広報活動

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2017年5月17日

理化学研究所
群馬大学

肥満細胞の新たな機能を発見

-寄生虫の新しい初期感染防御メカニズムを解明-

要旨

理化学研究所(理研)統合生命医科学研究センター粘膜システム研究グループの下川周子客員研究員(群馬大学大学院医学系研究科助教)と大野博司グループディレクターらの共同研究グループは、「肥満細胞[1]」の寄生虫感染防御に対する新たな機能を発見しました。

ヒトは虫卵や幼虫に汚染された食物を食べると、寄生虫の一種である腸管寄生線虫[2]に感染します。腸管寄生線虫は熱帯・亜熱帯の広い地域に分布し、世界保健機関(WHO)の発表によると、世界人口のおよそ24%にあたる約15億人もの感染者がいると推測されています注1)。寄生虫感染により貧血や栄養失調が引き起こされることもあり、発展途上国では大きな社会問題です。したがって、寄生虫に対する防御免疫応答の解明が急務となっています。粘膜組織に広く分布する肥満細胞は、寄生虫の排除に重要な役割を果たすことが知られていますが、感染初期における防御メカニズムについてはよく分かっていませんでした。

そこで共同研究グループは、遺伝的に肥満細胞が野生型よりも多いマウスを作製し、肥満細胞の寄生虫に対する感染防御メカニズムを調べました。その結果、このマウスが腸管寄生線虫に強い抵抗力を持つことや、感染時には2型自然リンパ球(ILC2)[3]が増えることを発見しました。ILC2は感染初期の寄生虫感染に対する防御を担う自然免疫系の細胞であり、その活性化にはインターロイキン-33(IL-33)[4]が必要です。肥満細胞が多いマウスでは、寄生虫感染により生じる腸管上皮細胞の損傷に伴い放出されるアデノシン三リン酸(ATP)[5]に反応して、活性化された肥満細胞がIL-33を産生することでILC2を活性化していることが分かりました。これらの結果は、「寄生虫に対する自然免疫の発動を担う」という肥満細胞の新たな機能を明確に示すものです。

肥満細胞およびILC2は寄生虫への生体防御に貢献する一方で、アレルギーや炎症性疾患の原因にもなっています。今後、本研究で得られた知見をもとに肥満細胞に端を発する2型免疫応答[6]の誘導を抑制できれば、それら難治性疾患の新たな予防法や治療法の開発につながると期待できます。

本研究は、米国の科学雑誌『Immunity』(5月16日号)に掲載されるのに先立ち、オンライン版(5月16日付け:日本時間5月17日)に掲載されます。

注1)世界保健機構(WHO)ホームページ(2017年1月更新)

※共同研究グループ

理化学研究所 統合生命医科学研究センター
粘膜システム研究グループ
客員研究員(研究当時) 下川 周子 (しもかわ ちかこ)(群馬大学 大学院医学系研究科 国際寄生虫病学分野 助教)
グループディレクター 大野 博司 (おおの ひろし)
研究員 金谷 高史 (かなや たかし)
研究生(研究当時)  蜂須賀 雅美(はちすか まさみ)

東京慈恵会医科大学 熱帯医学講座
准教授 石渡 賢治 (いしわた けんじ)

群馬大学 大学院医学系研究科 国際寄生虫病学分野
教授 久枝 一 (ひさえだ はじめ)

東京大学 医科学研究所 感染・免疫部門 炎症免疫学分野
特任准教授 倉島 洋介 (くらしま ようすけ)
教授 清野 宏 (きよの ひろし)

兵庫医科大学 免疫学講座
主任教授 善本 知広 (よしもと ともひろ)

和歌山県立医科大学 生体調節機構研究部
教授 改正 恒康 (かいしょう つねやす)

背景

ヒトは虫卵や幼虫に汚染された食物を食べると、寄生虫の一種である腸管寄生線虫に感染します。腸管寄生線虫は熱帯・亜熱帯の広い地域に分布し、世界保健機関(WHO)の発表によると、世界人口のおよそ24%にあたる約15億人もの感染者がいると推測されています。寄生虫感染により貧血や栄養失調が引き起されることもあり、発展途上国では大きな社会問題です。したがって、寄生虫に対する防御免疫応答の解明が急務となっています。

私たちの体は、細菌やウイルスなどの病原体に対しては1型ヘルパーT細胞(Th1)[7]を主体とする1型免疫応答を誘導するのに対し、腸管寄生線虫に対してはインターロイキン-4(IL-4)、インターロイキン-5(IL-5)、インターロイキン-13(IL-13)を分泌する2型ヘルパーT細胞(Th2)[8]および2型自然リンパ球(ILC2)を主体とする2型免疫応答を誘導します。このように、腸管寄生線虫に対する私たちの免疫系の応答は独特です。

これまで2型免疫応答では、腸管の上皮細胞から産生されるインターロイキン-33(IL-33)によってILC2が感染初期に活性化され、その後さらにTh2も誘導されることで腸管粘膜から持続的に粘液を分泌させ、寄生虫の排除を促すと考えられてきました。また、粘膜に広く分布する「肥満細胞」はTh2の働きで生じる免疫グロブリンE(IgE)[9]と協調して、感染後期のエフェクター細胞[10]として防御的に働くことが知られています。しかし、肥満細胞の感染初期における防御メカニズムやILC2との関連についてはよく分かっていませんでした。

そこで、共同研究グループは、遺伝的に肥満細胞が多いマウスを作製し、肥満細胞の寄生虫に対する感染防御メカニズムの解明を目指しました。

研究手法と成果

共同研究グループはまず、肥満細胞が野生型よりも多いマウスを得るために、Ets転写因子ファミリー[11]に属するSpi-Bタンパク質を欠損するマウスを作製しました。そのマウスでは、血球の分化段階に変化がみられ、肥満細胞が増加していました。次に、野生型マウスとSpi-B欠損マウスに腸管寄生線虫の一種であるHeligmosomoides polygyrus[12]を感染させたところ、野生型マウスでは多くの成虫が小腸に寄生し、マウス糞中には多くの虫卵が認められるのに対し、Spi-B欠損マウスでは成虫の寄生がほとんど認められず虫卵数も著しく少ないことから、寄生虫抵抗性があることが分かりました。また、この抵抗性は感染前に肥満細胞を除去するとみられなくなったため、肥満細胞に依存することが分かりました(図1)。

次に、Spi-B欠損マウスでは成虫の寄生がほとんどみられなかったことから、寄生虫の定着に関わる感染初期の免疫応答の主役であるILC2に着目し、肥満細胞による寄生虫抵抗性のメカニズムを調べました。その結果、Spi-B欠損マウスでは感染前にはILC2に変化はみられませんでしたが、感染初期よりIL-13を産生する活性化ILC2が野生型マウスよりも増えていることが分かりました。同時に、ILC2の活性化に重要なIL-33も小腸で増加していました。

また、肥満細胞のIL-33の産生を調べたところ、メッセンジャーRNA(mRNA)とタンパク質レベルでIL-33が確認されました(図2)。寄生虫感染では、損傷した腸管上皮細胞からIL-33が放出されILC2を活性化すると考えられていましたが、Spi-B欠損マウスの小腸上皮細胞中のIL-33は、野生型マウスと同等でした。これは、肥満細胞によるIL-33の産生が寄生虫抵抗性に重要であることを示しています。

細胞が損傷すると、危険シグナルとしてIL-33とともにアデノシン三リン酸(ATP)が放出されることや、ATPが肥満細胞を活性化することが知られています。そこで、腸管寄生線虫感染時の肥満細胞の活性化におけるATPとATP受容体であるP2X7受容体[13]の関与を調べました。その結果、腸管寄生線虫が感染したマウスの腸管上皮では、組織傷害に伴いATP濃度が上昇していました。さらに、肥満細胞にATPを加えるとP2X7受容体からの刺激でIIL-33を分泌することが分かりました。

以上のことから、肥満細胞による寄生虫抵抗性のメカニズムを次のようにまとめることができます。まず、寄生虫感染により損傷を受けた腸管上皮細胞から放出されたATPが、P2X7受容体と結合して肥満細胞を活性化することで、肥満細胞においてIL-33が産生されます。続いて、肥満細胞からのIL-33はILC2を活性化しIL-13を分泌させると、IL-13は腸管上皮の杯細胞(さかずきさいぼう)を刺激し粘液を分泌させることで成虫の定着を抑制し、やがて寄生虫が排除されます。このように、感染初期にILC2活性化を誘導し2型免疫応答を発動させるという肥満細胞の新たな機能を解明しました(図3)。

今後の期待

本研究により、肥満細胞がILC2を活性化し、2型免疫応答を誘導することが明らかとなりました。2型免疫応答は寄生虫感染に対して生体防御に貢献していますが、一方でアレルギー疾患や炎症性疾患など難治性疾患の原因にもなっています。肥満細胞に端を発する2型免疫応答の誘導を抑制できれば、アレルギー疾患など難治性疾患の予防法や治療法の開発つながることが期待できます。

原論文情報

  • Chikako Shimokawa, Takashi Kanaya, Masami Hachisuka, Kenji Ishiwata, Hajime Hisaeda, Yosuke Kurashima, Hiroshi Kiyono, Tomohiro Yoshimoto, Tsuneyasu Kaisho and Hiroshi Ohno, "Mast cells are crucial for induction of group 2 innate lymphoid cells and clearance of helminth infections", Immunity, doi: 10.1016/j.immuni.2017.04.017

発表者

理化学研究所
統合生命医科学研究センター 粘膜システム研究グループ
客員研究員 下川 周子 (しもかわ ちかこ)
(群馬大学 大学院医学系研究科 国際寄生虫病学分野 助教)
グループディレクター 大野 博司 (おおの ひろし)

下川周子 客員研究員の写真

下川 周子

大野博司グループディレクターの写真

大野 博司

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補足説明

  1. 肥満細胞
    皮膚や粘膜組織などに広く分布する。好塩基球と同様にヒスタミンなどの顆粒を含み、免疫グロブリンE(IgE)刺激によってそれらの顆粒を放出する。IgEを介したアレルギー反応の主体であると考えられている。マスト細胞とも呼ばれる。
  2. 腸管寄生線虫
    一般的に寄生虫は単細胞生物の原虫と多細胞生物の蠕虫(ぜんちゅう)に分けられ、蠕虫はさらに線虫類、吸虫類、条虫類などに分類される。線虫類の腸管寄生線虫は、虫卵あるいはその幼虫を介して感染し、成虫がヒトの腸に寄生する。ヒトに感染する主なものは、回虫(かいちゅう)、鉤虫(こうちゅう)、蟯虫(ぎょうちゅう)である。
  3. 2型自然免疫リンパ球(ILC2)
    抗原を認識する受容体を持たないリンパ球のことを自然免疫リンパ球という。 ILC1、ILC2、ILC3の3種類があり、ILC2は、寄生虫感染防御やアレルギー性炎症疾患において重要な細胞であることが分かっている。
  4. インターロイキン-33(IL-33)
    インターロイキン-1β(IL-1β)やIL-18と相同性の高いアミノ酸配列を持つIL-1ファミリーに属するサイトカイン。さまざまな臓器の上皮細胞や血管内皮細胞の核内に局在し、危険シグナルとして細胞の損傷に伴い短時間で細胞外に放出される。
  5. アデノシン三リン酸(ATP)
    生体内に広く分布し、細胞が生存・機能するための主要なエネルギー源である。通常は細胞内に存在し、細胞外に放出されたATPは危険シグナルとして働く。
  6. 2型免疫応答
    2型ヘルパーT細胞(Th2)や2型自然リンパ球(ILC2)を主体とした免疫応答で、インターロイキン-4(IL-4)やインターロイキン-13(IL-13)の産生によりB細胞からの抗体産生などを引き起こす。
  7. 1型ヘルパーT細胞(Th1)
    CD4陽性細胞の中でインターフェロン-γ(IFN-γ)やインターロイキン-2(IL-2)を産生し、細胞性免疫に関与する。
  8. 2型ヘルパーT細胞(Th2)
    CD4陽性細胞の中でインターロイキン-4(IL-4)、インターロイキン-5(IL-5)、インターロイキン-13(IL-13)などの2型サイトカインを産生し、B細胞に働きかけ液性免疫(抗体産生)などの2型免疫応答に関与する。
  9. 免疫グロブリンE(IgE)
    哺乳類にのみ存在する糖タンパクで、免役グロブリンの一種。抗原が体内に侵入すると血中のIgEが肥満細胞上の受容体と結合する。その刺激によって肥満細胞が脱顆粒すると、粘膜や皮膚に作用してさまざまな症状を引き起こす。
  10. エフェクター細胞
    免疫応答において、特異的な効果を発揮する細胞。感染防御においては、病原体の排除に直接的に関わる細胞。
  11. Ets転写因子ファミリー
    ニワトリのレトロウイルスE26の産物として見いだされた、がん遺伝子の細胞内ホモログ(同族)で、現在30種類ほど知られている。
  12. Heligmosomoides polygyrus
    マウスなどのげっ歯類の小腸に寄生する線虫の一つ。慢性感染のモデルとして使用される。
  13. P2X7受容体
    細胞外のATPに対する細胞表面受容体。細胞内のC末端が他のP2X受容体よりとても長い。主に免疫系の細胞に発現しており、アルツハイマー病や多発性硬化症などさまざまな疾患に関与していることが知られている。

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腸管寄生線虫の除去による肥満細胞の重要性の図

図1 腸管寄生線虫の除去による肥満細胞の重要性

腸管寄生線虫感染後のマウス糞中の虫卵数を計測した。肥満細胞が多いSpi-B欠損マウス(白四角)では野生型マウス(白丸)と比べて虫卵数が著しく少なく、感染抵抗性があることが分かる。しかし、Spi-B欠損マウスから肥満細胞を除去すると(赤四角)、虫卵数が野生型マウスと同程度まで増加した。感染後30日では、Spi-B欠損マウス(白四角)と肥満細胞を除去したSpi-B欠損マウス(赤四角)の虫卵数には有意な差があった(*)。このことから、感染抵抗性に肥満細胞が重要なことが分かる。

肥満細胞によるインターロイキン-33(IL-33)の産生の図

図2 肥満細胞によるインターロイキン-33(IL-33)の産生

腸管寄生線虫を感染させた野生型マウスとSpi-B欠損マウスの小腸から肥満細胞を取り出し、肥満細胞が産生するIL-33タンパク質の量を測定した。野生型マウス(青紫線)に比べて、Spi-B欠損マウス(赤線)ではIL-33の産生量が多いことが分かる。灰色はIL-33量の測定試薬を加えていない陰性コントロールを示す。

肥満細胞による2型自然免疫リンパ球(ILC2)の活性化と寄生虫排除機構の図

図3 肥満細胞による2型自然免疫リンパ球(ILC2)の活性化と寄生虫排除機構

寄生虫が小腸に感染すると、寄生虫は腸管上皮細胞を突き破り生体内に侵入してくる。その際、腸管上皮細胞からはアデノシン三リン酸(ATP)が放出される。そのATPが肥満細胞上にあるATP受容体(P2X7受容体)と相互作用することで肥満細胞の活性化が起こり、インターロイキン-33(IL-33)が産生される。IL-33は、寄生虫の排除に必要であるILC2の活性化を引き起こし、ILC2からIL-13が分泌される。IL-13は杯細胞(さかずきさいぼう)を過形成し、ムチン(糖タンパク質の一種)を分泌させ、やがて寄生虫が排除される。

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