広報活動

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2017年1月18日

理化学研究所
東京大学

反陽子の磁気モーメントを世界最高精度で測定

-宇宙から反物質が消えた謎の解明へまた一歩-

ペニングトラップの概略図

図 測定に用いたペニングトラップの概略図

138億年ほど前にビッグバンによって宇宙が誕生したときには、それぞれ同量の「粒子」と「反粒子」が生成されたと考えられています。しかし、現在の宇宙には粒子から成る「物質」はたくさんあるものの、反粒子から成る「反物質」はほとんど存在しません。これを「物質-反物質非対称性」といいます。また、現代物理学の根底には、重力を除く素粒子間の基本的な相互作用をまとめた「標準理論」がありますが、標準理論では物質-反物質非対称性について説明することができません。そのため、多くの科学者は標準理論に足りないプロセスを追究し、非対称性について説明することを試みています。

その一つに「CPT対称性の破れ」があります。CPT対称性とは、電荷(C)、空間(P)、時間(T)の三つを同時に反転しても物理法則が変わらないことを意味しています。CPT対称性が保たれているならば、ある粒子とその反粒子の質量と寿命は等しいはずであり、電荷や磁気モーメント(磁気の強さと向きを表す)の大きさは等しく、それらの符号は反対でなくてはなりません。もしこれらに一つでも違いがあればCPT対称性が破られることになり、標準理論の修正が求められたり、物質-反物質非対称性の謎を解く鍵が得られると考えられています。

今回、理研を中心とした国際共同研究グループはCPT対称性を検証するために、反陽子の持つ磁気モーメントを高精度で測定することに挑戦しました。「ペニングトラップ」を用いてその中で1個の反陽子を捕獲し、反陽子の運動が誘起するフェムトアンペア(1フェムトは1,000兆分の1)程度のごく微小な電流を超高感度で検知する装置などの開発を行いました(図参照)。その結果、相対精度(測定値に対する不確かさの割合)が1,000万分の8(0.8ppm)という非常に高い精度での、磁気モーメントの直接測定に成功しました。この成果は従来の測定精度の約6倍で、世界最高となりました。また、今回の反陽子の磁気モーメントの値は、2014年に報告された陽子の磁気モーメントと相対精度の範囲内で一致しました。従って、CPT対称性、つまり物質と反物質の対称性が保たれていることが確認されました。

今後、国際共同研究グループはさらに高い精度で反陽子の磁気モーメントを測定する予定で、CPT対称性に関する検証を続けていく予定です。

理化学研究所
Ulmer国際主幹研究ユニット
国際主幹研究員 ステファン・ウルマー (Stefan Ulmer)

原子物理特別研究ユニット
ユニットリーダー 山崎 泰規 (やまざき やすのり)