広報活動

Print

2017年4月4日

理化学研究所
国際農林水産業研究センター
国際熱帯農業センター
筑波大学

干ばつに強いイネの実証栽培に成功

-将来の人口増加による食料不足の解決に向けた一歩-

要旨

理化学研究所(理研)環境資源科学研究センター機能開発研究グループの篠崎一雄グループディレクター、高橋史憲研究員、国際農林水産業研究センターの中島一雄プログラムディレクター、国際熱帯農業センターの石谷学グループリーダー、筑波大学の草野都教授らの国際共同研究グループは、シロイヌナズナ[1]ガラクチノール合成酵素遺伝子(AtGolS2[2]を現在普及している品種のイネに導入し、干ばつ耐性が向上した遺伝子組換えイネを開発しました。

開発途上国を中心とした世界の人口増加と経済成長により2050年には現在の1.6倍以上の食料増産が必要になると言われ注1)、農作物の安定かつ持続的な生産が喫緊の課題になっています。特に干ばつは農作物の生長や収穫量に大きく影響を及ぼし、毎年1千8百万トンのコメを干ばつにより損失しています。そのため、干ばつ等の不良環境下でも生産性の高い作物の開発が求められています。

理研は、植物が乾燥耐性を獲得するうえでラフィノース属オリゴ糖[3]の基質であるガラクチノールが重要な物質であることを、2002年に報告しています。AtGolS2を過剰発現させたシロイヌナズナは、ガラクチノールを有意に蓄積し、乾燥条件でも長く生き抜きます。

国際共同研究グループは、AtGolS2を導入した遺伝子組換えイネを開発し、コロンビアにある国際熱帯農業センターの乾燥圃場で試験を行いました。その結果、この遺伝子組換えイネは原品種と比較して、最大で約70倍という多量のガラクチノールを蓄積することを確認しました。さらに、複数年に渡る圃場試験の結果、30日間を超える無降雨期間という厳しい干ばつ条件下でも単位面積当たりの収量は最大で157%増加し、高い収量を維持できることを実証しました。

今後は、開発したイネを用いてアフリカや南米において大規模な現地栽培試験を行い、干ばつ条件でも安定して2~3割の増収を目指します。また、モデル植物として広く普及しているシロイヌナズナから単離できるAtGolS2の導入は、他の地域の主要イネ品種においても同様の効果が発揮されると期待できます。

本研究成果は、米国の科学雑誌『Plant Biotechnology Journal』に掲載されるのに先立ち、オンライン版(4月4日付け:日本時間4月4日)に掲載されます。

本研究は、農林水産省の委託プロジェクト研究「途上国における乾燥耐性品種の開発」の支援のもと実施されました。

注1) How to feed the world in 2050. FAO (2009)
注2) Taji et al.: "Important roles of drought-and cold-inducible genes for galactinol synthase in stress tolerance in Arabidopsis thaliana"Plant Journal. 29. 417-426 (2002)

※国際共同研究グループ

理化学研究所 環境資源科学研究センター 機能開発研究グループ
グループディレクター 篠崎 一雄 (しのざき かずお)
研究員 高橋 史憲 (たかはし ふみのり)

国際農林水産業研究センター
プログラムディレクター 中島 一雄 (なかしま かずお)
主任研究員 石崎 琢磨 (いしざき たくま)
主任研究員 圓山 恭之進(まるやま きょうのしん)
研究員 小賀田 拓也(おがた たくや)
技術員 吉原 今日子(よしわら きょうこ)

国際熱帯農業センター
グループリーダー 石谷 学 (いしたに まなぶ)
研究員 セルバラジ・ゴメス・ミシェル(Selvaraj Gomez Michael)
研究員 バレンシア・ミルトン(Valencia Milton)
研究員 デディコバ・ビータ(Dedicova Beata)

筑波大学大学院 生命環境科学研究科
教授 草野 都 (くさの みやこ)(理研環境資源科学研究センター 統合メタボロミクス研究グループ 客員主管研究員)

東京大学 農学生命科学研究科
研究員 小川 諭志 (おがわ さとし)(千葉大学大学院 薬学研究院)
教授 斉藤 和季 (さいとう かずき)(理研環境資源科学研究センター 統合メタボロミクス研究グループ グループディレクター)

背景

開発途上国を中心とした世界の人口増加と経済成長により、中長期的には世界の食料需給がひっ迫することが予想され、2050年には現在の1.6倍以上の食料増産が必要になると言われています。そのため、食料・栄養不足が集中している開発途上地域を中心に、農作物の安定かつ持続的な生産が喫緊の課題になっています。一方で熱帯等の開発途上地域は低肥沃土や乾燥等の不良な環境条件下の農地が多く、また、気候変動に対しても脆弱であるため、農業生産性が低い状態が続いています。特に干ばつは、農作物の生長や収穫量に大きく影響を及ぼします。米については、毎年干ばつによって、日本の年間生産量の約2倍に相当する1千8百万トンが損失していると言われています。こうした世界の食料問題を解決するための方策のひとつとして、開発途上地域の干ばつ等の不良環境下でも生産性の高い作物の開発が求められています。

研究手法と成果

理研と国際農林水産業研究センターは、モデル植物のシロイヌナズナを用いて、植物が乾燥ストレスに耐えるためのメカニズムの解明に長年取り組み、乾燥ストレスに対して働く多くの遺伝子を同定してきました。理研では、その中の1つであるガラクチノール合成酵素遺伝子(AtGolS2)の機能を強化したシロイヌナズナが、高い乾燥ストレス耐性を示すことを温室の実験で明らかにしています。これらの成果を基に、国際共同研究グループはAtGolS2を導入した遺伝子組換えイネを開発し、実際の条件に近い乾燥圃場で干ばつ耐性の向上を検証するための試験を実施しました。

シロイヌナズナのAtGolS2を南米およびアフリカの普及陸稲品種Curinga[4]およびNERICA4[5]に導入し、恒常的にAtGolS2を発現する遺伝子組換えイネを作出しました(図1)。作出した遺伝子組換えイネは原品種と比べ、Curingaをベースとした系統で7.1~14.3倍、NERICA4をベースとした系統で17.5~69.7倍、ガラクチノールを植物体内に蓄積することを確認しました(図1)。さらに、複数年にわたる大規模な圃場試験の結果、干ばつの程度の強弱に関係なく、原品種と比べてCuringaをベースとした系統で20~157%、NERICA4をベースとし系統で17~40%、単位面積当たり収量が増加しました(図1図2)。

これらの結果を裏付ける生理学的な特性として、乾燥条件下における葉の相対含水率の維持、光合成能の維持、及び生育阻害低減等の乾燥ストレス抵抗性に関与する生理機能が向上していることが分かりました。

今後の期待

国際共同研究グループは今回、モデル植物シロイヌナズナの遺伝子であるAtGolS2が乾燥耐性のイネの開発に有用であることが示しました。今後は、さらなる干ばつ耐性の向上を目指して、他の乾燥ストレスに対して有用に働く遺伝子を導入した系統との交配による耐性遺伝子の集積を図ります。また、今回開発したCuringaおよびNERICA4をベースとした遺伝子組換えイネ系統については、アフリカや南米において収量性等を再確認するための大規模な現地栽培試験を行う予定です。試験終了後は、国際機関や現地研究・普及機関の協力により、技術マニュアルの配付や種子増殖等の普及活動を展開し、この遺伝子組換えイネを導入した地域で、干ばつ条件でも安定的に2~3割の収量向上を目指します。また、AtGolS2の導入は、他の地域の主要イネ品種においても同様の効果が発揮されると期待できます。

原論文情報

  • Michael Gomez Selvaraj, Takuma Ishizaki, Milton Valencia, Satoshi Ogawa, Beata Dedicova, Takuya Ogata, Kyouko Yoshiwara, Kyonoshin Maruyama, Miyako Kusano, Kazuki Saito, Fuminori Takahashi, Kazuo Shinozaki, Kazuo Nakashima, and Manabu Ishitani, "Overexpression of an Arabidopsis thaliana galactinol synthase gene improves drought tolerance in transgenic rice and increased grain yield in the field", Plant Biotechnology Journal, doi: 10.1111/pbi.12731

発表者

理化学研究所
環境資源科学研究センター 機能開発研究グループ
グループディレクター 篠崎 一雄 (しのざき かずお)
研究員 高橋 史憲 (たかはし ふみのり)

国際農林水産業研究センター
プログラムディレクター 中島 一雄 (なかしま かずお)

国際熱帯農業センター
グループリーダー 石谷 学 (いしたに まなぶ)

筑波大学大学院 生命環境科学研究科
教授 草野 都 (くさの みやこ)
(理研環境資源科学研究センター 統合メタボロミクス研究グループ 客員主管研究員)

篠崎グループディレクターと高橋研究員の写真

篠崎グループディレクターと高橋研究員

報道担当

理化学研究所 広報室 報道担当
Tel: 048-467-9272 / Fax: 048-462-4715
お問い合わせフォーム

産業利用に関するお問い合わせ

理化学研究所 産業連携本部 連携推進部
お問い合わせフォーム

このページのトップへ

補足説明

  1. シロイヌナズナ
    キャベツやブロッコリーに代表されるアブラナ科の一年草。産業的な価値を持たない雑草であるが、モデル植物として最先端の植物研究の材料として用いられる。
  2. ガラクチノール合成酵素遺伝子
    UDP-ガラクトースとmyo-イノシトールとを基質としてガラクチノールを合成する酵素をコードする遺伝子。ガラクチノール合成酵素遺伝子を恒常的に発現するシロイヌナズナは乾燥耐性を持つことが分かっている。
    ガラクチノール合成酵素遺伝子の図
  3. オリゴ糖
    単糖が数個結合した糖類。ラフィノース属オリゴ糖は、ガラクチノールを基質として合成されるラフィノースやスタキオースを含み、植物の乾燥ストレス耐性獲得に関与すると考えられている。ラフィノースにはビフィズス菌を増やす作用(整腸作用)があり、カロリーオフの甘味料として利用されている。
    オリゴ糖の図
  4. Curinga
    ブラジル農牧研究公社(Embrapa)がリリースした南米ブラジルの主要陸稲品種。熱帯ジャポニカ。長粒、多収、いもち病抵抗性、褐色葉枯病抵抗性、酸性土壌耐性、乾燥耐性を特徴とする。
  5. NERICA4
    アフリカ稲センター(AfricaRice)がリリースしたアフリカ(エチオピア、ギニア、マリ、コートジボアールなど)の主要陸稲品種。熱帯ジャポニカとアフリカイネとの種間雑種に由来し、長粒、多収、耐虫性、倒伏抵抗性、乾燥耐性を特徴とする。

このページのトップへ

イネの原種品とシロイヌナズナの<em>AtGolS2</em>遺伝子導入を導入した系統の比較図

図1 イネの原種品とシロイヌナズナのAtGolS2遺伝子導入を導入した系統の比較

シロイヌナズナから単離したガラクチノール合成酵素AtGolS2遺伝子を遺伝子組換え技術により南米およびアフリカの普及陸稲品種CuringaおよびNERICA4に導入した。作出した遺伝子組換え系統は、原品種と比較して多量のガラクチノールを蓄積し、干ばつ条件の圃場において高い収量性を示した。右上グラフの横軸は、遺伝子組換え体の系統番号。写真はコロンビア国CIATにおける干ばつ条件での隔離圃場試験の様子。左が原品種のCuringa、右がCuringaにAtGolS2遺伝子を導入した系統。右のほうが、稲穂がよく実っていることが分かる。

Curinga及びNERICA4に<em>AtGolS2</em>を導入した遺伝子組換え系統の収量

図2 Curinga及びNERICA4にAtGolS2を導入した遺伝子組換え系統の収量

本研究では、複数年にわたって大規模な圃場試験を実施した。Curingaについては2012年から3期、NERICA4については2013年から2期に渡って実施している。2012-13期においては開花期を含む31日間、2013-14期においては開花期を含む39日間、無降雨期間があり、いずれも厳しい干ばつ条件に相当する。2014-15期における無降雨期間は開花後の19日間であり、比較的弱い干ばつ条件に相当する。各グラフの横軸は遺伝子組み換え体の系統番号を示す。

このページのトップへ