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2017年7月7日

理化学研究所

超新星残骸カシオペア座Aの放射性同位体分布を再現

-超新星爆発のニュートリノ加熱説が有望に-

要旨

理化学研究所(理研)長瀧天体ビッグバン研究室のアノップ・ウォンワタナラット国際特別研究員、理論科学連携研究推進グループ階層縦断型基礎物理学研究チームの和南城伸也客員研究員らの国際共同研究チームは、最新のコンピュータシミュレーションを行うことにより、約340年前に爆発した超新星[1]の残骸であるカシオペア座A[2]中に観測されるチタンとニッケルの放射性同位体[3]の空間分布を再現することに成功しました。

太陽の約8倍以上の質量を持つ大質量星は、超新星爆発[1]により一生を終えますが、その物理過程は50年以上にわたり未解決の問題です。理論研究で有力な説の一つは、大質量星の重力崩壊によって中心部に中性子星[4]が形成され、その中性子星から放出される素粒子ニュートリノ[5]がエネルギーとなり、周囲のガスが加熱され爆発するという「ニュートリノ加熱説」です。また、超新星爆発は宇宙における重元素[6]の主要な起源の一つです。爆発の際に高温状態の星の最深部で合成される放射性同位体は、直接的な観測が困難な爆発の物理過程を調べるのに有効であると考えられています。

そこで国際共同研究チームは、ニュートリノ加熱爆発モデルの三次元数値流体シミュレーションに基づき、超新星爆発の最深部で作られる重元素合成の計算を行いました。その結果、超新星残骸[7]カシオペア座Aで観測されているように、重元素の分布に強い「非対称性」が生じ、チタン-44(陽子数22、中性子数22)やニッケル-56(陽子数28、中性子数28)のような放射性同位体は、より爆発が強く高温に加熱された物質中で作られることが分かりました。また、中性子星は爆発のより強い側の反対方向に反挑(キック)を受けますが、非対称性はキックが大きいほど強く現れることが確認されました。さらに、鉄やチタンなどの元素の総質量と膨張速度、中性子星の移動速度もカシオペア座Aの観測結果をよく再現していることが明らかになりました。これは、カシオペア座Aがニュートリノ加熱説を支持することを示しています。

本研究は、米国の科学雑誌『The Astrophysical Journal』(7月10日号)に掲載されるのに先立ち、オンライン版(6月7日付け:日本時間6月7日)に掲載されました。

※国際共同研究チーム

理化学研究所
長瀧天体ビッグバン研究室
国際特別研究員 アノップ・ウォンワタナラット(Annop Wongwathanarat)

理論科学連携研究推進グループ 階層縦断型基礎物理学研究チーム
客員研究員 和南城 伸也(わなじょう しんや)(上智大学 理工学部 准教授)

マックスプランク研究所 宇宙物理学部門
研究員 ハンス・トマス・ヤンカ(Hans-Thomas Janka)
研究員 エヴァルド・ミュラー(Ewald Müller)
博士研究員 エルゼ・プルンビ(Else Pllumbi)

背景

太陽の約8倍以上の質量を持つ大質量星は、「超新星爆発」と呼ばれる大爆発によりその一生を終えます。大質量星は誕生後、数百万年をかけて安定的に進化し、星の中心には大部分が鉄からなるコアが形成されます。コアはその質量が太陽質量の約1.5倍を超えると、自らの重力で崩壊して半径10kmほどの「中性子星」になります。生まれたばかりの中性子星の密度は原子核よりも大きく、かつ温度は5,000億度にも達します。その中で、質量がゼロに限りなく近い素粒子ニュートリノが大量に作られます。

超新星爆発を引き起こす物理過程は、50年以上にわたり未解決の問題です。理論的に提唱されている爆発メカニズムの有力な説の一つは、爆発に必要なエネルギーの100倍以上ものエネルギーをニュートリノが持ち去ることで始まるというものです。熱い中性子星の内部から放出されるニュートリノの一部が周辺のガスに吸収されると、ガスは加熱されます。この「ニュートリノ加熱」により、ストーブに乗せたやかんの中で水が沸騰するように、ガスの激しい運動が生じます。そして、やかんの蓋が噴き飛ばされるように、激しいガスの“泡”が超新星爆発を引き起こすと考えられています。

そのとき放出される熱い物質の中で、チタンとニッケルの放射性同位体チタン-44(陽子数22、中性子数22)とニッケル-56(陽子数28、中性子数28)を含む重元素が合成されます。その後、チタン-44はカルシウム(陽子数20)の安定同位体に、ニッケル-56は鉄(陽子数26)の安定同位体に崩壊し、その崩壊熱により何年にもわたり超新星は輝き続けます。

研究手法と成果

ニュートリノ加熱による激しく“煮えたぎる”ガスにより、衝撃波[8]が非球対称に広がります。これまでの多くの超新星残骸の観測から、放出される超新星のガスには大規模な「非対称性」が痕跡として残されることが分かっています。2013年、ウォンワタナラット国際特別研究員らはニュートリノ加熱爆発モデルの三次元数値流体シミュレーションにより、爆発の非対称性による二つの効果を見いだしました注1)。一つ目は、運動量保存則により中性子星は爆発のより強い側と反対の方向に反跳(キック)を受けること、二つ目は、ケイ素(陽子数14)から鉄までの重元素、特に放射性同位体チタン-44とニッケル-56はより高温に加熱される爆発の強い側でより多く作られることです。

上記のシミュレーションに基づき、国際共同研究チームは新たにチタン-44とニッケル-56を含む重元素合成の計算を行いました(図1)。その結果、チタン-44とニッケル-56の空間分布の非対称性は、中性子星の受けるキックが大きいほど強く現れることが分かりました。これらは、超新星の最深部すなわち中性子星のすぐ近くで作られるため、その空間分布は爆発の非対称性を最も直接的に反映していると考えられます。

中性子星の受けるキックが大きいほどチタン-44とニッケル-56の非対称性が強く現れることは、今から約340年前(1680年頃)に爆発した超新星の残骸であるカシオペア座Aの最新の観測により確認されています。カシオペア座Aは若い超新星の残骸で、地球からの距離が約11,000光年と比較的近いため、カシオペア座A を観測することには次のような二つの利点があります。一つは、チタン-44の放射性崩壊が効果的な熱源であるため、放射性崩壊による高エネルギーX線を検出することで、チタン-44の三次元空間分布が高い精度で決定できること、もう一つは、天空上での中性子星の移動速度とその方向を知ることができることです。

カシオペア座Aの中にある中性子星は、少なくとも350km/秒の速度で移動していると推定されているため、放射性同位体の大規模な非対称性が予想されます。実際に、最新の2014年の観測ではチタン-44の非対称性がみられました(図2左)注2)。中性子星の運動方向がカシオペア座Aの南半球を向いているのに対し、チタン-44の大部分を伴った最も大きく明るいガスの塊は北半球側にみられます。今回のコンピュータシミュレーションの結果は、方向を合わせるとこの観測結果をよく再現していました(図2右)。

さらに、鉄やチタンなどの元素の総質量と空間分布の膨張速度、中性子星の移動速度も、カシオペア座Aの観測結果をよく再現していることが分かりました。これは、“カシオペア座Aが、生まれたばかりの中性子星の周辺のニュートリノ加熱による激しいガスの運動によって爆発した超新星の残骸である”ことを強く示しています。

注1)Annop Wongwathanarat, Hans-Thomas Janka, and Ewald Müller,Astronomy & Astrophysics, Volume 552, A126
注2)2014年2月20日プレスリリース「超新星「カシオペア座A」は非対称に爆発した

今後の期待

大質量星の超新星爆発がニュートリノ加熱によるものであると最終的に結論づけるためには、さらなる研究が必要です。カシオペア座Aについては、ケイ素、アルゴン、ネオンなどのより多くの元素の空間分布についても同様の結論が得られるか確認する必要があります。また、カシオペア座Aの一例だけでは確かな結論を得るには不十分なため、国際共同研究チームは大規模な共同研究を通して、より多くの若い超新星残骸についてニュートリノ加熱爆発モデルの検証を進めていく予定です。このような証拠を一つ一つ積み重ねることによって、50年来の謎である超新星の爆発メカニズムが明らかになると考えています。

原論文情報

  • Annop Wongwathanarat, Hans-Thomas Janka, Ewald Müller, Else Pllumbi, and Shinya Wanajo, "Production and Distribution of 44Ti and 56Ni in a Three-dimensional Supernova Model Resembling Cassiopeia A", The Astrophysical Journal, doi: 10.3847/1538-4357/aa72de

発表者

理化学研究所
主任研究員研究室 長瀧天体ビッグバン研究室
研究員 アノップ・ウォンワタナラット (Annop Wongwathanarat)

研究推進グループ 理論科学連携研究推進グループ (iTHES) 階層縦断型基礎物理学研究チーム
客員研究員 和南城 伸也 (わなじょう しんや)
(上智大学 理工学部 准教授)

アノップ・ウォンワタナラット研究員の写真

アノップ・ウォンワタナラット

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補足説明

  1. 超新星、超新星爆発
    大質量の恒星がその一生を終えるときに起こす大規模な爆発現象を、超新星もしくは超新星爆発という。太陽の約8倍より重い恒星の場合、核融合反応により中心核の質量が増えると、やがて陽子の電子捕獲反応が起きて中心核内部に中性子過剰な原子核が増える。これによって電子の縮退圧が弱まり重力収縮が打ち勝って、一気に崩壊する(重力崩壊型超新星爆発)。
  2. カシオペア座A
    カシオペア座にある超新星残骸で、地球から1万光年ほど離れている。太陽よりも約10倍以上も重い星が、その最期に重力崩壊を起こして、約340年前に爆発したと考えられている。爆発で吹き飛んだ物質は、視直径で5分角、距離に換算すると20光年ほどに拡がっている。1947年に初めて発見された。
  3. 放射性同位体
    構造が不安定なため、時間とともに放射線を放出しながら原子核が崩壊していく元素。
  4. 中性子星
    ほとんどが中性子から構成されている天体。半径は10km程度、質量が太陽の1~2倍で、超高密度の星。高速自転しており、秒単位の周期的電波を発するパルサーとしての特徴がある。
  5. ニュートリノ
    光の速さで伝わる質量が極めて小さい素粒子で、物質とはほとんど反応しない。太陽の中心や超新星爆発で発生する。
  6. 重元素
    物性物理学や宇宙物理学などで使われる用語で、研究の内容によって定義が異なる。本研究では、ヘリウムより重い元素を指す。
  7. 超新星残骸
    超新星爆発によって吹き飛んだ星の物質が、高速で膨張し星間物質と衝突して作られる星雲状の天体。超新星残骸の中心には中性子星やブラックホールが存在する。
  8. 衝撃波
    音速を超えて伝播する圧力波。波面の後方で媒質が圧縮され、温度・密度・圧力が上昇する。衝撃波の強さは、衝突する側とされる側の速度比などで決まる。

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超新星爆発の三次元シミュレーションによるニッケル-56の空間分布の画像

図1 超新星爆発の三次元シミュレーションによるニッケル-56の空間分布

ニュートリノ加熱に基づく超新星爆発の三次元シミュレーションによる放射性同位体ニッケル-56の空間分布の時間発展。非球対称な分布は、爆発直後(3.25秒)からシミュレーションの最後(6,326秒)までみられる。動径方向の速度をそれぞれのパネルのカラーバーで示す。2013年と同じシミュレーションをもとに、本研究で行った重元素合成の計算結果を表している。

カシオペア座Aの観測(左)と本研究でのコンピュータシミュレーション(右)の画像

図2 カシオペア座Aの観測(左)と本研究でのコンピュータシミュレーション(右)

左) カシオペア座Aの2014年の観測画像。観測された鉄(赤および白)の大部分は、ニッケル-56の崩壊により生成したと考えられる。青色はチタン-44の空間分布を示す。黄色の×は爆発中心、白の×と矢印は、中性子星の位置と運動方向を表す。図の外枠は、1辺24光年の距離である。(Copyright: Macmillan Publishers Ltd: Nature; from Grefenstette et al., Nature 506, 339 (2014); Fe distribution courtesy of U.~Hwang.)

右) カシオペア座Aの本研究におけるコンピュータシミュレーション画像。図の方向は観測結果(左)に合うように調整している。中性子星の受けるキックにより、中性子星(白の×)は爆発中心(赤の+)から矢印の方向に運動している。中性子星は、チタン-44(青)の大部分が放出された側(北半球)から遠ざかる方向に移動している。カシオペア座Aでは外側の比較的低温のガス中にのみ観測されるため、シミュレーションで予測される内側の高温領域の鉄(緑)は検出されないと考えられる。

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