広報活動

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2018年2月9日

理化学研究所

光変換を起こすナノ粒子による新しい光遺伝学法の開発

-近赤外線を用いて非侵襲的に神経細胞の活動を制御する-

近年、脳科学は目覚しい進歩を遂げており、記憶や情動などの機能を担う脳内回路の働きが次々と明らかになっています。その背景には、2006年に始まり、ネイチャー・パブリッシング・グループにより「メソッド・オブ・ザ・イヤー2010」にも選ばれた「光遺伝学」という技術の開発があります。

光遺伝学では、光活性化型のイオンチャネルやイオンポンプを神経細胞の細胞膜上に発現させ、青色光や緑色光を照射することで、その神経細胞の活動を活性化したり抑制したりします。しかし、青色光や緑色光は脳組織を透過する際に減衰するため、光ファイバーを脳組織に挿入する必要があります。そのため、ファイバー挿入による脳組織の損傷が避けられないという問題がありました。

今回、理研を中心とした国際共同研究グループは、低エネルギーの光を高エネルギーの光に変換する「アップコンバージョン-ナノ粒子(UCNP)」に着目しました。UCNPは近赤外線を吸収し、青色光や緑色光を放出します。近赤外線は生体透過性が高く、体の深部まで到達するのに加えて、生体への影響はほとんどありません。まず、光活性型イオンチャネル(ChR2)をマウス脳のドーパミン神経細胞群に発現させ、同じ領域に青色光を放出するUCNPを注入しました。その後、頭上から近赤外線を照射すると、脳深部で近赤外線はUCNPにより青色光に変換され、近くのドーパミン神経細胞内のChR2を活性化して、ドーパミンの放出を促進しました(図参照)。また、同じ手法を使ってマウス海馬の神経細胞を活性化し、人為的に記憶を思い出させることに成功しました。さらに、近赤外線を緑色光に変換するUCNPを作製し、光活性型イオンポンプと組み合わせて、脳深部の神経細胞の活動を抑制する方法も開発しました。

本成果は、生体に損傷を与えずに、ある特定の神経細胞だけを活性化もしくは抑制することができ、精神疾患などの新しい有効な治療法につながると期待できます。

青色放出UCNP(左)を用いた光遺伝学によるドーパミン神経細胞の活性化(右)の図

図 青色放出UCNP(左)を用いた光遺伝学によるドーパミン神経細胞の活性化(右)

理化学研究所
脳科学総合研究センター 神経回路・行動生理学研究チーム
チームリーダー トーマス・マックヒュー (Thomas J. McHugh)
基礎科学特別研究員 陳 碩 (シュオ・チェン)