広報活動

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2018年2月14日

理化学研究所

植物の根毛の成長を止める仕組みの解明

-転写因子GTL1とDF1が長さを制御するブレーキとなる-

要旨

理化学研究所(理研)環境資源科学研究センター細胞機能研究チームの柴田美智太郎訪問研究員、杉本慶子チームリーダーらの国際共同研究グループは、植物の根毛[1]の長さを制御する転写因子[2]を発見しました。

根毛とは植物の根の表面に存在する毛のような器官で、根の表面積を大きくすることで、土壌から水や栄養素を効率的に吸収する機能があります。植物は根毛の長さを調節することで、土壌から吸収する栄養の量を制御しています。例えば、土壌中に栄養素が少ないときは根毛の成長を促進し、逆に栄養素が豊富に存在するときは根毛の成長を抑制します。そのため、根毛の長さを制御することは植物がさまざまな環境で生育するための重要なメカニズムと考えられます。しかし、その詳しい分子機構は明らかではありませんでした。

今回、国際共同研究グループは、モデル植物であるシロイヌナズナを用いて、GTL1という転写因子が根毛の成長を止める機能を担っていることを明らかにしました。根毛の成長を止める仕組みを明らかにするため、根毛が長くなるgtl1 df1二重変異株と根毛が短くなるGTL1過剰発現株において、発現が変動している遺伝子を調べました。その結果、ROOT HAIR_DEFECTIVE_SIX-LIKE_4RSL4)という遺伝子がGTL1、DF1によって抑制されることが分かりました。さらに、網羅的遺伝子発現解析とクロマチン免疫沈降解析[3]を行うことで、RSL4はGTL1の遺伝子発現を促進すること、RSL4とGTL1は共通するターゲットを持ち、RSL4は促進因子、GTL1は抑制因子として機能し、アクセルとブレーキのような関係で根毛の成長を適切に制御していることが明らかになりました。

今後は、GTL1の機能を人為的に改変することで、より過酷な条件で生育する植物体を作出するなどの応用につながると期待できます。

本研究は、英国の科学雑誌『Development』オンライン版(2月8日付け)に掲載されました。

※国際共同研究グループ

理化学研究所 環境資源科学研究センター 細胞機能研究チーム
チームリーダー 杉本 慶子 (すぎもと けいこ)
訪問研究員 柴田 美智太郎(しばた みちたろう)(日本学術振興会特別研究員PD)
研究員(研究当時) クリスチャン・ブラウアー (Christian Breuer)
研究員 バート・ライメン (Bart Rymen)
テクニカルスタッフⅡ 河村 彩子 (かわむら あやこ)
テクニカルスタッフ(研究当時) ルーク・ブレイドウッド(Luke Braidwood)

ノースカロライナ州立大学 Department of Plant and Microbial Biology
助教 ロスアンジェラ・ソザーニ (Rosangela Sozzani)
大学院生 ナタリー・クラーク (Natalie M. Clark)

東京理科大学 理工学部 応用生物科学科
准教授 諸橋 賢吾 (もろはし けんご)

ソーク研究所
准教授 ウォルフギャング・ブッシュ (Wolfgang Busch)

デューク大学
教授 フィリップ・ベンフィー (Philip N. Benfey)

背景

植物は成長に必要な栄養素や水分を、根を通じて土壌から吸収します。そのため植物は、必要な栄養素を効率的に吸収するためのメカニズムを発達させてきました。

根毛は植物の根の表面に存在する毛のような器官で、根の表面積を大きくすることで、土壌から効率的に水や栄養素を吸収する機能を果たしています。植物は根毛の長さを調節することで土壌から吸収する栄養の量を制御しています。例えば、土壌中に栄養素が少ないときは根毛の成長を促進し、逆に栄養素が豊富に存在する状況では根毛の成長を抑制します。

そのため、根毛の長さを制御することは、植物がさまざまな環境で生育するための重要なメカニズムと考えられますが、その詳しい分子機構は明らかではありませんでした。

研究手法と成果

国際共同研究グループはまず、GT2-LIKE1(GTL1)という転写因子に着目しました。GTL1は、2009年に杉本チームリーダーらが、トライコーム[4]という器官の大きさを制御する因子として同定したものです注1,2)。遺伝子発現解析などから、GTL1は根でも何らかの機能を発揮していることが分かっていました。しかし、gtl1欠損変異株は根に表現型を示さず、どのような機能なのかは分かっていませんでした。

そこで、モデル植物のシロイヌナズナにおいて、GTL1ホモログ[5]であるDF1という遺伝子との二重変異株を作出しました。すると、このgtl1 df1二重欠損変異株は野生株と比較して、根毛が長くなることが分かりました。さらに、根毛が成長する様子を詳しく観察すると、gtl1 df1二重欠損変異株の根毛の伸長速度は野生株とは変わらず、伸長が止まるタイミングが遅れることが分かりました(図1)。また、細胞の大きさと核内倍化[6]によるDNA量との間に相関があるトライコームとは異なり、根毛の長さが異なる野生株と変異株との間で核内倍化の差はみられませんでした。このことから、GTL1とDF1はトライコームとは異なる仕組みで根毛のサイズを制御していることが示されました。

そこで、GTL1とDF1による根毛の成長を止める仕組みを明らかにするため、根毛が長くなるgtl1 df1二重変異株と根毛が短くなるGTL1過剰発現株において、遺伝子発現が野生株とは異なるものを調べました。その結果、ROOT HAIR_DEFECTIVE_SIX-LIKE_4RSL4)という遺伝子がGTL1、DF1によって抑制されることが分かりました。RSL4は、根毛を成長させる主要因子と考えられており、GTL1がRSL4を抑制することで根毛の成長を止めることは理にかなっています。さらに、gtl1 df1二重変異株とGTL1過剰発現株を用いて網羅的遺伝子発現解析とクロマチン免疫沈降解析を行い、RSL4もまたGTL1の遺伝子発現を制御すること、RSL4とGTL1は共通するターゲットを持ち、RSL4は促進因子、GTL1は抑制因子として機能することが明らかとなりました。

つまり、根毛の成長を促進するRSL4と、根毛の成長を抑制するGTL1は、互いに制御しつつかつアクセルとブレーキのような関係で下流の遺伝子発現を制御することで、根毛の成長を適切に制御していることが明らかになりました(図2)。

注1)2009年9月1日プレスリリース「植物細胞の大きさを調節する新たな遺伝子「GTL1」を発見
注2)2012年11月10日プレスリリース「植物細胞の大きさを決める仕組みの一端を解明

今後の期待

本研究から、RSL4とGTL1という正と負の転写制御因子が根毛の成長制御を行うことが見いだされました。今後は、この発見を基盤として、例えばGTL1の機能を人為的に改変するなどして根毛の長さを制御し、植物の栄養吸収効率を自在に制御する技術へと発展するものと期待できます。そして、より過酷な条件で生育する植物体の作出などの応用につながると期待できます。

原論文情報

  • Michitaro Shibata, Christian Breuer, Ayako Kawamura, Natalie M Clark, Bart Rymen, Luke Braidwood, Kengo Morohashi, Wolfgang Busch, Philip N Benfey, Rosangela Sozzani, Keiko Sugimoto, "GTL1 and DF1 regulate root hair growth through transcriptional repression of ROOT HAIR DEFECTIVE 6-LIKE 4 in Arabidopsis", Development, doi: 10.1242/dev.159707

発表者

理化学研究所
環境資源科学研究センター 細胞機能研究チーム
チームリーダー 杉本 慶子 (すぎもと けいこ)
訪問研究員 柴田 美智太郎 (しばた みちたろう)
(日本学術振興会特別研究員PD)

杉本慶子チームリーダーと柴田 美智太郎 訪問研究員の写真

杉本 慶子、柴田 美智太郎

報道担当

理化学研究所 広報室 報道担当
Tel: 048-467-9272 / Fax: 048-462-4715
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補足説明

  1. 根毛
    植物の根の表面に生えている毛のような器官。1細胞で構成されているため、細胞の成長を解析するのが容易であることから、細胞成長のモデルとして使用される。
  2. 転写因子
    DNAに結合するタンパク質。遺伝子の発現量を調節する機能があり、発生や成長に重要な役割を担う。
  3. クロマチン免疫沈降解析
    転写因子とDNAの結合を検出する方法。本研究ではマイクロアレイと組み合わせることで、ゲノム全体に解析が行われた。
  4. トライコーム
    葉や茎などの植物の地上部に生える毛のような器官。虫、病原菌、紫外線、乾燥から植物を保護する役割があると考えられている。gtl1欠損変異株ではトライコームのサイズが野生株よりも大きくなる。
  5. ホモログ
    相同遺伝子とも呼ばれ、塩基配列が類似する遺伝子のこと。アミノ酸配列も類似しているので、コードされるタンパク質も互いに似た機能を持つことが多い。
  6. 核内倍化
    DNA複製後に細胞分裂を伴わず、核内のDNA量が倍々に増えていく現象。トライコームでは、細胞の大きさと核内倍化によるDNA量との間に強い相関があることが知られている。

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シロイヌナズナgtl1-1 df1-1二重欠損変異株の根毛の図

図1 シロイヌナズナgtl1-1 df1-1二重欠損変異株の根毛

gtl1-1 df1-1欠損変異株は根毛の成長停止が遅れ、最終的に野生株(WT)よりも長くなる。

新しい根毛の成長制御モデルの図

図2 新しい根毛の成長制御モデル

促進因子であるRSL4と抑制因子であるGTL1が互いに制御し合うことで、根毛の成長を適切に制御する。

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