。

理化学研究所
准主任研究員研究室 田中生体機能合成化学研究室
准主任研究員 田中 克典 (たなか かつのり)
国際プログラム・アソシエイト レギーナ・シブガチュリナ (Regina Sibgatullina)
客員研究員 リリア・ラティポバ (Liliya Latypova)