広報活動

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2017年4月6日

理化学研究所

ニッケル錯体触媒の電子構造を可視化

-新しいキラル分子の合成を可能とする触媒反応機構を提唱-

ニッケル錯体触媒のX線結晶構造解析(左)と電子密度分布解析(右)の図

図 ニッケル錯体触媒のX線結晶構造解析(左)と電子密度分布解析(右)

私たちの世界には、分子式は同じなのに立体構造が異なるために違った性質を示す有機化合物があります。例えば、柑橘類の皮に含まれるリモネン(C10H16)には、右手と左手のように重ね合わせることができない鏡像異性体が存在します。これらは「不斉分子」と呼ばれます。リモネンの場合、一方はレモンの香りがするのに対して、もう一方はオレンジの香りがします。沸点や融点などの化学的性質は同じなのに、不思議ですね。

鏡像異性体は生体中にもみられます。DNAやRNAのような核酸はD体の糖で構成され、タンパク質は主にL体のアミノ酸で構成されています(DL表記は糖やアミノ酸の鏡像異性体を区別している)。生物は不斉分子を識別することができます。そのため、医薬や農薬の開発においては、生体高分子と選択的に相互作用する不斉分子の合成が重要となります。特に少量の金属塩と不斉配位子(不斉炭素を持つ配位子)を組み合わせた金属錯体触媒による不斉反応法が近年、盛んに開発されてきました。しかし、これまで金属錯体が基質をどのように活性化するのかについて、実験的に検討されたことはありませんでした。

今回、理研を中心とする共同研究グループは、金属触媒の一つであるニッケル錯体触媒を開発しました。これは「不斉[3+2]環化付加型反応」という、三つの不斉炭素を持つ新しいヘテロ環化合物の合成を実現しました。そして、①X線結晶構造解析、②分光学的手法、③計算科学を駆使することにより、このニッケル錯体は歪んだ八面体構造をしていること、基質を活性化させるニッケルの裸のdz2軌道と解離しやすいアセテート配位子が存在することが分かりました(図参照)。これらの事実は、上記三つのアプローチを組み合わせることで、初めて得られた成果です。

本研究により、金属錯体の電子構造と活性の相関関係を理解できるようになりました。これまで、金属錯体触媒の開発は試行錯誤によるものがほとんどでしたが、今後は論理的かつ効率的な開発が行えると期待できます。

理化学研究所
環境資源科学研究センター 触媒・融合研究グループ
研究員 五月女 宜裕 (そうとめ よしひろ)
(袖岡有機合成化学研究室 研究員)
グループディレクター 袖岡 幹子 (そでおか みきこ)
(袖岡有機合成化学研究室 主任研究員)

創発物性科学研究センター 超分子機能化学部門 物質評価支援ユニット
ユニットリーダー 橋爪 大輔 (はしづめ だいすけ)