広報活動

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2017年9月27日

理化学研究所
九州工業大学

植物二次代謝産物の生合成遺伝子の推定を簡便に

-二次代謝産物の多様性を促進するコピー遺伝子-

要旨

理化学研究所(理研)環境資源科学研究センター機能開発研究グループの花田耕介研究員(研究当時、現九州工業大学情報工学研究院准教授)、九州工業大学情報工学研究院の白井一正研究職員らの共同研究グループは、複数の植物ゲノムデータを統合させた情報解析を利用して、二次代謝産物[1]の生合成に関わる遺伝子群を高精度で推定する簡便な手法を開発しました。

植物が生み出すさまざまな二次代謝産物は、染料、香料、医薬品などとして利用されています。二次代謝産物を人為的に生産するには、植物の二次代謝産物を生合成する遺伝子群の同定が必須となります。また、二次代謝産物をより効率的に生産するには、二次代謝産物を生み出す進化のメカニズムを明らかにする必要があります。そのため、大量の二次代謝産物の生合成遺伝子群を同定する簡便な方法が求められていました。

今回、共同研究グループは、①網羅的な二次代謝産物を同定するメタボローム[2]、②全遺伝子の発現を調べるトランスクリプトーム[3]、③同一種内の塩基多様性[4]を利用した一塩基多型(SNP)[5]情報を統合させることで、大量の二次代謝産物の生合成遺伝子群を網羅的に推定する情報解析手法を開発しました。この手法を用いて、モデル植物のシロイヌナズナが生み出す1,335種の二次代謝産物の生合成に関わる遺伝子を5,654個推定することに成功しました。さらに、コピー遺伝子[6]が植物の二次代謝産物の多様性に大きく貢献することを発見しました。

今後、本成果を活用することで、植物の二次代謝産物の生合成を制御し、二次代謝産物をより効率的に生産できるものと期待できます。

本研究は、英国の科学雑誌『Molecular Biology and EvolutionMBE)』に掲載されるのに先立ち、オンライン版(2017月9月14日)に掲載されました。

※共同研究グループ

理化学研究所 環境資源科学研究センター
機能開発研究グループ
研究員(研究当時) 花田 耕介(はなだ こうすけ)(現 客員研究員、九州工業大学情報工学研究院 准教授)
グループディレクター 篠崎 一雄(しのざき かずお)

統合メタボロミクス研究グループ
研究員(研究当時) 松田 史生(まつだ ふみお)(現 大阪大学大学院情報科学研究科 准教授)
研究員 中林 亮(なかばやし りょう)
グループディレクター 斉藤 和季(さいとう かずき)

植物ゲノム発現研究チーム
特別研究員(研究当時) 岡本 昌憲(おかもと まさのり)(現 宇都宮大学農学部バイオサイエンス教育研究センター 助教)
チームリーダー 関 原明(せき もとあき)

九州工業大学 情報工学研究院
研究職員 白井 一正(しらい かずまさ)

背景

植物は自身では移動できないため、さまざまな環境条件下で生きていく必要があります。そのため、それぞれの環境条件で特異的な病原体から自らを防御しつつ、花粉媒介昆虫を魅了する花や果実の色素、香りなどを生み出します。この過程で生成されるのが二次代謝産物です。代謝産物のうち、生物体を構成維持する上で必要な物質を一次代謝産物、生育において必ずしも必須ではない物質を二次代謝産物といいます。

これらの二次代謝産物は、染料、香料、医薬品などとして利用されています。二次代謝産物を人為的に生産するためには、二次代謝産物の生合成に関わる遺伝子群を同定することが必須となります。また、二次代謝産物をより効率的に生産するには、二次代謝産物を生み出す進化のメカニズムを明らかにする必要があります。

しかし、生物種特有の二次代謝産物の生合成遺伝子群の同定には、他の生物種の情報は利用できません。そのため、大量の二次代謝産物の生合成遺伝子群を同定する新しい簡便な方法が求められていました。

研究手法と成果

共同研究グループは、大量の二次代謝産物の生合成に関わる遺伝子群を網羅的に、かつ高精度に推定する簡便な情報解析手法を新たに開発しました。この手法は、①網羅的な二次代謝産物を同定するメタボローム、②全遺伝子の発現を調べるトランスクリプトーム、③同一種内の塩基多様性を利用した一塩基多型(SNP)情報を統合させることで、二次代謝産物の生成量に関わるゲノムの位置および発現量を網羅的に調べるものです(図1)。

この手法を用い、モデル植物であるシロイヌナズナが生み出す1,335種の二次代謝産物の生合成に関わる遺伝子を5,654個推定することに成功しました。さらに、これらの遺伝子のコピー数に着目すると、予測よりも多い遺伝子にコピー数多型[7]があることが明らかになりました。このコピー数多型がある遺伝子(コピー遺伝子)の周辺では、適応進化に強く関わる遺伝子に特有の塩基多様度の著しい減少が観測されました。つまり、植物は遺伝子のコピー数の違いによって個体ごとに二次代謝産物の生合成を変化させることで、適応進化するようなメカニズムを持つことが示されました。言い換えると、コピー遺伝子が植物の二次代謝産物の多様性に大きく貢献していることが分かりました。

今後の期待

本研究では、網羅的に二次代謝産物の生合成に関わる遺伝子群を推定する簡便な新しい手法を開発し、コピー数の違いにより二次代謝産物の生合成を変化させるメカニズムを解明しました。今後、これらの成果を活用し、植物の二次代謝産物の生合成を制御することで、二次代謝産物をより効率的に生産できるものと期待できます。

原論文情報

  • Kazumasa Shirai, Fumio Matsuda, Ryo Nakabayashi, Masanori Okamoto, Maho Tanaka, Akihiro Fujimoto, Minami Shimizu, Kazuo Shinozaki, Motoaki Seki, Kazuki Saito, Kousuke Hanada, "A highly specific genome-wide association study integrated with transcriptome data reveals the contribution of copy number variations to specialized metabolites in Arabidopsis thaliana accessions", Molecular Biology and Evolution (MBE), doi: 10.1093/molbev/msx234

発表者

理化学研究所
環境資源科学研究センター 機能開発研究グループ
客員研究員 花田 耕介(はなだ こうすけ)
(九州工業大学情報工学研究院准教授)

花田耕介 客員研究員の写真

花田 耕介

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補足説明

  1. 二次代謝産物
    生物体を構成、維持する上で重要な物質を一次代謝産物、生育に必ずしも必須ではない物質を二次代謝産物と呼ぶ。微生物において、二次代謝産物の生合成に関わる酵素遺伝子は、ゲノム中のある特定の領域に並んで存在している。
  2. メタボローム
    細胞内で合成された低分子代謝産物の総体。植物における総代謝物質は20万~100万種と考えられている。
  3. トランスクリプトーム
    ゲノムDNAを鋳型としてRNA分子が合成されることを転写(トランスクリプション)と呼び、転写の結果合成されたRNA分子のことを転写産物と呼ぶ。細胞中にはさまざまなRNA分子がそれぞれの量で存在している。このようなRNA分子の総体を、転写産物を表す「トランスクリプト」に、総体を表す接尾語「オーム」をつなげて「トランスクリプトーム」と呼ぶ。
  4. 塩基多様度
    ゲノムの塩基配列は一つの生物種内においても完全に一致しているわけではなく、ゲノムの領域ごとに多様度が異なり、これを塩基多様度と呼ぶ。適応が高まるSNPを持つ領域では、そのSNPを持たない個体は進化の過程で淘汰されるため、塩基多様度が低くなる傾向にある。
  5. 一塩基多型(SNP)
    ヒトゲノムの個人間の違いのうち、集団での頻度が1%以上のものを遺伝子多型と呼ぶ。その代表的なものとして、ヒトゲノム塩基配列上の一カ所が変化して生じる一塩基多型がある。SNPはSingle Nucleotide Polymorphismの略。
  6. コピー遺伝子
    ある遺伝子または遺伝子群をコピーしてできた遺伝子または遺伝子群の総称。一つの遺伝子が何回もコピーされ、複数の同じ遺伝子から構成される場合もある。遺伝子重複とも呼ぶ。
  7. コピー数多型
    染色体の一部領域が重複したり欠失したりすることによって、ゲノムに含まれる遺伝子数が変化すること。ダウン症の原因である21番染色体トリソミー(21番染色体が三つになること)も、コピー数多型の一つである。

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三つの大規模情報を統合した情報解析手法の図

図1 三つの大規模情報を統合した情報解析手法

網羅的な二次代謝産物を同定するメタボローム、全遺伝子の発現を調べるトランスクリプトーム、同一種内の塩基多様性を利用したゲノム規模の一塩基多型(SNP)情報という三つの大規模情報を統合することによって、植物二次代謝産物の生合成に関わる遺伝子群を高精度に推定できる新手法を開発した。

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