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2017年2月27日

理化学研究所

水銀ランプに迫る殺菌用の高効率深紫外LEDを実現

-殺菌・浄水、医療で有用な携帯紫外LEDランプに期待-

要旨

理化学研究所(理研)産業連携本部イノベーション推進センター高効率紫外線LED研究チームの椿健治チームリーダー、高野隆好研究員、美濃卓哉研究員、阪井淳研究員、野口憲路研究員と平山量子光素子研究室の平山秀樹主任研究員らの共同研究チームは、殺菌用の深紫外LED[1](発光ダイオード)を従来の5倍程度高効率化することに成功しました。

波長200~350ナノメートル(nm、1nmは10億分の1メートル)の光を発光する深紫外LEDは、殺菌・浄水、空気清浄をはじめ、医療、樹脂硬化形成・接着、印刷など非常に広い応用分野での利用が期待されています。しかし、これまでの深紫外LEDは、LED内部で発光した光を外部に取り出す効率(光取り出し効率[2])が低いため高効率動作が難しく、普及が進んでいません。光取り出し効率は、①LEDのコンタクト層によって紫外光の多くが吸収される、②電極で紫外光が吸収される、③素子内の内部反射で光が外に出にくいという三つの影響で大幅に低減されています。

今回、共同研究チームは、加工サファイア基板(PSS)[3]上に高品質な窒化アルミニウム(AlN)テンプレート層を結晶成長[4]させ、その上にn型窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)[5]層、発光層、電子ブロック層、透明なp型AlGaNコンタクト層を製膜し、高反射特性を持つロジウム(Rh)電極をp型電極として形成しLED構造を作製しました。その結果、光取り出し効率が大幅に向上され、外部量子効率[6]は殺菌用途に最適な275nm付近の波長において、これまでの4.3%から20.3%という世界最高の効率動作に達しました。この値は、現在殺菌灯として用いられている低圧水銀ランプの効率(約20%)に迫るものです。

今後、本手法による高効率な深紫外LEDが実現すれば、殺菌・浄水、空気清浄のみならず、皮膚治療などへの医療用途や、農作物の病害防止などの農業、紫外線硬化を用いた樹脂形成、紫外接着、3Dプリンター、印刷・塗装、コーティング、各種計測など幅広い応用分野での普及が期待できます。

本研究成果は、オンライン科学雑誌『Applied Physics Express』電子版(2月14日付け)に掲載されました。

背景

波長200~350ナノメートル(nm、1nmは10億分の1メートル)の光を発光する深紫外発光ダイオード(LED)は、殺菌・浄水、空気清浄をはじめ、医療、樹脂硬化形成・接着、印刷など非常に幅広い応用分野での利用が期待されています。しかし、これまでの深紫外LEDは効率が3~4%程度と低くかつ高価なため、普及が進んでいません。

深紫外LEDの効率を向上させるためには、LED内部で発光した光を外部に取り出す効率(光取り出し効率)を大幅に改善する必要があります。光取り出し効率は、①LEDのコンタクト層によって紫外光の多くが吸収される、②電極で紫外光が吸収される、③素子内の内部反射で光が外に出にくいという三つの影響で大幅に低減されています。

そこで共同研究チームは、深紫外LEDのコンタクト層を透明化し、また高反射電極を導入することにより光取り出し効率の改善を試みました。

研究手法と成果

共同研究チームはまず、加工サファイア基板(PSS)上に高品質な窒化アルミニウム(AlN)テンプレート層を有機金属気相成長法(MOCVO法)[4]により結晶成長させ、さらにその上にn型窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)層、発光層、電子ブロック層、p型AlGaNコンタクト層を製膜し、高反射特性を持つロジウム(Rh)電極をp型電極として形成しLED構造を作製しました。

従来型深紫外LEDでは、p型窒化ガリウム(GaN)コンタクト層が紫外光を吸収するため、これを紫外光に対して透明なp型AlGaNコンタクト層に変更しました。また、従来型のニッケル/金(Ni/Au)電極を高反射Rh電極に変更することで、電極反射率を約2.5倍に向上させました。またPSS上に素子を形成することで、光散乱効果[7]高い光取り出し効率を実現しました(図1)。

図2に深紫外LEDの外観図を示します。シリコンサブマウント上にフリップチップ構造[8]の深紫外LEDを形成し、さらに光取り出し効率を向上させるために樹脂をレンズ状にコーティングしました。

作製した深紫外LEDを、室温・連続動作の条件下で動作させたところ、従来型深紫外LEDの外部量子効率が4.3%だったのに対し、新型深紫外LEDでは20.3%に向上しました(図3)。この値は、現在報告されている深紫外LEDの中で最高となりました。この値は現在殺菌灯として用いられている、低圧水銀ランプの効率(約20%)に迫るものです。

今後の期待

本成果を適用した新しい深紫外LEDは、現在市販されている深紫外LEDの5倍程度の高効率化を実現すると期待できます。

今後、新しい高効率な深紫外LEDが市場供給できるようになれば、殺菌・浄水、空気清浄をはじめ、皮膚治療などへの医療用途や、農作物の病害防止などの農業、紫外線硬化を用いた樹脂形成、紫外接着、3Dプリンター、印刷・塗装、コーティング、高密度光記録、各種計測など非常に幅広い応用分野での普及が期待できます。

原論文情報

  • Takayoshi Takano, Takuya Mino, Jun Sakai, Norimichi Noguchi, Kenji Tsubaki and Hideki Hirayama, "Deep-ultraviolet light-emitting-diodes with an external quantum efficiency of over 20% at 275nm achieved by improving the light extraction efficiency", Applied Physics Express, doi: 10.7567/APEX.10.031002

発表者

理化学研究所
イノベーション推進センター 高効率紫外線LED研究チーム
チームリーダー 椿 健治(つばき けんじ)
研究員 高野 隆好(たかの たかよし)
研究員 美濃 卓哉(みの たくや)
研究員 阪井 淳(さかい じゅん)
研究員 野口 憲路(のぐち のりみち)

主任研究員研究室 平山量子光素子研究室
主任研究員 平山 秀樹(ひらやま ひでき)

椿 健治チームリーダーの写真 椿 健治
高野 隆好 研究員の写真 高野 隆好
美濃 卓哉 研究員の写真 美濃 卓哉
阪井 淳 研究員の写真 阪井 淳
野口 憲路 研究員の写真 野口 憲路
平山 秀樹 主任研究員の写真 平山 秀樹

報道担当

理化学研究所 広報室 報道担当
Tel: 048-467-9272 / Fax: 048-462-4715
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補足説明

  • 1.深紫外LED
    深紫外波長で発光する発光ダイオード(LED)。紫外光(UV、波長200~400nm)は、UVA(320~400nm)、UVB(280~320nm)、UVC(200~280nm)に分類され、UVAは樹脂硬化・接着や速乾印刷・塗装、コーティング、3Dプリンターなどに、UVBは、アトピー治療などの皮膚治療、農作物の病害防止、UVCは殺菌・浄水などに用いられる。半導体発光素子では、深紫外波長とは200~350nmを一般的に指す。本研究では、殺菌用途の270nmで発光するLEDを主に開発している。LEDはlight emitting diodeの略。
  • 2.光取り出し効率
    LED内部で発光した光のうち、外部に取り出せる光の割合。深紫外LEDの光取り出し効率は、LED内部に光吸収層が存在するため非常に低く、通常は8%程度である。理研では、素子の透明化と散乱層の導入、縦型構造の導入で最大で70%程度を目標に研究を進めている。
  • 3.加工サファイア基板(PSS)
    表面上に数マイクロメートル(μm、1μmは1,000分の1mm)周期の凹凸構造を形成したサファイア基板。凹凸構造は、一般的にナノインプリンティングとドライエッチングを用いて形成される。PSSはpatterned sapphire substrateの略。
  • 4.AINの結晶成長、有機金属気相成長法(MOCVO法)
    AlN結晶などの窒化物半導体は、有機金属気相成長法(MOCVD法)を用いて結晶成長を行う。トリメチルアルミニウム(TMAl)やアンモニアガスを材料とし用い、1,400℃程度の高温で成長することによって高品質結晶が得られる。
  • 5.窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)
    窒化物半導体の中で最もバンドギャップ(電子が存在できないエネルギー帯)が大きい窒化アルミニウム(AlN)半導体と窒化ガリウム(GaN)半導体の混晶。アルミニウム(Al)の混晶組成比を変化させることで、バンドギャップを3.4~6.2eVと変化させることができ、波長210~360nmで発光できる直接遷移型半導体である。AlN結晶の上に、AlGaN混晶半導体を用いた深紫外LEDを作製することで、理研ではこれまでの研究で220~350nm波長帯の深紫外LEDを実現している。
  • 6.外部量子効率
    LEDなどの発光素子の発光層に注入する電子数に対して,発光素子外部に放射される光子数を割合で示したもの。LEDの場合、チップへのキャリア、内部量子効率(接合部発光層に注入されたキャリア数に対する発光する光子数の比)、光取り出し効率の積で表される。発光層で発生する光子の一部はLEDチップ内で吸収されたり、あるいはLEDチップ内で反射され続けるため、LEDチップ外に出てこない。このため、外部量子効率は内部量子効率よりも低くなる。外部量子効率に電圧効率(電極やp型、n型伝導層での電圧ロスを考慮した効率)をかけた値が、電力-光変換効率となる。
  • 7.光散乱効果
    素子内の光路上に光線の角度をランダムに変化させる構造を設け、効率的にチップ外部に光を取り出させる効果。通常のLED素子の場合、発生した紫外線は各部材の屈折率の関係から窒化物半導体内に閉じ込められ易く、素子外部に取り出されにくい。加工により凹凸構造が付与されたサファイア基板を用いる事で、効果的に紫外線を外部に取り出す事が出来る。
  • 8.フリップチップ構造
    LED素子と実装基板が、バンプ等の端子を介して電気的に接触される構造。LED素子の電極面は実装基板側を向き、紫外線出射面であるサファイア基板裏面側が上を向く。端子は電気的接触を得るだけでなく、LED素子で生じた熱を実装基板に逃がす役目も担う。
深紫外LEDの従来型と新型の構造図

図1 深紫外LEDの従来型と新型の構造

(a)従来型深紫外LEDの構造。サファイア基板上にLEDを作製する。p型窒化ガリウム(GaN)コンタクト層とニッケル/金(Ni/Au)低反射電極の使用により、光取り出し効率は低い。

(b)今回開発した新型深紫外LEDの構造。加工サファイア基板(PSS)上にLEDを作製する。透明p型AlGaNコンタクト層とロジウム(Rh)高反射電極の使用により、光取り出し効率が向上した。

新しく開発した深紫外LEDの外観図

図2 新しく開発した深紫外LEDの外観図

シリコンサブマウントの上にフリップ構造の深紫外LEDを形成した。また、樹脂をレンズ状にコーティングすることにより、光取出し効率を向上させた。

殺菌用波長(275m)での深紫外LEDの光出力と外部量子効率の図

図3 殺菌用波長(275m)での深紫外LEDの光出力と外部量子効率

(a)従来型(水色の丸)と新型(赤の丸)の深紫外LEDの光出力の比較。

(b)従来型と新型の深紫外LEDの外部量子効率の比較。従来型が4.3%程度なのに対し、新型は20.3%と約5倍に大幅に向上した。

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