広報活動

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2017年8月4日

理化学研究所
日本医療研究開発機構

転写中のRNAポリメラーゼIIの構造を解明

-細胞内で働いている巨大複合体の姿を明らかに-

DNAからRNAを転写中のRNAポリメラーゼの図

図 DNAからRNAを転写中のRNAポリメラーゼ

私たちヒトを含め生物の体は細胞でできています。細胞の大きさは、種類によって異なりますがだいたい直径が10μm(= 0.01 mm)くらい。その小さな細胞の中で、さらに小さいタンパク質などの分子が働いています。今回理研の研究チームは、その小さなタンパク質が細胞内で巨大な集合体(複合体)となって働いている姿を明らかにしました。

タンパク質の構造を調べるには、核磁気共鳴装置(NMR)とX線結晶構造解析がこれまで主な手法として用いられてきました。これらは、タンパク質の構造を原子レベルで詳細に解析することができますが、前者はタンパク質の大きさの制約があり、後者はタンパク質の結晶化という手順が必要です。そこで近年、タンパク質溶液を急速凍結して、自然な状態のタンパク質複合体を観察できる「クライオ電子顕微鏡解析」が注目されています。

理研の研究チームは、X線結晶構造解析とクライオ電子顕微鏡解析を駆使し、細胞内で働いているRNAポリメラーゼ(RNAを合成する酵素)の立体構造を明らかにしました。RNAポリメラーゼは、DNAに記された遺伝子の情報をRNAにコピーする(=転写する)大事な役割を持ち、今この瞬間もあなたの細胞の中でさまざまな遺伝子配列をRNAに転写しています。RNAポリメラーゼは12個のタンパク質からなり、「カニのはさみ」のようにDNAを挟み込むことができます。加えて、RNAを転写している最中にはさらに四つのタンパク質が結合していますが、全体としてどのような姿になっているかは分かっていませんでした。今回の観察から、巨大な複合体となったRNAポリメラーゼには、三つのトンネルがあることが判明しました。DNAを取り込み「カニのはさみ」の根元に導くトンネル、そこからDNAをポリメラーゼの外に送り出すトンネル、そして転写したRNAを送り出すトンネルです(図参照)。DNAとRNAの通路を独立した別々のトンネルとしているのは、DNAの読み取りとRNAの転写を同時に効率よくこなすための工夫なのかもしれません。さらに、今回のRNAを転写中のポリメラーゼの構造は転写を開始するときの構造とは大きく異なっていることが判明し、ポリメラーゼは転写の開始段階から転写を進める段階にかけて劇的な「変身」を遂げることが分かりました。小さなタンパク質が生み出す「巨大複合体」の精巧さに目を見張ります。

この構造をベースに、転写や遺伝子制御の理解が今後一段と進むことが期待できます。

理化学研究所
ライフサイエンス技術基盤研究センター 構造・合成生物学部門 構造生物学グループ 超分子構造解析研究チーム
チームリーダー 関根 俊一 (せきね しゅんいち)
研究員 江原 晴彦 (えはら はるひこ)