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2017年3月1日

理化学研究所

116番元素リバモリウム合成の検証に成功

-熱い融合反応による119番以降の新元素探索へ向けて前進-

要旨

理化学研究所(理研)仁科加速器研究センター超重元素分析装置開発チームの加治大哉仁科センター研究員と森本幸司チームリーダー、超重元素研究グループの森田浩介グループディレクター(九州大学大学院理学研究院教授)、RI応用チームの羽場宏光チームリーダーらの国際共同研究グループ[1]は、理研の重イオン線形加速器「RILAC(ライラック)」[2]を用いて、原子番号20のカルシウム(48Ca)ビームと96のキュリウム(248Cm)標的との融合反応により、原子番号116のリバモリウム同位体「292Lvと293Lv」の合成に成功しました。これは119番以降の新元素探索の足掛かりとなる成果です。

原子番号104以降の非常に重い元素は「超重元素」と呼ばれ、重イオン加速器を用いた融合反応で人工的に合成します。これまで、理研を中心とする研究グループは、「冷たい融合反応(原子番号82の鉛[Pb]や83のビスマス[Bi]を標的とした重イオン融合反応)」により、原子番号108のハッシウム(263,264,265Hs)、110のダームスタチウム(271Ds)、111のレントゲニウム(272Rg)、112のコペルニシウム(277Cn)、113のニホニウム(278Nh)の合成に成功しています。とりわけ、278Nhは日本発・アジア初となる新元素として国際純正・応用化学連合(IUPAC)により認められました。

リバモリウム(Lv)の合成は、次の“新元素探索”において適用を検討している「熱い融合反応(アクチノイド[3]を標的とした重イオン融合反応)」による本格的な超重元素合成実験と位置付けられます。2000年にロシア・米国共同研究チームが、2012年にドイツ研究チームがLvの合成に成功した先行研究を検証した結果、報告例とよく一致するリバモリウム同位体(292Lvと293Lv)を各3個ずつ合成することに成功しました。気体充填型反跳分離器「GARIS(ガリス)」[4]の高い分離・収集能力も確認され、先行するロシアの研究に対しても十分な競争力を持つと期待できます。

本研究成果は、日本物理学会の英文誌『Journal of the Physical Society of Japan(JPSJ)』(Vol.86、No.3号)に掲載されるのに先立ち、オンライン版(日本時間3月1日)に掲載されます。

本研究は、日本学術振興会 科学研究費補助金 特別推進研究「新元素の探索と超重元素の化学」の支援を受けて行われました。

背景

原子番号104以降の非常に重い元素は「超重元素」と呼ばれ、重イオン加速器を利用した融合反応で人工的に合成します。新しい超重元素の発見は、原子核は一体どこまで存在するかという“原子核の存在限界”についての問題とも関連します。

理研仁科加速器研究センター超重元素研究グループの森田浩介グループディレクターを中心とする研究グループ(森田グループ)が合成・発見した原子番号113のニホニウム(Nh)は、2016年に日本発・アジア初となる新元素として国際純正・応用化学連合(IUPAC)により認められました注1)。現在、原子番号118までの元素が認定されており、元素周期表の第7周期までの全てが埋められています(図1)。人類が到達しうる最も大きな原子番号を持つ原子核を人工的に合成する“新元素探索”は、超重元素研究における最大の挑戦です。

これまで、理研を中心とする研究グループは、「冷たい融合反応(原子番号82の鉛[Pb]や83のビスマス[Bi]を標的とした重イオン融合反応)」により、原子番号108のハッシウム(263,264,265Hs)、110のダームスタチウム(271Ds)、111のレントゲニウム(272Rg)、112のコペルニシウム(277Cn)、113のニホニウム(278Nh)の合成に成功しています(図2)。

冷たい融合反応は、魔法数[5]近傍に存在する安定核を標的にして重イオン(原子番号26~30)ビームを照射し核融合反応を起こすことで、励起エネルギー[6]の低い冷たい状態の複合核(励起エネルギーが10~20MeV)を経由して超重元素を合成する方法です(図3上)。複合核から放出される中性子数が1〜2個程度のため核分裂との競合回数が少なくなり、超重元素の原子核(超重核)として生き残る確率を高くすることができます。さらに、合成される原子核の崩壊連鎖が既知の原子核へ到達する可能性があるのが特徴です。しかし、原子番号の増加とともに生成率が減少していくため(図4)、冷たい融合反応による119番以降の新元素探索は困難だと考えられています。そこで、119番以降の新元素探索にロシア・米国の共同研究グループが先駆的に研究を進めてきた「熱い融合反応」の適用を検討しています。熱い融合反応は、アクチノイド(原子番号89から103までの元素)を標的にして比較的軽い重イオン(原子番号10~20)ビームを照射し核融合を起こすことで、冷たい融合反応より励起エネルギーの高い熱い状態の複合核(励起エネルギーが30~50MeV)を経由して超重元素を合成する方法です(図3下)。複合核から放出される中性子数が3~5個程度のため核分裂との競合回数が多くなりますが、中性子過剰な原子核同士の融合によって冷たい融合反応で合成される超重核より、中性子過剰な超重核が合成されます。先行研究では、中性子過剰な原子核の安定性に起因して、原子番号114を超えても高い生成率を持つことが報告されており(図4)、新元素探索において熱い融合反応が有望視されています。

理研を中心とする研究グループは2008年以降、超重元素の化学的な性質を調べるための実験として、アクチノイドであるキュリウム(248Cm)標的に重イオン(酸素[18O]、フッ素[19F]、ネオン[22Ne]、ナトリウム[23Na])ビームを照射しました(図5)。その結果、熱い融合反応により原子番号104のラザホージウム(260,261,262Rf)、105のドブニウム(262Db)、106のシーボーギウム(265Sg)、107のボーリウム(266,267Bh)の合成に成功しました(図2)。

そこで、次の段階として2000年にロシア・米国共同研究チームが、2012年にドイツ研究チームが成功した熱い融合反応による116番元素リバモリウム(Lv)の合成を試みました注2、3)。この実験は、超重元素研究グループが持つ実験システムの性能評価と報告されている高い生成率の検証を目的として行いました。

注1)2016年11月30日トピックス「113番元素の名称・記号が正式決定
注2)Yu. Ts. Oganessian et al., Phys. Rev. C 63, 011301(2000).
注3)S. Hofmann et al., Eur. Phys. J. A 48, 62 (2012).

研究手法と成果

実験の概念図を図6に示します。国際共同研究グループは、理研の重イオン線形加速器「RILAC(ライラック)」でカルシウム(48Ca)ビームを光速の11%に加速し、平均で毎秒5.7×1012個の48Ca原子をキュリウム(248Cm)標的に照射して融合反応を起こし、リバモリウム(Lv)同位体(陽子の数が同じで中性子の数が異なる元素)を合成する実験を行いました。この照射では48Caと248Cm標的との衝突で発生する熱が、厚さ2マイクロメートル(μm、1μmは1,000分の1mm)のチタン薄膜(標的を支える膜)を溶かしてしまうため、直径10cmの円板に248Cm標的を取り付けて毎分1,000回転で回転させました(図5)。

融合反応で合成されるLv同位体は48Caビームと同じ方向に放出されるため、48Caビームと目的核をいかに効率よく分離するかが実験の成否を決めます。理研の超重元素研究グループが開発した気体充填型反跳分離器「GARIS(ガリス)」は、48Caビーム、48Caビームによって弾き出される標的核(248Cm)、目的としない副応生成物などをできる限り除去し、目的とするLv同位体をGARIS下流に設置した焦点面検出器へと導くことができます。焦点面検出器は、飛行時間検出器とシリコン半導体検出器「Si-box」で構成されています。検出器内で生じるLv同位体起源のアルファ崩壊(α崩壊)[7]自発核分裂[8]事象を観測することで、核種(原子核の種類)を同定します。

リバモリウム合成実験の結果、リバモリウム同位体(292Lvと293Lv)を各3個ずつ合成することに成功しました。観測された崩壊連鎖は、図7に示すような半減期と崩壊エネルギーを示しました。これらは、欧米諸国で行われた二つの先行研究とよく一致していました。293Lv(陽子数116、中性子数177)はこれまでに知られている原子核の中で最も中性子過剰な原子核の一つです。横軸に中性子の数をとり、縦軸を陽子の数で描かれる核図表上の右端、最も中性子の多い領域へ到達したことを意味します(図2)。先行研究で報告されている高い生成率も検証できました。

今後の期待

本研究は、原子番号119以降の新元素探索に向けた熱い融合反応研究の第一歩であり、気体充填型反跳分離器「GARIS」の高い分離・収集能力に関する情報を得ました。熱い融合反応においても原子番号の増加とともに生成率の低下が予測され(図4)、新元素探索ではニホニウム研究同様の長期にわたる実験が見込まれます。理研の重イオン加速器から供給される大強度ビームを用いて生成率を向上させ、さらに熱い融合反応において約1.7倍高い収集効率を持つ新しい気体充填型反跳分離器「GARIS-Ⅱ」を用いることで、熱い融合反応研究に関する包括的な理解や第8周期初となる新元素探索に取り組んでいきます。

原論文情報

  • D. Kaji, K. Morita, K. Morimoto, H. Haba et al., "Study of the Reaction48Ca +248Cm →296Lv* at RIKEN-GARIS", Journal of the Physical Society of Japan, doi: 10.7566/JPSJ.86.034201

発表者

理化学研究所
仁科加速器研究センター 超重元素研究グループ 超重元素分析装置開発チーム
仁科センター研究員 加治 大哉(かじ だいや)
チームリーダー 森本 幸司(もりもと こうじ)

仁科加速器研究センター 超重元素研究グループ
グループディレクター 森田 浩介(もりた こうすけ)

仁科加速器研究センター RI応用研究開発室 RI応用チーム
チームリーダー 羽場 宏光(はば ひろみつ)

報道担当

理化学研究所 広報室 報道担当
Tel: 048-467-9272 / Fax: 048-462-4715

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補足説明

  • 1.国際共同研究グループ
    理化学研究所、九州大学、日本原子力研究開発機構、中国科学院蘭州近代物理学研究所、ドイツ重イオン核科学研究所、新潟大学、山形大学、埼玉大学が参加(22名)
  • 2.重イオン線形加速器「RILAC(ライラック)」
    高周波電場を用いて、荷電粒子(イオンや電子)を直線的に加速する加速器のこと。イオンを加速する線形加速器では、多数のチューブ型電極が空洞の中に直線上に並べられている。電極の長さと高周波の周波数は、電極間の電場の向きがイオンの到達時間に同期して変わるように設計され、電極間を通過するたびにイオンは加速されていく。RILACは重イオンを加速するために、低い周波数(18~45MHz)で運転できるようになっており、また多種のイオンに対応するため周波数を変えることができる(可変周波数構造)。通常のイオン線形加速器はパルス運転であるが、RILACは連続運転ができるため、平均ビーム強度が非常に高い。RILACはRIKEN heavy ion linear acceleratorの略。
  • 3.アクチノイド
    原子番号89から103まで、すなわちアクチニウム(Ac)からローレンシウム(Lr)までの15の元素を指す。周期表の第7周期、第3族に入る。本研究では原子番号96のキュリウム(Cm)を使用した。
  • 4.気体充填型反跳分離器「GARIS(ガリス)」
    重イオン融合反応で合成した目的の原子核を、入射ビームや副反応生成物から、高効率・高分離能で分離、収集する装置。ヘリウムガスの充填により、目的とする原子核が標的からどのようなイオン価数で飛び出してきても、効率良く収集することができる。GARISは GAs-filled Recoil Ion Separatorの略。
  • 5.魔法数
    原子核は原子と同様に殻構造を持ち、陽子または中性子がある決まった数のとき閉殻構造となり安定化する。この数を魔法数と呼び、2、8、20、28、50、82、126が古くから知られている。1949年にマリア・ゲッパート=メイヤーとヨハネス・ハンス・イェンゼンが、大きなスピン-軌道相互作用を導入することによって魔法数を説明し、1963年にノーベル賞を受賞した。
  • 6.励起エネルギー
    エネルギーの低い安定な状態(基底状態)からエネルギーの高い状態(励起状態)間のエネルギー差
  • 7.アルファ崩壊(α崩壊)
    アルファ粒子(ヘリウム4の原子核で原子番号2、質量数4)を放出して、より安定な核に崩壊すること。これによって原子番号が2小さく質量数が4小さい核に変化する。
  • 8.自発核分裂
    不安定な原子核の崩壊様式の一つ。特に原子番号の大きな核にみられ、外部からの作用なしに核分裂を起こして崩壊すること。
元素周期表の図

図1 元素周期表

超重元素と呼ばれる原子番号104以降の超アクチノイド元素は、人工的に合成することで発見された。本研究では原子番号116のリバモリウム(Lv)の合成に成功した。2016年、元素周期表の第7周期までの全てが認定されたことで、新元素研究の最前線は第8周期に突入している。

核図表の末端(超重元素領域)の画像

図2 核図表の末端(超重元素領域)

原子核を構成する中性子と陽子数を横軸と縦軸に表した原子核の地図。崩壊様式による分類を色分けで示している。黄色:アルファ崩壊(α)、緑:自発核分裂(SF)、ピンク:電子捕獲(EC)。理研を中心とする研究グループはこれまでに、「冷たい融合反応」により原子番号108のハッシウム(263,264,265Hs)、110のダームスタチウム(271Ds)、111のレントゲニウム(272Rg)、112のコペルニシウム(277Cn)、113のニホニウム(278Nh)の合成に成功している。また、「熱い融合反応」により原子番号104のラザホージウム(260,261,262Rf)、105のドブニウム(262Db)、106のシーボーギウム(265Sg)、107のボーリウム(266,267Bh)の合成に成功している。本研究で原子番号116番のリバモリウム同位体(292Lvと293Lv)の合成に成功したことにより、核図表の右端である最も中性子の多い原子核へ到達した。

超重元素の合成方法の図

図3 超重元素の合成方法

①冷たい融合反応:森田グループが行ったニホニウムの合成に用いた反応系を示す。魔法数近傍のビスマス(209Bi)を標的に重イオン(亜鉛[70Zn])ビームを照射することで核融合反応を起こす。励起エネルギーの低い冷たい状態の複合核を経由して超重元素を合成する。

②熱い融合反応:本研究でリバモリウム(Lv)の合成に用いた反応系を示す。中性子過剰なアクチノイド(キュリウム[248Cm])を標的に重イオン(カルシウム[48Ca])ビームを照射することで核融合反応を起こす。励起エネルギーの高い熱い状態の複合核を経由して超重元素を合成する。

融合反応の起こりやすさ(反応断面積)の図

図4 融合反応の起こりやすさ(反応断面積)

冷たい融合反応、熱い融合反応ごとに、反応生成核(標的原子核と重イオン)の原子番号に対して反応断面積をプロットした図。右側の軸には、典型的な実験条件を仮定したときの生成率を示している。冷たい融合反応では、原子番号の増加とともに生成率が減少していく。熱い融合反応では、原子核の安定性に起因して、原子番号が増えても高い生成率を示している。

実験に用いたキュリウム標的(<sup>248</sup>Cm)と回転ホイールの写真

図5 実験に用いたキュリウム標的(248Cm)と回転ホイール

2μmのチタン箔上にキュリウム(248Cm)を電着して標的を準備する。248Cm標的は直径10cmの回転ホイールに設置し、標的が溶けてしまわないように1分間あたり1,000回転させながら照射する。

リバモリウム合成実験の概要図

図6 リバモリウム合成実験の概要

イオン源から引き出したカルシウム(48Ca)ビームを可変周波数RFQと重イオン線形加速器「RILAC」によって光速の11%の速度まで加速し、キュリウム(248Cm)標的に照射すると核融合反応が起こる。気体充填型反跳分離器「GARIS」で入射粒子や計測上妨害となるバックグラウンドをできるだけ除去し、反応生成核であるLv同位体を効率よく焦点面検出器へと導く。2台の飛行時間検出器とシリコン半導体検出器「Si-box」で構成される焦点面検出器でLv同位体起源のアルファ崩壊(α崩壊)と自発核分裂事象を観測することで核種を同定する。また、シリコン検出器内で生じるα崩壊と自発核分裂の時系列を解析することで崩壊連鎖を得られる。

観測された<sup>292</sup>Lvおよび<sup>293</sup>Lvの崩壊連鎖の図

図7 観測された292Lvおよび293Lvの崩壊連鎖

崩壊様式による分類を色分けで示している。黄色:アルファ崩壊(α)、緑:自発核分裂(SF)。
今回行ったリバモリウム合成実験では、二つのリバモリウム同位体(292Lvと293Lv)に起因するアルファ崩壊連鎖を観測した。観測された各核種からのアルファ崩壊エネルギー、半減期を示している。

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