広報活動

Print

2016年12月7日

理化学研究所

転写分子の渋滞を発見

-DNA上の転写分子の渋滞が細胞の個性を作る-

mRNAの1分子イメージングの図

図 mRNAの1分子イメージング

“生命の設計図”と呼ばれる遺伝情報は、DNAにA、T、G、Cの4文字の塩基配列として書かれています。細胞が実際に生命活動を行うには、その塩基配列の一部を読み出して遺伝子発現をする必要があります。その過程の最初の段階が「転写」で、RNAポリメラーゼ(RNAP)というタンパク質(転写分子)がDNA上を動きながら遺伝情報を読み取ると同時に、そのコピーとなるメッセンジャーRNA(mRNA)を合成していきます。

一方で、mRNAの合成が一定頻度で起こらないことを「転写頻度のゆらぎ」と呼び、個々の細胞にあるmRNAの量に大きなばらつきを与えます。また、転写頻度のゆらぎは「細胞個性」を生み出し、発生や分化の過程に必須であることが近年明らかになってきました。ここで細胞個性とは、同じDNAを持ち、同じ環境にいる細胞集団でも、個々の細胞の振る舞いに違いが現れることです。さらに、転写頻度のゆらぎは、大腸菌からヒト細胞までのさまざまな細胞で観察されており、生命に普遍的な現象であるといわれています。しかし、細胞の中では分子の挙動を詳細に解析することができないため、転写頻度のゆらぎがどのような分子機構によって引き起こされるかはよく分かっていませんでした。

今回、理研の研究チームは、転写をRNAPとDNAだけで細胞外で再現し、全反射蛍光顕微鏡で観察しました。その結果、再現された転写においても、細胞内と同じく転写頻度のゆらぎが現れたことから、このゆらぎはRNAPとDNAの分子が原因であることが分かりました。さらに、mRNAの1分子イメージング(図参照)、原子間力顕微鏡画像撮影、コンピュータを用いたRNAPの運動シミュレーションを行いました。以上の結果から、「複数のRNAPがDNAに沿って動くとき、高速道路の渋滞と同じような渋滞が起こり、その渋滞がひどくなったり緩和したりする“ゆらぎ”が転写頻度のゆらぎとなること」が分かりました。

研究チームは、生命が転写頻度のゆらぎを持つ背景には、進化初期の原始的細胞にとって細胞個性が環境変化への適応に有利だったことがあると考えています。今後、細胞内で起こるRNAPの渋滞とその緩和を調節することができれば、例えば、iPS細胞からさまざまな細胞を作るときに必要な細胞状態の予測と制御に役立つ可能性があると考えられます。

理化学研究所
生命システム研究センター 細胞動態計測コア 細胞動態計測研究グループ
特別研究員 藤田 恵介 (ふじた けいすけ)
グループディレクター 柳田 敏雄 (やなぎだ としお)