広報活動

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2017年2月15日

理化学研究所

狙った臓器で金属触媒反応を実現

-体内の疾患部分で薬を直接作る研究に大きな一歩-

有機合成化学の分野では、薬などさまざまな分子を自在に合成するために、多くの金属触媒が開発されてきました。近年、特に遷移金属触媒を用いた新しい有機合成反応が盛んに研究されています。例えば、ルテニウム触媒を用いた野依博士らの不斉還元反応、グラブス博士らのメタセスシ反応、パラジウム触媒を用いた鈴木博士、宮浦博士の鈴木・宮浦カップリング反応はノーベル化学賞を受賞しています。

もし金属触媒による有機反応を体内で行うことができれば、患者体内の狙った臓器で速やかに薬を現地合成することができ、副作用を軽減することができるかもしれません。一般的に金属触媒反応はフラスコ内で、無水かつ反応を妨げる分子がない条件下で行われます。しかし、体内には、水、血清、細胞、タンパク質、糖鎖、脂質などさまざまな分子が混在するため、金属触媒は活性を失い、特定の部位で効率的に反応を進行させることは不可能だと考えられてきました。

今回、理研を中心とする国際共同研究グループは、「糖鎖クラスター」を「3価の金(Au3+)触媒」の“運び屋”として利用し、狙った臓器で選択的に金属触媒反応を行うことを考えました。まず、末端にシアル酸を持つ糖鎖クラスターを金触媒に結合し、“金の運び屋”を合成しました。これをヌードマウスに静脈注射したところ、30分以内に金触媒は肝臓の表面に植え付けられました。続いて、目的の有機反応の基質である「プロパルギルエステル」に蛍光基を付けた分子を静脈注射しました。この分子は血液中を通って体全体を巡りますが、前もって植え付けられていた金触媒のある肝臓に到達すると、その肝臓表面にあるリジン残基などの「アミノ基」との間で、「アミド化反応」を起こしたことが蛍光イメージングにより分かりました。次に、末端にガラクトースを持つ糖鎖クラスターを金触媒に結合し、これを金の腸管への運び屋として、同様の実験を行いました。その結果、今度は腸管の表面でアミド化反応を起こしましたことが分かりました(図参照)。

本手法を用いて特定の臓器で金属触媒反応を起こせば、がんなどの疾患部位で直接、薬などの生理活性分子を効率的に合成できる可能性があります。今後、ドラッグデリバリーシステムに基づいた有機反応による創薬の実現に貢献すると期待できます。

肝臓や腸管での選択的な金触媒アミド化反応による蛍光標識の生体内イメージング図

図 肝臓や腸管での選択的な金触媒アミド化反応による蛍光標識の生体内イメージング

理化学研究所
准主任研究員研究室 田中生体機能合成化学研究室
准主任研究員 田中 克典 (たなか かつのり)
大学院生リサーチ・アソシエイト 坪倉 一輝 (つぼくら かずき)
特別研究員 ケンワード・ヴォン