広報活動

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2017年7月31日

理化学研究所
高輝度光科学研究センター

X線自由電子レーザーの創薬利用が前進

-タンパク質-リガンド複合体微結晶による創薬が可能に-

ある疾病に関連するタンパク質について立体構造が決定された場合、そのタンパク質に結合することによってその働きを調節する低分子化合物(リガンド)を立体構造情報に基づいて設計することができ、その創薬手法を「構造に基づく薬物設計(SBDD)」といいます。タンパク質と創薬候補リガンドとの複合体の結晶構造情報を利用すれば、さらに効能の高いリガンド(薬剤)を合理的に設計することができます。

X線自由電子レーザー(XFEL)による「連続フェムト秒結晶構造解析(SFX)」を使うと、生理条件に近い“室温”の結晶構造が得られます。この室温構造はSBDDにとって利点となる可能性がありますが、実験的な検討はこれまで行われていませんでした。また、SBDDで必要な「タンパク質-リガンド複合体」の結晶は、一般的にはリガンド水溶液にタンパク質結晶を浸す「ソーキング法」によって調製しますが、微結晶に適用できるかどうか不明でした。

そこで理研を中心とした共同研究グループは、タンパク質サーモリシンとリガンドZAを試料として用い、一般的なソーキング法によりサーモリシン-ZA複合体微結晶を調製し、SACLAのビームラインでSFX実験(約27℃の室温)を行いました。比較のために、SPring-8の放射光(SR)を用いた従来の結晶構造解析(約-173℃の低温)も行いました。その結果、SFXによるタンパク質-リガンド複合体微結晶の構造解析は上記の簡便な方法で実行できることが分かり、同複合体の室温構造が高い再現性で得られました。さらに、SFXによる室温構造では、ZAのカルボキシ基において、二つの立体配置を交互にとる「交互立体配座」がみられましたが、SRによる低温構造ではみられませんでした(図参照)。つまり、SFXから得られる構造情報は、タンパク質-リガンド間の生理状態での相互作用をより正確に反映しているといえます。

本研究によりSBDDにおける化合物(薬剤)探索のためにSFXが適用できることが示され、今後、製薬企業などによるXFELの創薬利用が加速するものと期待されます。

SFXとSRでのリガンド認識様式の違いの図

図 SFXとSRでのリガンド認識様式の違い

理化学研究所
放射光科学総合研究センター 利用システム開発研究部門 生物試料基盤グループ
先任研究員 内藤 久志 (ないとう ひさし)
グループディレクター 国島 直樹 (くにしま なおき)