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2017年2月17日

理化学研究所
北京大学

中性子過剰核94種の寿命測定に成功

-重元素合成r過程・希土類元素の起源解明に大きく前進-

要旨

理化学研究所(理研)仁科加速器研究センター櫻井RI物理研究室のウー・ジン国際プログラム・アソシエイト、西村俊二先任研究員、櫻井博儀主任研究員らの研究チームを中心とするEURICA(ユーリカ)国際共同研究グループ[1]は、理研の重イオン加速器施設「RIビームファクトリー(RIBF)[2]」を利用し、質量数A=144~174の中性子過剰核[3]94種の寿命測定に成功しました。

ランタノイド[4]を含む希土類元素(レアアース)[4]は、携帯電話の電子部品、自動車のモーター、レーザーの光学素子など、さまざまな用途に使われている貴重な元素です。希土類元素の生成の起源として、重い星がその一生を終えるときに起こす超新星爆発[5]が考えられています。超新星爆発が起こると大量の中性子が作られ、星の中にある鉄よりも軽い元素の原子核が中性子を次々と吸収しながらベータ崩壊を起こし、安定な重い原子核になります。この一連の爆発的重元素合成過程は「r過程[6]」と呼ばれています。一方、最近、r過程の候補として中性子星合体[7]も注目されています。中性子星合体では、中性子過剰な超重元素が大量に作られた後、核分裂反応により希土類元素が生成された可能性があります。

r過程の時間スケールや重元素の生成量を理解するためには、原子核の寿命を知る必要がありますが、これまでは理論計算に頼っており不確定性が大きいため、実験的な検証が求められていました。西村先任研究員らは2015年に、質量数A=100~140の中性子過剰核110種の寿命測定に成功しています注1)

今回、研究チームはRIBFを利用して、希土類元素の生成に関わる中性子過剰核を生成し、その寿命測定を試みました。まず、大強度のウランビームをベリリウム標的に照射し、セシウム(Cs:原子番号55)からホルミウム(Ho:原子番号67)までの13元素の中性子過剰核を同定しました。それらを高性能寿命測定装置「WAS3ABi(ワサビ)[8]」に打ち込むことにより、中性子過剰核94種の寿命を測定することに成功しました。このうち57種は初めて測定されたものです。また、得られた寿命の系統性を調べたところ、中性子数N=97とN=105において、崩壊スピードが急激に速くなる現象を見いだしました。さらに、得られたデータをr過程の理論計算に取り込み、太陽系の重元素合成の検証を行った結果、希土類元素の組成を決定する上で新たな57種のデータが非常に重要な役割を果たすことが分かりました。

本成果は、希土類元素合成の不確定性を大幅に改善することとなり、今後の重元素合成の起源解明に大きく前進しました。

本研究は、米国の科学雑誌『Physical Review Letters』オンライン版(2月16日付け)に掲載されます。

注1)2015年5月12日プレスリリース 重元素合成の鍵を握る中性子過剰核110個の寿命測定に成功

背景

自然界には原子番号1の水素(H)から92のウラン(U)までの元素が、安定に存在しています。原子番号26の鉄(Fe)より軽い元素は、星(恒星)の中で原子核同士の反応により作られますが、鉄より重い元素(重元素)、例えば原子番号79の金(Au)やウランがどのようにして作られたのかは明らかにされていませんでした。重元素のうち約半数の元素の生成の起源として、重い星がその一生を終えるときに起こす超新星爆発が考えられています。超新星爆発が起こると大量の中性子が作られ、星の中にある鉄より軽い元素の原子核が中性子を次々に吸収します。その後、中性子を多く吸収した不安定な原子核が放射線としてベータ線を放出するベータ崩壊を起こし、安定な重い原子核になります。この一連の爆発的重元素合成過程は高速(rapid)に連続して起こるため、rapidの頭文字をとって「r過程」と呼ばれています。

原子の中心にある原子核は陽子と中性子で構成され、これらの数により原子核の性質が決まります。自然界に存在する安定な原子核は、陽子と中性子がほぼ同数でバランスが取れていますが、そのバランスが崩れると不安定になり、自然界に存在しない原子核(不安定核)になります。一方、陽子と中性子のどちらかが2、20、28、50、82、126に一致すると、特に安定となります。これが「魔法数[9]」と呼ばれるものです。

実際に、r過程に起因する太陽系の元素の存在度をみると、特異な第1、2、3ピーク構造が質量数A=80, 130, 195近傍に存在します(図1(a))。これは、r過程の際に原子核が安定となる中性子魔法数N=50, 82, 126において停滞したものが、ベータ崩壊してできた痕跡だと考えられています。

一方、携帯電話の電子部品などに使われる希土類元素(レアアース)に相当する質量数A=165近傍のピーク構造がどのように形成されたのかは分かっていません。希土類元素のピーク構造の起源として、超新星爆発を起因とするr過程の終焉に、安定核近傍の質量数A=165近傍における元素合成の「収束効果説」が提唱されています(図1(b))。一方で、r過程の候補として中性子星合体も注目されています。中性子星合体では、さらに大量の中性子を吸収した超重元素が「核分裂反応」をすることにより希土類元素を生成したと考えられています(図1(b))。

r過程で大量に作られる中性子過剰核の性質(寿命、質量、遅発中性子放出[10]、中性子捕獲反応)は、重元素合成の起源の解明において重要な鍵を握ります。しかし、その性質は理論計算に頼っており不確定性が大きいため、実験的な検証が求められていました。2015年に、西村先任研究員らは質量数A=100~140の中性子過剰核110種の寿命の測定に成功しています。今回、研究チームは「RIビームファクトリー(RIBF)」を利用し、希土類元素の合成に関与する中性子過剰核(質量数A=165近傍)の寿命を測定することで、希土類元素の合成の検証に挑みました。

研究手法と成果

研究チームは、ウラン-238(238U、原子番号92、質量数238)を超伝導リングサイクロトロン(SRC)[11]で光速の70%まで加速させた1次ビームを、標的であるベリリウム-9(9Be、原子番号4、質量数9)に照射し、核分裂反応で質量数A=144~174の中性子過剰核(放射性同位体元素、RI[12])を生成しました(図2)。生成したRIを超伝導RIビーム生成分離装置(BigRIPS)[13]で選別後、同定を行いました。次に、同定した非常に中性子過剰なセシウム(Cs:原子番号55)からホルミウム(Ho:原子番号67)までの13元素のRI(図3)を高性能寿命測定装置「WAS3ABi(ワサビ)」に打ち込みました。WAS3ABiでは、各RIの埋め込み時間、停止位置、同じ場所からベータ崩壊に伴って放出されるベータ線の放出時間をそれぞれ精度よく測定し、その結果を統計処理することで寿命を高い精度で決定できます。

また、WAS3ABiを取り囲む核分光装置「EURICA(ユーリカ)[14]」では、原子核の励起状態から放出されるガンマ線を測定します。WAS3ABiとEURICAという2つの検出器を組み合わせることで、中性子過剰核94種の高精度寿命測定に加え、2種の核異性体[15]の寿命測定に成功しました(図45)。このうち、57種の寿命は初めて測定されたものです。

さらに、得られた寿命(半減期)の系統性を調べたところ、中性子数N=97とN=105において、崩壊速度が急激に速くなる現象を見いだしました(図5)。これまでにEURICAで測定した144種の半減期を含む合計238種の半減期データを、r過程の理論計算に取り込み、太陽系の重元素合成の検証を行いました。その結果、新たに分かった57種の半減期データが、希土類元素の組成を決定する上で重要な役割を果たすことが明らかになりました(図6)。

今後の期待

本研究により、希土類元素の起源として考えられている質量数A=160近傍の中性子過剰核領域の収束効果における不確定性を大きく改善する結果が得られました。今後、寿命のデータに加え、質量、遅発中性子放出、核分裂に関する情報を収集することにより、希土類元素、金、ウランなどの元素合成の起源を解明できると期待できます。

原論文情報

  • J. Wu, S. Nishimura, G. Lorusso et al. "94 β-Decay Half-Lives of Neutron-Rich 55Cs to 67Ho: Experimental Feedback and Evaluation of the r-Process Rare-Earth Peak Formation", Physical Review Letters, doi: 10.1103/PhysRevLett.118.072701

発表者

理化学研究所
仁科加速器研究センター 櫻井RI物理研究室
国際プログラム・アソシエイト ウー・ジン (吴 锦)
(北京大学 研究員)
先任研究員 西村 俊二 (にしむら しゅんじ)
主任研究員 櫻井 博儀 (さくらい ひろよし)

報道担当

理化学研究所 広報室 報道担当
Tel: 048-467-9272 / Fax: 048-462-4715
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補足説明

  1. EURICA(ユーリカ)国際共同研究グループ
    理化学研究所、東京大学をはじめとして、研究には世界20カ国(日本、英国、イタリア、香港、スペイン、フランス、ドイツ、中国、韓国、オーストラリア、カナダ、米国、ハンガリー、スイス、ノルウエー、トルコ、ベトナム、ベルギー、サウジアラビア、チリ)から32の大学・研究機関、230名以上が参加する世界最高性能の核分光測定プロジェクト。共同研究者のうち、日本人は40名(17%)となる。2012年6月から本格的に稼働し、2016年6月に18件の全実験プログラムを完了した。
  2. RIビームファクトリー(RIBF)
    理研が所有するRIビーム発生施設と独創的な基幹実験設備群で構成される重イオン加速器施設。RIビーム発生施設は、2基の線形加速器、5基のサイクロトロンと超伝導RIビーム分離生成装置「BigRIPS」で構成される。世界最多となる約4,000種のRIを生成できる。
  3. 中性子過剰核
    安定同位体と比較して中性子を多く含んだ不安定核。ほとんどはベータ崩壊を起こし、原子番号が一つ大きな核種に壊変する。陽子と比べて中性子の分布が大きく広がった中性子ハローや、既知の魔法数の消滅や新魔法数の出現などの興味深い現象が見つかっている。
  4. ランタノイド、希土類元素(レアアース)
    ランタノイドは、周期表第6周期第3族の原子番号57から71までの15元素(La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu)の総称。同じ第3族で第4周期の原子番号21のスカンジウム(Sc)、第5周期の原子番号39のイットリウム(Y)とともに希土類元素(レアアース)に分類される。
    元素周期表
  5. 超新星爆発
    大質量の星(恒星)がその一生を終えるときに起こす大規模な爆発現象。太陽の約8倍より重い星の場合、核融合反応により中心核の質量が増えると、やがて陽子の電子捕獲反応が起きて、中心核内部に中性子過剰な原子核が増える。これによって電子の縮退圧が弱まり、重力収縮が打ち勝って一気に崩壊する(重力崩壊型超新星爆発)。
  6. r過程
    超新星爆発時に起きると考えられている元素合成過程のモデル。高速(rapid)に連続して中性子を捕獲しながら崩壊(ベータ崩壊)するため、r過程と呼ばれる。鉄よりも重い元素(重元素)のほぼ半分は、このr過程で生成される。重元素を生成するもう一方の支配的なs(slow:低速)過程は、赤色巨星への進化段階でゆっくりした中性子捕獲によって元素合成が行われる。s過程に比べ、r過程は未解明な部分が多い。このr過程が起きる場所の候補として、中性子星合体も提案されている。
  7. 中性子星合体
    二つの中性子星(中性子が主な成分)が互いの重心の周りを公転する連星系は、重力波を放出することにより公転周期が短くなり、やがて合体する。太陽の8~20倍の質量の連星の両方が、超新星爆発を起こした後に形成される。現在、10例程度の中性子星連星が観測されていて、これらは1~10億年後に合体すると考えられている。
  8. WAS3ABi(ワサビ)
    理研が開発した高性能寿命測定装置。1mmの位置測定能力を特徴とするシリコン半導体検出器(60x40平方mm)を3~8枚重ね合わせた構造をしており、捕集したRIが崩壊時に放出するベータ線を高感度で検出し位置と時間を決定する。
  9. 魔法数
    原子核は、原子と同様に殻構造を持ち、陽子または中性子がある決まった数のとき閉殻構造となり安定化する。この数を魔法数と呼び2、8、20、28、50、82、126が古くから知られている。理研では新たに16、34の魔法数の発見を報告している。
  10. 遅発中性子放出
    中性子過剰な原子核がベータ崩壊する際に、娘核の中性子分離エネルギーより大きいエネルギーを持つ場合に放出される中性子のこと。
  11. 超伝導リングサイクロトロン(SRC)
    サイクロトロンの心臓部に当たる電磁石に超伝導を導入し、高い磁場を発生できる世界初のリングサイクロトロン。全体を純鉄のシールドで覆い、磁場の漏洩を防ぐ自己漏洩磁気遮断の機能を持っている。総重量は8,300トン。このSRCを使い非常に重い元素であるウランを高速の70%まで加速できる。また、超伝導という方式によって従来の方法に比べ100分の1の電力で動かせるため、大幅な省エネも実現している。
  12. 放射性同位元素(RI)
    物質を構成する原子核には、時間とともに放射線を放出しながら安定核になるまで壊変し続けるものがある。このような原子核を放射性同位元素と呼ぶ。放射性同位体、不安定同位体、不安定原子核、不安定核(エキゾチックな原子核)、ラジオアイソトープ(RI)とも呼ばれる。天然にある物質は、寿命が無限かそれに近い安定核(安定同位体)で構成されている。
  13. 超伝導RIビーム生成分離装置(BigRIPS)
    ウランなどの1次ビームを生成標的に照射することによって生じる大量の不安定核を集め、必要とするRIを分離し、実験グループにRIビームを供給する装置。RIの収集能力を高めるために、超伝導四重極電磁石が採用されており、ドイツGSI研究所など他の施設に比べ約10倍の収集効率を持つ。
  14. EURICA(ユーリカ)
    欧州ガンマ線検出器委員会が運営するクラスター型ゲルマニウム半導体検出器12台を球形に配置した(EURICA用)ガンマ線測定装置。ゲルマニウム半導体検出器はガンマ線エネルギーの精密測定に適しており、それらを多数配置することにより、生成された原子核がたとえ少なくても詳細な原子核分光研究を行うことができる。例えば、放射性同位体137Csが放出する662keVのガンマ線に対し、1台では1.3%のところ世界最高水準となる約15%の効率でエネルギー測定ができる。
  15. 核異性体
    比較的長い寿命を持つ励起状態にある原子核。通常の励起状態がピコ秒(1ピコ秒は1兆分の1秒)程度で崩壊するのに対し、核異性体はナノ秒(1ナノ秒は10億分の1秒)程度から、長いものでは年単位の寿命を持つ場合もある。「異性体」という言葉は、もともとは化学の分野で分子全体の化学組成は変わらずに原子配列が異なる状態に対して用いられていた。

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太陽系の元素存在度と核図表の図

図1 太陽系の元素存在度と核図表

(a) r過程に起因する太陽系の鉄より重い元素の存在度。第1ピーク、第2ピーク(130Xe)、3ピーク(195Pt)と希土類元素のピーク構造を持つことが分かる。赤線は、これまでのRIビームファクトリー(RIBF)データを取り込んだ元素存在度の計算結果。

(b) これまでにEURICAで半減期を測定した144種の半減期(水色の四角)と新たに測定した94種の半減期(赤の四角)。緑の四角は既知の不安定核を示す。希土類元素の生成の起源として、超新星爆発を起因とするr過程の終焉における収束効果と、中性子星合体を起因とする非常に重い中性子過剰核の核分裂が提案されている。

実験装置の全体像の図

図2 実験装置の全体像

ウラン-238を超伝導リングサイクロトロン(SRC)で光速の70%まで加速させた1次ビームを、標的であるベリリウム-9に照射し、核分裂反応で質量数A=144~174の中性子過剰な原子核を生成した。生成したRIビームを超伝導RIビーム生成分離装置(BigRIPS)で選別後、同定を行った。さらに高性能寿命測定装置WAS3ABiに打ち込み、生成したRIの寿命を一挙に測定することに成功した。

生成したRIの粒子識別結果の図

図3 生成したRIの粒子識別結果

原子番号55のセシウム(Cs)から67のホルミウム(Ho)まで13元素のRI。
色は粒子の強度を示す。赤丸は、今回初めて寿命測定に成功したそれぞれの原子の最も中性子過剰な原子核を示す。

寿命の測定に成功した中性子過剰核の図

図4 寿命の測定に成功した中性子過剰核

黒い四角で表された安定核の右下あたりに、今回半減期の測定に成功した94種類の原子核(緑、紺、水色、薄い水色の四角)と2種類の核異性体(赤い四角)が示されている。

セシウムからホルミウムまで13元素の寿命(半減期)の中性子過剰度依存性の図

図5 セシウムからホルミウムまで13元素の寿命(半減期)の中性子過剰度依存性

黒い丸は今回測定した半減期実験データで、白い三角はこれまでの実験データ。青線、緑線、赤線は、代表的な核理論計算による予測値。中性子が過剰になるほど(各グラフで右へいくほど)、半減期が短くなっていくことが分かる。紫の矢印は急激に崩壊速度が速くなるとことを示しており、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)では中性子数N=97に、ユウロピウム(Eu)、ガドリウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)ではN =105にその現象が現れることが分かる。ただし、プロメチウム(Pm)ではN=100で逆に崩壊速度が遅くなる現象もみえている(青い矢印)。斜線は既知の質量領域を示す。

観測による太陽系の元素存在度と超新星爆発を起因とした場合の予想元素存在度の図

図6 観測による太陽系の元素存在度と超新星爆発を起因とした場合の予想元素存在度

白い丸は太陽系の元素存在度を示す。緑・赤・青の網掛け領域は、理論計算1、2、3の寿命を採用した場合のスペクトルの不確定性を示す。黒線は、今回のRIBF実験の寿命データを取り込むことにより、寿命の不確定性を排除した分布を示している。

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