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2017年4月22日

理化学研究所

NGLY1欠損症の治療標的候補の発見

Ngly1欠損マウスの致死性を回避させる遺伝子欠損を同定-

Ngly1-KOマウスの表現型とNGLY1欠損症患者の症状の図

表 Ngly1-KOマウスの表現型とNGLY1欠損症患者の症状

NGLY1欠損症」は、2012年に米国人医師によって発見されました。世界で患者数が50人にも満たない稀な病気で(日本人は0人)、成長の遅れ、発育不全、運動障害、四肢の筋力低下、てんかん、涙が出にくいなど、全身的に重篤な症状を示します。治療法は見つかっていません。

研究チームは、1993年に哺乳動物細胞の細胞質でタンパク質「Ngly1」の活性を発見し、2000年にその遺伝子を発見しました。私たちの体には、タンパク質の“不良品”を分解する仕組みがあります。合成されたタンパク質は小胞体で糖鎖が付けられ、タンパク質の折り畳み構造がチェックされます。不良品は、細胞質に運ばれ切断酵素Ngly1によって切り離された後、プロテアソームで分解されます。これが通常な状態ですが、Ngly1がないと糖鎖が正常に切り離されず、「ENGase」という別の切断酵素によって、プロテアソームで分解できない物質が作られます。それが細胞内に蓄積してNGLY1欠損症を引き起こすと考えられています。

2015年、研究チームは細胞レベルの解析から、ENGaseの存在がNGLY1欠損症の病態につながる可能性を突き止めました。そこで今回、Ngly1およびEngaseの遺伝子を欠損させたマウスを作製し、外見上どのような形態(表現型)になるのか調べました。

その結果、遺伝的背景が同じマウス系統のNgly1欠損マウスは、発生過程で分化に異常が起き生まれませんでした(胚性致死)が、その致死性はNgly1/Engaseのダブル欠損マウス、つまりEngaseをさらに欠損させると部分的に回避されることが分かりました。次に、遺伝的背景が不均一なNgly1欠損マウスを作製しました。すると今度は、生存可能なマウスが一部生まれました。しかし、体の大きさが小さい、体が震える、尻尾を掴んで逆さまに吊るすと後ろ足2本を縮める、背骨が曲がるなどの表現型を示しました。これらは、NGLY1欠損症患者の症状とよく対応しています(表参照)。一方、遺伝的背景が不均一なダブル欠損マウスを作製すると、やはりそれらの表現型は症状緩和されました。以上の結果は、マウスの表現型レベルにおいてもENGaseが存在しないことで、NGLY1欠損症の症状を抑えることができる可能性を示しています。

今後、ENGaseの働きを阻害する薬剤がNGLY1欠損症治療薬の有力な候補の一つになると期待できます。2017年3月31日、研究チームは京都大学iPS細胞研究所、武田薬品工業株式会社と共同で行う、NGLY1欠損症の治療を目指した創薬研究プロジェクトをスタートさせました。

理化学研究所
グローバル研究クラスタ システム糖鎖生物学研究グループ 糖鎖代謝学研究チーム
チームリーダー 鈴木 匡 (すずき ただし)
客員研究員 藤平 陽彦 (ふじひら はるひこ)
(順天堂大学 研究員)

グローバル研究クラスタ システム糖鎖生物学研究グループ
グループディレクター 谷口 直之 (たにぐち なおゆき)

バイオリソースセンター マウス表現型解析開発チーム
チームリーダー 若菜 茂晴 (わかな しげはる)