広報活動

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2017年3月13日

理化学研究所
メリーランド大学

持続可能性のモデリング

-自然と人間の双方向カップリングの必要性-

要旨

理化学研究所(理研)計算科学研究機構データ同化研究チームの三好建正チームリーダー、メリーランド大学のサファ・モテシャレイ研究員、イウゲニア・カルネイ教授、地球環境・社会研究所のホルヘ・リバス氏らの国際共同研究グループは、持続可能性を研究するためのシミュレーションにおいて、「自然と人間を双方向にカップリングしたモデリング」が必須であることを発見しました注)

気候変動など地球環境予測に使われる地球システムモデルでは、人間活動の効果は外部強制力として与えられています。しかし、エルニーニョ現象[1]が大気海洋間の双方向カップリングを考慮して初めて地球システムの内部変動としてシミュレーションできたことを考えると、地球の自然システムと人間活動の双方向カップリングは、人間を含む地球システム全体を理解するのに必須であるといえます。人間が自然に与える影響は、産業革命、緑の革命[2]の二つの時期にレジームシフト[3]がみられ、加速度的に増大してきました。その結果、今や人間活動の影響は地球規模にまで拡大し、人間活動が地球のダイナミクスに直接影響を与えるようになってきました。このような時代になった今こそ、「自然と人間を双方向にカップリングしたモデリング」が必要になります。

今回、国際共同研究グループは、自然と人間を双方向にカップリングした単純なシミュレーションモデルにより、貧富の格差が進んだ社会では人類の滅亡が予想され、「自然を食い潰すシナリオ」と「自然が残るシナリオ」が得られることを示しました。またこのモデルを使うと、手遅れになる前に貧富の格差を縮小させたり、出生率を抑えて人口をコントロールしたりすることで、破滅を防ぎ自然と共生する持続可能な道を歩むことができるという結果も得られます。自然と人間を双方向にカップリングしたモデリングにより、人口増加、所得・消費格差、環境汚染などの社会問題に、人間社会の政策などが表立って考慮されるようになり、持続可能な未来社会について、シミュレーション科学によって直接取り組めるようになります。

本研究は、オックスフォード大学出版による科学雑誌『National Science Review』(2016年12月号)に掲載されました。

注)2017年2月9日メリーランド大学プレスリリース

※国際共同研究グループ

理化学研究所 計算科学研究機構 研究部門 データ同化研究チーム
チームリーダー 三好 建正(みよし たけまさ)

メリーランド大学
研究員 サファ・モテシャレイ(Safa Motesharrei)
教授 イウゲニア・カルネイ(Eugenia Kalnay)

地球環境・社会研究所(Institute for Global Environment and Society)
ホルヘ・リバス(Jorge Rivas)
教授 ヘルナンド・ミラレス・ウィルヘルム(Fernando Miralles-Wilhelm)

共同地球変動研究機関(Joint Global Change Research Institute)
教授 ガセム・アスラー(Ghassem R. Asrar)

大気研究大学連合(UCAR)
教授 アントニオJ. ブサラッキ(Antonio J. Busalacchi)

ジョンズホプキンズ大学 応用物理研究所
教授 ロバート F.カヘイラン(Robert F. Cahalan)(アメリカ航空宇宙局 ゴダード宇宙飛行センター フェロー)

コロンビア大学 ラモン・ドハティ地球観測所(LDEO)
教授 マーク・ケイン(Mark A. Cane)

ブラウン大学 社会科学における空間構造(S4)/人口調査トレーニングセンター(PSTS)
教授 レイチェル F.フランクリン(Rachel S. Franklin)

ノースイースタン大学 公共政策・都市政策学部
教授 マティアス・ルース(Matthias Ruth)

ジョージ・メイソン大学 大気海洋地球科学専攻(AOES)
教授 シャガディッシュ・シュクラ(Jagadish Shukla)

背景

18世紀半ばから19世紀にかけて起きた産業革命以降、人間活動の地球環境への影響力は急速に増大し続け、今や地球システムへ大きな影響を与えるまでになりました。一方、地球環境の変動は人間に大きな影響を与えます。これまで、気候変動など地球環境予測に使われる地球システムモデルでは、人間活動の効果は外部強制力として与えられてきました。数年かけて地球規模で変動するエルニーニョ現象は、大気・海洋間の双方向カップリングの効果により、初めて地球システムの内部変動としてシミュレーションすることができました。地球環境予測に使われる地球システムモデルは、研究が始まった1960年代には大気モデルに単純な表面モデルを結合しただけのものでした。しかしその後、海洋大循環、詳細な陸面過程、雪氷面、植生、炭素循環、その他の大気微量成分など複数の要素を結合して、より精緻なものとなってきました。

上述のように、人間活動は地球環境に多大な影響を及ぼすまでに大きくなり、また逆に地球環境の変化は人間に大きな影響を与えます。この双方向のフィードバックは、大気・海洋間の双方向フィードバックで起こるエルニーニョ現象のように、何か重要な内部変動を引き起こすかもしれません。地球システムモデルにおいて、自然と人間を双方向にカップリングすることで、自然と人間の間で起こる地球システムの内部変動が新たに明らかになるかもしれません。そのような内部変動があるとすれば、これまでのように人為起源の効果を外部強制力として与えると、正確な将来予測が行えず、持続可能な未来のための正しい政策決定などに結び付かなくなる恐れがあります。

研究手法と成果

国際共同研究グループはまず、人間活動が地球システムを支配するまでに大きくなってきたことを、実際のデータを用いて示しました。人間活動は地球システムの中で、エネルギーや物資を地球システムから得て、排出物やゴミなどを地球システムに返します。この人間活動の規模を表す国内総生産(GDP)を調べると、産業革命以降、人口が爆発的に増加し、人口1人当たりのGDPも同様に増加していることがデータによって示されています。これにより、産業革命以前は地球システム全体から見ると取るに足らない規模だった人間活動が、今や地球システム全体と同規模になったと考えられます。地球規模にまで膨らんだ人間活動により、天然資源が地球規模で消費され、排出物やゴミが地球規模で排泄されます。また、温室効果ガスの排出量のデータを調べると、世界人口のトップ10%の富裕層が、残り90%とほぼ同じだけの温室効果ガスを排出していることが示され、格差が進んでいることも分かります。

これらのことを、自然と人間を双方向にカップリングした単純化したシミュレーションモデルを構築して調べたところ、貧富の格差が進んだ社会では人類の滅亡が予想され、「自然を食い潰すシナリオ」(図1左)と「自然が残るシナリオ」(図1右)が得られました。自然を食い潰すシナリオでは、自然資源を使って富をため込み続け、自然資源量が枯渇した後も蓄えた富を使って人口は増え続けて、蓄えが尽きた後に破滅を迎えます。自然が残るシナリオでは、自然資源を使って富をため込みますが、富裕人口が急激に増えることで、蓄えた富を食い潰す一方、自然が回復していきます。このシミュレーションモデルを使うと、手遅れになる前に、格差を縮小させたり、出生率を抑えて人口をコントロールしたりすることで、破滅を防ぎ自然と共生する持続可能な道を歩むことができるという結果も得られます。

以上の結果に基づき、本研究は、自然と人間を双方向カップリングした本格的なシミュレーション研究の必要性を訴えます。地球システムモデルには、これまで気候変動など地球環境予測のために研究されてきた、大気・海洋・陸域のシミュレーションモデルを使うことができます。人間システムモデルについては、人口動態、水資源、エネルギー、農業、工業、建設、運輸などを統合したシミュレーションモデルが必要です。これを実現するには、自然科学者と社会科学者が協働し、優れた地球システムと人間システムの力学系モデリングの統合が求められます。そして、データ同化[4]の知見を生かし、現実世界の動態に即したシミュレーションとなるよう、パラメータの調整を行うことも重要となります。

今後の期待

本研究で重要性を明らかにした、自然と人間を双方向にカップリングした優れた力学シミュレーションモデルを用いることで、人間が自然と共生し、持続可能な未来を築くために、どのような政策決定を行う必要があるか、科学的、客観的に研究し、意思決定に直結する助言を与えることができるようになります。人間活動が地球規模にまで拡大した今、一刻も早く多分野にわたる科学者の英知を結集、統合し、人類が抱える最も重要な課題に真正面から取り組んでいくことが期待されます。

原論文情報

  • Safa Motesharrei, Jorge Rivas, Eugenia Kalnay, Ghassem R. Asrar, Antonio J. Busalacchi, Robert F. Cahalan, Mark A. Cane, Rita R. Colwell, Kuishuang Feng, Rachel S. Franklin, Klaus Hubacek, Fernando Miralles-Wilhelm, Takemasa Miyoshi, Matthias Ruth, Roald Sagdeev, Adel Shirmohammadi, Jagadish Shukla, Jelena Srebric, Victor M. Yakovenko, Ning Zeng, "Modeling sustainability: population, inequality, consumption, and bidirectional coupling of the Earth and Human Systems", National Science Review, doi: 10.1093/nsr/nww081

発表者

理化学研究所
計算科学研究機構 研究部門 データ同化研究チーム
チームリーダー 三好 建正 (みよし たけまさ)

三好建正チームリーダーの写真

三好 建正

報道担当

理化学研究所 広報室 報道担当
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補足説明

  1. エルニーニョ現象
    太平洋赤道域の日付変更線付近から南米沿岸にかけて海面水温が平年より高くなり、その状態が1年程度続く現象。ひとたびエルニーニョ現象が発生すると、日本を含め世界中で異常な天候が起こると考えられている。
  2. 緑の革命
    1940年代から1960年代にかけて、稲・小麦などの高収量品種の開発や化学肥料の大量投入などにより、穀物の生産性が増大した開発途上国における農業技術革新のこと。
  3. レジームシフト
    あるレジーム(安定的状態)から別のレジームへと階段状に急激に変化すること。気候や生態系など自然現象全般に関して用いられる概念。
  4. データ同化
    シミュレーションと実測データとを融合し、相乗効果を生み出す力学系理論および統計数理に基づいた学際的科学のこと。

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自然と人間を双方向にカップリングした単純化したシミュレーションの図

図1 自然と人間を双方向にカップリングした単純化したシミュレーション

自然と人間を双方向にカップリングした単純化したシミュレーションモデルによる、貧富の格差が進んだ社会の時系列。緑は自然資源量、黄は環境収容力、灰は蓄積した富の総量、青は一般人口、赤は富裕人口を表す。

左: 自然を食い潰すシナリオ(500年間)で、自然資源を使って富をため込み続け、自然資源量が枯渇した後も蓄えた富を使って人口は増え続けて、蓄えが尽きた後に破滅を迎える。

右: 自然が残るシナリオ(1,000年間)で、自然資源を使って富をため込むが、富裕人口が急激に増えることで、蓄えた富を食い潰す一方、自然が回復していく。

(Motesharrei et al. 2017のFig. 5より転載)

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