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2017年7月11日

理化学研究所

3,328遺伝子ノックアウトマウスから疾患モデル発見

-遺伝疾患の原因特定や治療法開発に大きく貢献-

要旨

理化学研究所(理研)バイオリソースセンターの小幡裕一センター長、実験動物開発室の吉木淳室長、マウス表現型知識化研究開発ユニットの桝屋啓志ユニットリーダーらの共同研究グループが参加する国際マウス表現型解析コンソーシアム(IMPC)[1]は、3,328遺伝子のノックアウトマウス系統の表現型とヒト疾患の臨床的特徴との間の類似性を分析し、①360遺伝子のノックアウトマウス系統が既知の遺伝性希少疾患のモデルマウスとなること、②135系統が新たなメンデル遺伝病[2]モデル候補となること、さらに③これまで不明であった1,092の遺伝子の機能を解明しました。

ヒトの遺伝子の機能や疾患における役割は、未解明な部分が多いのが現状です。この21世紀の生命医科学の最大とも言える課題に取り組むため、IMPCでは疾患モデル動物であるマウスを用いて、それぞれノックアウトマウス[3]を作製し、その生物学的特徴(表現型[4])を、国際標準解析プロトコールに沿って解析し、遺伝子機能のカタログ作成を進めています。2016年9月には、400を超える胎生致死遺伝子を特定し、それらとヒト疾患遺伝子との関連性を明らかにしました注1)。今回の報告は、さらに、遺伝子機能のカタログを大幅に更新する研究成果です。

IMPCで作製・解析されたノックアウトマウスは、理研バイオリソースセンターをはじめとする世界各国の中核バイオリソースセンターから国際標準疾患研究用リソースとして世界中に提供されています。また、IMPCで得られたデータは、IMPCポータルサイト(英語)で公開されます。今回得られた知見も、遺伝性希少疾患の発症に関わる原因遺伝子の特定ならびに疾患モデルを用いた治療法の開発に役立つものと期待されます。

本研究成果は、英国の科学雑誌『Nature Genetics』に掲載されるのに先立ち、オンライン版(6月26日付け:日本時間6月26日)に掲載されました。

注1)2016年9月20日プレスリリース「マウスで難病遺伝子を探索

※共同研究グループ

理化学研究所 バイオリソースセンター
センター長 小幡 裕一(おばた ゆういち)

実験動物開発室
室長 吉木 淳(よしき あつし)
研究員 綾部 信哉(あやべ しんや)

マウス表現型解析開発チーム
チームリーダー 若菜 茂晴(わかな しげはる)
開発研究員 田村 勝(たむら まさる)
開発研究員 金田 秀貴(かねだ ひでき)
開発技師 山田 郁子(やまだ いくこ)
開発技師 三浦 郁生(みうら いくお)
開発技師 小林 喜美男(こばやし きみお)
開発研究員 古瀬 民生(ふるせ たみお)
開発研究員 鈴木 智広(すずき ともひろ)

マウス表現型知識化研究開発ユニット
ユニットリーダー 桝屋 啓志(ますや ひろし)
開発研究員 田中 信彦(たなか のぶひこ)

背景

国際マウス表現型解析コンソーシアム(IMPC)の最終目標は、ヒトの遺伝子機能の総合的なカタログを作成することです。そのため我々ヒトと同じ哺乳類であるマウスの各遺伝子についてそれぞれノックアウトマウスを作製し、血液検査、血圧、行動、形態など約300にわたる網羅的な表現型解析を国際標準プロトコールに従って解析しています。2011年より研究期間10年(Phase 1:2011~2016、Phase 2:2016~2021)をかけて、標準的実験マウス系統C57BL/6Nの全遺伝子の機能を解明する予定です。

IMPCで作製・解析されたノックアウトマウスは、理研バイオリソースセンターをはじめとする世界各国の中核的マウスセンターから、データ付き国際標準疾患研究用リソースとして、世界中の研究者に提供されています。また、IMPCで得られたデータは、IMPCポータルサイト(英語)にて、直ちに公開され、世界中の生命科学研究に大きく貢献しています。特に、遺伝性希少疾患研究の分野においては、遺伝子の新たな機能を解明し、疾患における役割を明らかにすることが治療法開発への手がかりとなります。

研究手法と成果

今回、IMPCでは、3,328遺伝子についてノックアウトマウス系統を作製し、それらを国際標準解析プロトコールに沿った表現型解析法により解析した後、ヒトの病気の臨床的特徴との類似性を分析しました。ヒト疾患のデータは、単一遺伝子の変異で発症しメンデルの法則に従って遺伝する全てのメンデル遺伝病の臨床的特徴が登録されたデータベースOnline Mendelian Inheritance in Man(OMIM)と、約7,000の希少疾患の臨床的特徴が登録されたデータベースOrphanetを用いました。また、マウスの表現型とヒトの臨床的特徴との類似度は、標準化されたアルゴリズムに従い、判定しました。

その結果、①360系統のノックアウトマウスがOMIMまたはOrphanetに掲載されている既知のメンデル遺伝病のモデルとなること、②135系統のノックアウトマウスがこれまでに報告がない新たなメンデル遺伝病のモデル候補となることを解明しました。さらに、③機能が不明であった1,092の遺伝子の機能を、標準語彙(オントロジー)[5]に基づいて新たに明らかにしました()。

今後の期待

本研究結果は、遺伝性希少疾患の臨床・研究分野に多大な知見を提供し、その発展に大きく貢献すると期待できます。また現在、日本全国の診断がつかずに悩んでいる未診断疾患患者に対して、遺伝学的解析結果などを含めた総合的診断や国際連携可能なデータベース構築などによるデータシェアリングを行う体制が構築されつつありますので、今回得られた知見は未診断疾患の研究の推進にも寄与すると考えられます。

原論文情報

  • Terrence F. Meehan他176名, "Disease Model Discovery from 3,328 Gene Knockouts by The International Mouse Phenotyping Consortium", Nature Genetics, doi: 10.1038/ng.3901

発表者

理化学研究所
バイオリソースセンター
センター長 小幡 裕一(おばた ゆういち)

バイオリソースセンター 実験動物開発室
室長 吉木 淳(よしき あつし)

バイオリソースセンター マウス表現型知識化研究開発ユニット
ユニットリーダー 桝屋 啓志(ますや ひろし)

小幡裕一センター長の写真 小幡 裕一
吉木淳室長の写真 吉木 淳
桝屋啓志ユニットリーダーの写真 桝屋 啓志

報道担当

理化学研究所 広報室 報道担当
Tel: 048-467-9272 / Fax: 048-462-4715
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補足説明

  • 1.国際マウス表現型解析コンソーシアム(IMPC)
    2011年に、マウスの遺伝子のそれぞれをノックアウトしたマウスの表現型を世界共通の基準のプロトコールで解析し、そのデータとマウスを世界の研究者に提供することを目的とした国際共同開発プロジェクト。米国国立衛生研究所、英国医学研究評議会、欧州委員会など、世界の有力機関・組織で構成されている。現在、日本の理研バイオリソースセンターを含め、11の国と地域から18研究施設が参画している。IMPCは、International Mouse Phenotyping Consortiumの略。
  • 2.メンデル遺伝病(単一遺伝子疾患)
    単一遺伝子の変異により発症する。メンデル遺伝形式に従って遺伝する。
  • 3.ノックアウトマウス
    目的の遺伝子を人為的に欠失させたマウス。
  • 4.表現型
    細胞や個体での遺伝子発現の変化などの結果、個体差となって現れる形質のこと。遺伝子の発現量の差から生じる形質の差は、タンパク質の違い、代謝産物の違いという段階を経て、細胞や個体の形や機能の差として現れる。
  • 5.標準語彙(オントロジー)
    固有のIDで管理され、国際的に共通利用されるデータベース用の語彙集。生命科学の分野では、遺伝子の機能、表現型、疾患等、多くのオントロジーが国際連携により策定され、公共データベースで利用されている。データの記載にオントロジーを用いることで、データの正確な検索や、異なるデータベースとの統合が可能になるため、幅広いデータの利活用が可能になる。
本研究成果のまとめの図

図 本研究成果のまとめ

本研究では3,328個の遺伝子につきノックアウト(KO)マウスを作製しその表現型を網羅的に解析した。その結果とヒト希少性疾患の臨床的特徴と類似性を分析し、①360系統のKOマウスが既知の遺伝性希少疾患のモデルとして有効であること、②135系統のKOマウスが未報告の遺伝性希少疾患のモデルとなり得る可能性があること、さらに、③1,092遺伝子の機能を新たに明らかにした。

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