広報活動

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2017年5月12日

理化学研究所

ATPのおいしそうな匂いに誘われて

-魚類・両生類に特異的な新しいアデノシン嗅覚受容体の発見-

魚の鼻腔内でのATPからアデノシンへの分解とA2c発現嗅細胞の活性化機構の図

図 魚の鼻腔内でのATPからアデノシンへの分解とA2c発現嗅細胞の活性化機構

私たちはカレーのスパイスやケーキの甘い匂いを嗅ぐと、その食べ物を思い浮かべ、おいしいという記憶が呼び起こされます。陸棲生物は、空気中に存在する揮発性物質を匂い分子として感じますが、魚などの水棲生物は水に溶けた物質を匂い分子として感じます。魚も鋭敏な嗅覚を使って、食べ物を探したり、危険な場所を回避したり、交尾相手を見つけたりしています。

アミノ酸は揮発性が低いためヒトにとっては無臭ですが、これまでの研究から、魚の嗅覚は水に溶けたアミノ酸に敏感であることが分かっています。一方、血液に多く含まれる「アデノシン三リン酸(ATP)」も、水棲生物では匂い分子として機能すると考えられています。ATPは生体内でのエネルギー源、DNAやRNAの構成成分などとして重要な役割を果たしています。しかし、魚がATPをどのようなメカニズムで嗅ぎ、どのような応答をするのかについては、明らかになっていませんでした。

今回、理研の研究チームはゼブラフィッシュを用いて、食べ物が発する匂い物質の中で特にATPが低濃度(アミノ酸の100分の1)で、魚を誘引する作用を持つことを見いだしました。また、「アデノシン受容体A2c」を発見し、①魚の鼻腔内へ入ったATPは酵素反応によってアデノシンへと速やかに分解され、A2cを発現する嗅細胞を活性化して、餌を探す行動を引き起こす嗅覚神経回路を駆動させること(図参照)、②A2cの遺伝子は魚類と両生類だけに存在することを突き止めました。さらに、A2c遺伝子は全ての魚類に共通して存在することも分かりました。

今後、本成果は水産養殖業における効率的な給餌法の開発、飼料の低コスト化などへの応用が期待できます。また、サメやピラニアなどの獰猛な魚は血の匂いに誘われて獲物を仕留めるといわれていますが、その匂い分子はATPである可能性があります。そのため、これらの魚から身を守るために、ATPあるいはA2c受容体拮抗剤が利用できる可能性も考えられます。

理化学研究所
脳科学総合研究センター シナプス分子機構研究チーム
チームリーダー 吉原 良浩 (よしはら よしひろ)
客員研究員 脇阪 紀子 (わきさか のりこ)