広報活動

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2017年11月3日

理化学研究所

脳の基本単位回路を発見

-単純な回路が繰り返した格子構造が存在-

要旨

理化学研究所(理研)脳科学総合研究センター局所神経回路研究チームの細谷俊彦チームリーダー、丸岡久人研究員らの研究チームは、哺乳類の大脳皮質[1]が単純な機能単位回路の繰り返しからなる六方格子状の構造を持つことを発見しました。

大脳はさまざまな皮質領野[2]に分かれており、それぞれ感覚処理、運動制御、言語、思考など異なる機能をつかさどっています。大脳は極めて複雑な組織なため、その回路の構造には不明な点が多く残っています。特に、単一の回路が繰り返した構造が存在するか否かは不明でした。

今回、研究チームは、大脳皮質に6層ある細胞層の一つである第5層をマウス脳を用いて解析し、大部分の神経細胞が細胞タイプ特異的なカラム状の小さなクラスター(マイクロカラム)を形成していることを発見しました。マイクロカラムは六方格子状の規則的な配置をとっており、機能の異なるさまざまな大脳皮質領野に共通に存在していました。また、同じマイクロカラムに含まれる細胞は同期した神経活動を示し、方位選択性[3]眼優位性[4]などの刺激応答性が類似していました。さらに、神経回路が形成される時期には、マイクロカラムの細胞はギャップ結合[5]で結合されており、のちに共通な神経入力を受けることが示されました。以上のことから、第5層の神経細胞はマイクロカラムが繰り返した回路に組織化されており、個々のマイクロカラムは機能単位として動作することが分かりました。この結果は、同じ構造を持つ多数のマイクロカラムの並列処理が第5層の機能を担っていることを示しています。この構造はさまざまな皮質領野に存在するため、感覚処理、運動制御、言語処理などの多様な大脳機能に共通な情報処理を行なっていると考えられます。
今後、単一のマイクロカラムの機能を明らかにすることにより、脳機能の理解が大きく進むものと期待できます。

本成果は、米国の科学雑誌『Science』に掲載されるのに先立ち、オンライン版(11月2日付け:日本時間11月3日)に掲載されます。

本研究は、文部科学省科学研究費補助金新学術領域研究「メゾ回路」、研究スタート支援、若手B、挑戦的萌芽研究の支援を得て行われました。

※研究チーム

理化学研究所 脳科学総合研究センター 局所神経回路研究チーム
チームリーダー 細谷 俊彦 (ほそや としひこ)
研究員 丸岡 久人 (まるおか ひさと)
研究員 中川 直 (なかがわ なお)
元研究員 鶴野 瞬 (つるの しゅん)
客員研究員 酒井 誠一郎 (さかい せいいちろう)
研究員 米田 泰輔 (よねだ たいすけ)

背景

ヒト大脳は、100億個以上の神経細胞からなる極めて複雑な組織です。大脳はさまざまな皮質領野に分かれており、それぞれ感覚処理、運動制御、言語、思考など異なる機能をつかさどっています。

大脳神経回路の構造については100年以上にわたって研究がなされていますが、その複雑さからまだ不明な点が多く、脳機能の理解の大きな妨げとなっています。特に、単一の回路が繰り返した構造を大脳皮質が持っているか否かは不明でした。1960年代頃からネコやサルなどで、方位選択性カラムなどのいわゆる皮質カラムが発見されました。しかし、これらは大脳の視覚野のみに限られ、さらにラットやマウスなどではみられないことから、大脳の普遍的な単位回路ではないと考えられています。

大脳の神経細胞は厚さ1~2 mm 程度のシート(大脳皮質)を作っており、さらにこの皮質は機能の異なる六つの層に分かれています。細谷チームリーダーらは、神経細胞の分類が比較的進んでいる第5層を研究対象として選び、マウス脳を用いてその構造を解析してきました。第5層は、皮質下投射細胞(SCPNs)[6]および皮質投射細胞(CPNs)[7]の2種類の興奮性細胞と、パルブアルブミン発現細胞(PV細胞)[8]およびソマトスタチン発現細胞(SOM細胞)[9]の2種類の抑制性細胞の計4種類の神経細胞で主に構成されています。

2011年に細谷チームリーダーらはマウス脳において、SCPNsが幅1~2細胞、高さ数細胞程度の細長いクラスター(SCPNマイクロカラム)を形成していること、および多数のSCPNマイクロカラムが第5層内に並んでいることを発見しました注1)。これとは独立に、別のグループもヒト脳言語野で同様な構造を発見し、2012年に発表しています注2)。一方、SCPNマイクロカラムの機能やSCPNs以外の細胞の空間配置はこれまで不明でした。

注1)2011年12月14日プレスリリース「高度な機能を司る大脳新皮質には、機能ごとの小規模な構造単位が存在
注2)Kwan et al., Species-dependent posttranscriptional regulation of NOS1 by FMRP in the developing cerebral cortex. Cell 149, 899-911 (2012).

研究手法と成果

研究チームは、これまでの研究ではマウス脳を薄いスライスにして解析していましたが、今回は脳を丸ごと3次元解析する理研で新しく開発された技術を導入しました注3-5)。神経終末への色素注入や抗体染色[10]など用いて個々の細胞タイプを可視化し、脳サンプル全体を透明化して3次元撮影することにより、第5層において1個体当たり数千~数万個の細胞の位置座標を決定しました。

その結果、マウス大脳皮質第5層では、①SCPNマイクロカラムは機能の異なる複数の領野(視覚野、体性感覚野、運動野)で共通にみられ(図1A)、ハニカム状の六方格子配列をとって並んでいること(図1B)、②CPNsもマイクロカラム(CPNマイクロカラム)を形成し、SCPNマイクロカラムと互い違いに並んでいること(図1C)、③PV細胞とSOM細胞はSCPNマイクロカラムに選択的に含まれ、CPNマイクロカラムには含まれないことが明らかになりました(図1C)。

次に、マイクロカラムの機能を調べるためにSCPNs の神経活動解析を行いました。神経細胞が発火すると細胞内カルシウムイオン(Ca2+)濃度が上昇します。そこでCa2+濃度上昇によって蛍光強度が上昇するCa2+センサーをSCPNsに導入し、生体脳イメージングを行いました(図2A,B)。この結果、同じマイクロカラムに含まれる細胞は同期した神経活動を示すことが分かりました(図2C,D)。この同期活動は、視覚野、体性感覚野、運動野のSCPNマイクロカラムで共通にみられました。さらに視覚野においては、マイクロカラム内の細胞は方位選択性や眼優位性が類似していることが分かりました(図2E–G)。

以上より、個々のマイクロカラムはそれぞれ特定の情報を処理しており、幅広い脳領野の共通な機能単位として動作していることが明らかとなりました。

次に、電気生理学的な解析から、同じマイクロカラムに含まれる神経細胞は同じ神経細胞からのシナプス入力を受けていることが示され、この入力が同期活動をもたらしている可能性が示されました。また、皮質回路が形成される時期には、同じマイクロカラム内の細胞は、ギャップ結合によって電気的に結合していることが分かりました。この結合は、マイクロカラム特異的な神経回路の形成を誘導している可能性があります。

以上の結果は、大脳皮質の広い領域において、第5層はマイクロカラムが繰り返した回路に組織化されていることを示しています。個々のマイクロカラムは要素的な情報処理を担う機能モジュールであると考えられ、多数のマイクロカラムによる並列処理が第5層の情報処理を担っていることが示されました。この回路構造はさまざまな異なる皮質領野に存在するため、感覚処理、運動制御、言語処理などの多様な大脳機能に共通な情報処理を行っていると考えられます。

注3)2013年6月24日プレスリリース「簡便で生体試料にやさしい組織透明化試薬「SeeDB」を開発
注4)2015年9月15日プレスリリース「アルツハイマー病の組織病変をズームイン
注5)Susaki, Etsuo A. et al. Advanced CUBIC protocols for whole-brain and whole-body clearing and imaging Nat. Protoc. 10, 1709-1727 (2015).

今後の期待

本研究では、第5層がマイクロカラムの繰り返しで構成されていることを明らかにしました。したがって、十個程度の細胞からなる単一のマイクロカラムの機能を明らかにできれば、第5層の機能の深い理解が得られる可能性があります。さらに、マイクロカラムはさまざまな皮質領野で共通な機能単位であるため、感覚、運動制御、言語などの広範な脳機能に共通である普遍的な情報処理の機構が明らかになると期待できます。

今回の研究では、神経細胞の分類が比較的進んでいる第5層を研究対象としました。近年、他の皮質層でも遺伝子発現などを指標とした神経細胞の分類が進められているため、この情報を用いて第5層以外の皮質層でもマイクロカラム様の構造を探索できるようになる可能性があります。実際、ギャップ結合で結合したカラム状のクラスターは第5層以外にも存在するため、第5層以外にもマイクロカラムが存在する可能性があります。

個々のマイクロカラム内の細胞は特定の方位選択性や眼優位性を持つことが分かりました。一方、方位選択性カラムや眼優位性カラムなどの皮質カラムは幅が細胞数十個分ほどあり、マイクロカラムより広い構造です。したがって、ネコやサルなどでは方位選択性や眼優位性の類似したマイクロカラムが多数並ぶことによって、皮質カラムを形成している可能性があります。もしこれが示されれば、皮質カラムとそれ以外のさまざまな機能を持った皮質領野の統一的な理解が可能になります。

原論文情報

  • Maruoka, H. Nakagawa, N. Tsuruno, S. Sakai, S. Yoneda, T., and Hosoya T., "Lattice system of functionally distinct cell types in the neocortex.", Science, doi: 10.1126/science.aam6125

発表者

理化学研究所
脳科学総合研究センター 局所神経回路研究チーム
チームリーダー 細谷 俊彦 (ほそや としひこ)
研究員 丸岡 久人 (まるおか ひさと)

報道担当

理化学研究所 広報室 報道担当
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補足説明

  1. 大脳皮質
    大脳の表面に広がる神経細胞の薄い層。大脳皮質の細胞が作る厚さ1-2 mm 程度の細胞シートで、6層に分かれている。外側が第1層、内側が第6層。個々の層は異なった組み合わせの神経細胞タイプを含み、異なった機能を持つ。
  2. 皮質領野
    大脳皮質は視覚、運動、言語など機能の異なるさまざまな部位に別れており、個々の部位を(皮質)領野という。
  3. 方位選択性
    大脳皮質視覚野の神経細胞は、特定の方向を向いた線や輪郭を持った視覚刺激に選択的に応答する特性があり、これを方位選択性という。ネコやサルなどでは、同じ方向の刺激に応答する神経細胞が大脳皮質内で柱上に並ぶことが知られており、方位選択性カラムと呼ばれる。
  4. 眼優位性
    大脳皮質視覚野の神経細胞は、右目と左目への応答のバランスが個々の細胞で異なる特性があり、これを眼優位性という。ネコやサルなどでは、同じ側の目が優位である神経細胞が大脳皮質内で柱上に並ぶことが知られており、眼優位性カラムと呼ばれる。
  5. ギャップ結合
    互いに接触した二つの細胞をつないでイオンなどの小分子を透過させる構造。二つの細胞の細胞膜が近接した部位に、タンパク質でできたコネクソンと呼ばれる貫通構造が形成され、これが小分子を透過させる。神経細胞では、イオンなどの情報伝達分子を透過させると考えられている。
  6. 皮質下投射細胞(SCPNs)
    大脳皮質第5層に存在する2種類の主要な興奮性細胞の一種。長い出力繊維(軸索)を皮質外の神経組織におくり、大脳皮質からの主要な出力経路を構成する。さまざまな皮質領野に共通して存在する。運動野のSCPNsは脊髄に出力を送り、運動ニューロンと呼ばれる。SCPNsはSubcerebral projection neuronsの略。
  7. 皮質投射細胞(CPNs)
    大脳皮質第5層に存在する2種類の主要な興奮性細胞の一種。長い軸索を大脳皮質内の神経細胞におくり、大脳皮質間の通信経路を構成する。さまざまな皮質領野に共通して存在する。CPNsはCortical projection neuronsの略。
  8. パルブアルブミン発現細胞(PV細胞)
    大脳皮質第5層に存在する2種類の主要な抑制性細胞の一種。パルブアルブミンを発現する。近傍の細胞の樹状突起、スパイン、細胞体、活動電位起始部などに結合し神経活動を抑制する。PVはParvalbuminの略。
  9. ソマトスタチン発現細胞(SOM細胞)
    大脳皮質第5層に存在する2種類の抑制性細胞の一種。ソマトスタチンを発現する。近傍の細胞の樹状突起やスパインに結合し神経活動を抑制する。SOMはSomatostatinの略。
  10. 抗体染色
    組織サンプルなどに存在する特定の分子を可視化するために、その分子に特異的に結合する抗体を用いて染色する技術。特定の細胞タイプが発現する分子に対して行うことにより、そのタイプの細胞を可視化することにも使われる。

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マウス大脳皮質のマイクロカラムとその格子配列の図

図1 マウス大脳皮質のマイクロカラムとその格子配列

A:色素注入により可視化された第5層のSCPNマイクロカラム。SCPNマイクロカラムは機能の異なる視覚野、体性感覚野に共通にみられる。1μmは1,000分の1mm。

B:SCPNマイクロカラムを上面から見たときのハニカム状の六方格子構造。縦軸が前後方向。緑・紫・茶の色付きの線は、最適推定された六方格子を示す。

C:模式図。SCPNマイクロカラムとCPNマイクロカラムは互い違いに並んでいる。PV細胞とSOM細胞はSCPNマイクロカラムに選択的に含まれ、CPNマイクロカラムには含まれない。

SCPN マイクロカラムの神経活動解析の図

図2 SCPN マイクロカラムの神経活動解析

A~Dは同期活動の解析、E~Gは方位選択性の解析を示す。

A:マウス生体脳からイメージングを行うイメージ図。

B:カルシウムイオン(Ca2+)センサーを視覚野SCPNsに導入し、神経活動を測定した。4個のSCPNsの例を示す。細胞1~3は同じマイクロカラムに含まれる。細胞4はこのマイクロカラムに含まれない。

C:Bの4個の細胞の神経活動を測定した結果。紫線は同期活動を示す。細胞1~3の活動はしばしば同期したが、細胞4は同期しなかった。

D:模式図。同一のマイクロカラム内のSCPNは活動が同期することを示している。この同期活動は、視覚野、体性感覚野、運動野で共通にみられた。

E:さまざまな方位の視覚刺激をマウスに提示し、視覚野SCPNsの応答を測定した。水色は個々のトライアルでの応答、青線は平均を示す。

F:二つのSCPNsを比べたときの最適刺激方位の違いと細胞間距離の関係。縦軸は二つの細胞の最適刺激方位の差、横軸は脳表面に平行な方向に測った細胞間距離を示す。青線は実データ。灰色はシャッフリングによるランダム化データで、点線は下位5%。距離の近いSCPNは最適方位が似ている。

G:模式図。同じマイクロカラム内のSCPNは方位選択性が似ていることを示している。

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