広報活動

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2017年10月19日

理化学研究所
東京大学

反陽子の磁気モーメントの超高精度測定

-物質・反物質非対称性の検証が大きく前進-

測定に用いたペニングトラップの写真

図 測定に用いたペニングトラップの写真

138億年ほど前にビッグバンによって宇宙が誕生したときには、それぞれ同量の粒子と反粒子が生成されたと考えられています。しかし現在の宇宙には、反粒子からなる反物質はほとんど存在しません。これを「物質-反物質非対称性」といいますが、現代物理学の根底にある標準理論ではこのことを説明することができません。

標準理論の基本的な対称性に「CPT対称性」があります。CPT対称性とは、電荷(C)、空間(P)、時間(T)の三つを同時に反転しても物理法則が変わらないことを意味しています。CPT対称性が保たれているならば、ある粒子とその反粒子の質量と寿命は等しいはずであり、電荷や磁気モーメント(磁気の強さと向きを表す)の大きさは等しく、それらの符号は反対でなくてはなりません。もしこれらに一つでも違いがあれば、CPT対称性が破られることになり、物質-反物質非対称性の謎を解く鍵が得られると考えられています。

今回、理研を中心とした国際共同研究グループはCPT対称性を厳密に検証するために、反陽子の磁気モーメントの直接測定に挑みました。実験では、荷電粒子の基礎物理量を高精度で測定できるぺニングトラップを用いて(図参照)、二つの反陽子を交互に測定用トラップに移動し、それぞれ独立に分光するという新たに開発した手法を使いました。その結果、68%の信頼水準で相対精度が10億分の1.5(1.5ppb)という超高精度で、反陽子の磁気モーメントを直接測定することに成功しました。これは、同グループが2017年1月に達成した当時の最高精度(1,000万分の8、0.8ppm、95%の信頼水準)をさらに350倍上回り、現時点での世界最高記録です。また、同グループが2014年に発表した陽子の磁気モーメントの値と不確かさの範囲内で一致し、今回到達した精度では「CPT対称性、すなわち物質-反物質の対称性が保たれている」ことが明らかになりました。

今後は、さらに高い精度で測定することにより、物質・反物質非対称性の謎に一層近づくことができると期待できます。

理化学研究所
Ulmer基本的対称性研究室
主任研究員 ステファン・ウルマー (Stefan Ulmer)
特別研究員 クリスティアン・スモーラ (Christian Smorra)
特別研究員 長濱 弘季 (ながはま ひろき)
研究員 山崎 泰規 (やまざき やすのり)