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2017年5月9日

理化学研究所

卵母細胞はその大きさゆえに間違いやすい

-卵子が染色体数異常になりやすい理由-

卵子が染色体数異常になりやすい理由の図

図 卵子が染色体数異常になりやすい理由

生物の遺伝情報を記録しているDNAは折り畳まれ、染色体として細胞核内に存在しています。細胞分裂の際、ヒトでは46本の染色体が娘細胞に正しく分配されることが重要です。細胞は通常、この染色体分配を正確に行うための機構を備えているので、ほとんど間違いは起こりません。

ところが、卵子のもととなる卵母細胞の減数分裂は例外で、10~30%という高い頻度で間違いが起こります。間違いが起こると卵子の染色体数に異常が生じるので、受精したとしてもその多くは正常に胚発生できず、着床前に失われるか流産となります。出産まで至った場合には、ダウン症(21番染色体が通常2本のところ3本になる)などの重篤な先天性疾患を引き起こします。しかし、卵母細胞の染色体分配に間違いが起こりやすい理由は、よく分かっていませんでした。

卵母細胞には、他の種類の細胞に比べてサイズが巨大だという特徴があります。理研の研究チームは、そのサイズが染色体分配の間違えやすさと関係していると考えました。そこで、マウスの卵母細胞を顕微操作し、細胞質の体積が通常の1/2の卵母細胞と2倍の卵母細胞を作り出し、それぞれの染色体分配について調べました。その結果、細胞質が大きいほど、①紡錘体極の機能性が低くなり染色体分配の必要条件である染色体の赤道面への整列に失敗しやすいこと、②紡錘体チェックポイントの厳密性が低下し染色体分配の間違いを許してしまうこと、が分かりました(図参照)。すなわち、“卵母細胞はその大きさゆえに染色体分配を間違えやすい”細胞内状態を作り出しているわけです。

それではなぜ、卵母細胞は巨大な細胞質を持つ細胞に進化したのでしょうか?その細胞質は胚発生を支持するために重要なことから、卵母細胞は胚発生の開始点という特別な役割を果たすために、巨大な細胞質を持たざるを得なかったのかもしれません。卵母細胞が染色体分配を間違えやすいのは、この特別な能力のトレードオフ(二律背反)だと研究チームは考えています。今後、①や②の分子機構を解明することで、卵母細胞が抱えるジレンマの実体に迫るとともに、染色体分配の正確性を向上させる方法を確立できる可能性があります。

理化学研究所
多細胞システム形成研究センター 染色体分配研究チーム
チームリーダー 北島 智也 (きたじま ともや)
基礎科学特別研究員 京極 博久 (きょうごく ひろひさ)