広報活動

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2017年4月7日

理化学研究所

海馬から大脳皮質への記憶の転送の新しい仕組みの発見

-記憶痕跡(エングラム)がサイレントからアクティブな状態またはその逆に移行することが重要-

海馬から前頭前皮質への記憶の転送の新しいモデル提唱の図

図 海馬から前頭前皮質への記憶の転送の新しいモデル提唱

私たちは日々の生活の中で、さまざまな出来事に遭遇し、それを記憶します。例えば、朝ご飯で辛子明太子を食べたとか、国会で○○問題が取り上げられるニュースを見たなど…。これらをエピソード記憶といいます。

脳の中でエピソード記憶を形成したり、思い出したりするのに重要な場所は「海馬」です。これまでの研究から、海馬に形成された記憶は徐々に「大脳皮質」に“転送”され、最終的に大脳皮質に“貯蔵”されるのではないかと考えられてきました。これを「記憶固定化の標準モデル」といいます。しかし、このモデルに関しての神経回路メカニズムの詳細は分かっていませんでした。

2012年に理研の研究チームは、記憶を担う細胞(エングラム細胞)を標識する方法と「光遺伝学」を組み合わせることで、エングラム細胞を操作する研究手法を確立しました。これにより、どの脳部位に記憶が存在しているのかを同定することが可能になりました。この手法を用いて、今回、次のような新しい神経回路メカニズムを発見しました。

① 学習時、エングラム細胞は最初に海馬に形成されますが、続いて恐怖記憶に関わる「扁桃体」ともに、大脳皮質の「前頭前皮質」に形成されます。ただし、前頭前皮質のエングラム細胞は記憶情報を持ってはいるけれども、思い出しにはすぐに使われない状態にあります。これを研究チームは“サイレントなエングラム”と呼ぶことにしました。

② 学習後2~10日の間に、サイレントだった前頭前皮質のエングラム細胞は、海馬のエングラム細胞からの神経入力を受けて、機能的に徐々に“成熟”しますが、逆に海馬のエングラム細胞は時間とともにサイレント化し、“脱成熟”していきます。一方、扁桃体のエングラム細胞は、経過時間に関わらず、アクティブな状態を維持します。

その結果、学習後1日の記憶の思い出しでは、「海馬→(大脳嗅内皮質)→扁桃体」の神経回路が使われますが、学習後2週間以降になると、海馬は使わず「前頭前皮質→扁桃体」の神経回路が使われるようになります(図参照)。

理化学研究所
脳科学総合研究センター 理研-MIT神経回路遺伝学研究センター
センター長 利根川 進 (とねがわ すすむ)
研究員 北村 貴司 (きたむら たかし)
研究員 小川 幸恵 (おがわ さちえ)
博士課程 ディーラジ・ロイ (Dheeraj Roy)