広報活動

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2017年3月2日

理化学研究所
ハリー・パーキンス医療研究所

タンパク質をコードしないRNAをカタログ化

-機能的なncRNAの数は遺伝子の総数に匹敵-

ヒトlncRNAに記載された27,919種のlncRNAの内訳の図

ヒトlncRNAに記載された27,919種のlncRNAの内訳

行ったことのない土地を旅するとき、頼りになるのが地図。地図帳をぱらぱらとめくって、これから訪れる場所に想いを馳せるのも、旅の楽しみの一つですね。地図帳を英語でアトラス(atlas)と呼びますが、もともとはギリシャ神話で天を担ぐ巨人の名前で、昔の地図帳の表紙にアトラスの絵が描かれたことからきたそうです。

2005年、これまでの生命科学で開拓されていなかった新たな研究対象が明らかとなりました。タンパク質を作る情報を持たないRNA、ノンコーディングRNA(ncRNA)です。これまでRNAの役割として知られてきた主なものは、DNAが持つ(コードする)タンパク質の配列情報を写し取り、タンパク質を作る細胞小器官に運ぶことです。ヒトゲノムは約30億の塩基配列より構成されますが、タンパク質をコードする領域や、特定の機能を担う少数のncRNAを作る配列以外の大部分は、生命活動にとって意味のないゴミのようなものだと思われていました。しかし、理研の研究者らが中心となり結成された国際研究コンソーシアム「FANTOM」の研究グループは、タンパク質を作るRNAよりも多くのncRNAを発見しました。突如見つかった未踏領域は、「RNA大陸の発見」として大きな衝撃を与えました。ただし、RNA大陸を分け行って、ncRNAが何をしているかを調べるのは容易ではありません。「タンパク質の配列情報」のようなはっきりした手がかりがないので、その配列からncRNAの機能を推測することが難しいのです。それでもFANTOMの研究者達は、さまざまな細胞でどのようなncRNAが発現しているかや、正常な細胞とがん細胞では発現するncRNAに違いがあるかなどを調べ、その役割に迫っています。

今回、FANTOMの研究グループは、ヒトのncRNAのうち約200塩基以上の長さを持つ長鎖ノンコーディングRNA(lncRNA)の27,919種について、配列の特徴や発現パターンなどの情報をカタログ化した「ヒトlncRNAアトラス」を作成しました。疾患を抱える患者さんに頻出するゲノムDNAの変異情報や、ヒト以外のモデル動物のncRNAの配列情報などと照らし合わせて詳しく解析したところ、19,175種のlncRNAに何らかの機能があると推定されました。ヒトゲノムには遺伝子が約2万あると考えられていますが、今回の結果は、それとほぼ同数あるいはそれ以上のlncRNAが機能している可能性を示しています。

ncRNAの研究者はヒトlncRNAアトラスを手に、広大なRNA大陸のどこを次に探検すべきか考えています。次のFANTOMプロジェクトでは、ncRNAのさらに具体的な機能に迫ります。ご期待ください。

理化学研究所
ライフサイエンス技術基盤研究センター 機能性ゲノム解析部門 LSA要素技術研究グループ ゲノム情報解析チーム
チームリーダー ピエロ・カルニンチ (Piero Carninci)
研究員 ホン・ヂョン-チョウ (Hon Chung-Chau)

予防医療・診断技術開発プログラム
プログラムディレクター 林崎 良英 (はやしざき よしひで)
コーディネーター 川路 英哉 (かわじ ひでや)