広報活動

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2018年2月21日

理化学研究所

虚血性心疾患に保護効果を示す化合物を開発

-新しい治療法の開発に期待-

要旨

理化学研究所(理研)袖岡有機合成化学研究室の闐闐孝介専任研究員、袖岡幹子主任研究員らの共同研究チームは、ラット虚血性心疾患[1]モデルにおいて心筋に保護効果[2]を示すIM化合物[3]「IM-17」を開発しました。

虚血性心疾患を含む心疾患は、日本人のがんに続く第2位の死因となっています注1)。虚血性心疾患は、心筋に血液を運ぶ血管の閉塞により、血流が遮断されて虚血状態になることによって生じる疾患であり、狭心症や心筋梗塞などが知られています。その治療には閉塞した血管を開通させることで虚血状態を解消することが必要ですが、血流再開時に逆に組織に損傷を与えてしまう虚血再灌流障害[4]が問題となっていました。虚血再灌流障害がなぜ起きるのかは完全に分かっていませんが、活性酸素種[5]が大量に発生し、損傷を受けた部位では細胞が膨潤した「ネクローシス[6]」がみられることが知られています。これまでに袖岡主任研究員らは、酸化ストレス[7]で誘導されるネクローシスを抑制する化合物としてIM化合物、IM-54を開発しました注2,3)

今回、共同研究チームはIM-54をベースにして、新たにIM-17を開発し、IM-17が虚血再灌流障害から心筋を保護し、ラットモデルにおいて不整脈による突然死を著しく抑制することを見いだしました。

本成果は、虚血性心疾患の新しい治療薬や治療法の開発に貢献すると期待できます。また、虚血再灌流障害は心臓だけではなく、脳や腎臓などさまざまな臓器でもみられることから、他の臓器での保護効果も期待できます。現在、共同研究チームはIM化合物の作用機序解明を進めており、虚血再灌流障害の詳しいメカニズムが解明されれば、新しい治療法の開発につながると考えられます。

本研究は、米国の科学雑誌『ACS Medicinal Chemistry Letters』オンライン版(1月29日付け)に掲載されました。

注1)厚生労働省 平成29年度人口動態統計特殊報告 平成27年都道府県別年齢調整死亡率の概況より
注2)K. Dodo, M. Katoh, T. Shimizu, M. Takahashi, M. Sodeoka, “Inhibition of hydrogen peroxide-induced necrotic cell death with 3-amino-2-indolylmaleimide derivatives” Bioorg. Med. Chem. Lett., 2005, 15, 3114.
注3)M. Sodeoka and K. Dodo “Development of Selective Inhibitors of Necrosis” Chem. Rec., 2010, 10, 308.

※共同研究チーム

理化学研究所 袖岡有機合成化学研究室
専任研究員 闐闐 孝介(どど こうすけ)
訪問研究員(研究当時) 清水 忠 (しみず ただし)
テクニカルスタッフI 寺山 直樹(てらやま なおき)
特別研究員 中尾 周平(なかお しゅうへい)
客員研究員(研究当時) 井内 勝哉(いうち かつや)
主任研究員 袖岡 幹子(そでおか みきこ)

東北大学 工学部
学生(研究当時) 髙橋 昌弘(たかはし まさひろ)

背景

虚血性心疾患を含む心疾患は、日本人のがんに続く第2位の死因となっています。虚血性心疾患は、心筋に血液を運ぶ血管の閉塞により、血流が遮断されて虚血状態になることによって生じる疾患であり、狭心症や心筋梗塞などが知られています。心筋梗塞などの虚血性心疾患の治療においては、閉塞した状態の血管を開通することで虚血状態を解消することが必要ですが、虚血再灌流障害によって不整脈が誘発されて突然死につながる危険性が知られています。そのため虚血再灌流障害から心筋を保護することは、虚血性心疾患の治療において非常に重要であるものの、その有効な方法は数少ない状態です。

虚血再灌流障害の詳しいメカニズムは完全に分かっていませんが、血流が再開した際に活性酸素種が大量に発生し、損傷を受けた組織では細胞が膨潤した形態変化を示す細胞死「ネクローシス」がみられることが知られています。そのため、活性酸素種による酸化ストレスがネクローシスを誘導し、虚血再灌流障害につながることが推定されていました。

細胞死は、生体内で不必要な細胞を除去するために重要な働きをしており、高度に制御されたアポトーシス[8]と呼ばれる細胞死が生体内で誘導される主要な細胞死として考えられてきました。しかし近年、アポトーシス以外にも多様な細胞死が生体内で誘導されることが分かってきました。特に、外界の傷害で偶発的に誘導される細胞死と考えられてきたネクローシスと呼ばれる細胞死も、生体内で制御機構が働いて起こる細胞死の一つとして再認識されるようになっています。

袖岡主任研究員らはネクローシスに着目し、これまでに抗がん剤などで誘導されるアポトーシスは抑制せず、酸化ストレスで誘導されるネクローシスに対して選択的に抑制効果を示すIM化合物IM-54を開発しました。今回、IMS-54をベースにし、新たなIM化合物の開発を試みました。

研究手法と成果

共同研究チームは、IM化合物がネクローシスを抑制することで虚血再灌流障害を軽減できるのではないかと考え、ラット虚血性心疾患モデルでIM化合物の保護効果を検討することを計画しました。

実験に際し、これまでに開発したIM化合物の中で最も活性の高かったIM-54をベースにして、動物実験に適用可能な化合物の開発を進めました。IM-54のアルキル側鎖にアミノ基を導入することで、IM-54よりも水溶性が高く、かつ肝臓での薬物代謝を受けにくいIM-17を開発しました(図1)。

IM-17は、ラット心筋より樹立したH9c2細胞において酸化ストレス刺激によるネクローシスを抑制し、またラット摘出心臓モデルにおいても虚血再灌流障害による心機能の低下、心組織の傷害を抑制することが明らかとなりました。

さらに、虚血再灌流障害により不整脈が誘発されるラット疾患モデルにおいてIM-17の効果を検討しました(図2)。このラットモデルでは、ラットの冠動脈[9]を結索して心臓への血流を5分間止めた(心虚血)後に結索を解き、血流を再開(再灌流)させます。その後10分間に起きる不整脈の頻度と時間および突然死の割合を測定しました。その結果、IM-17が不整脈の発生を著しく抑制し、ラットの突然死を抑えることが分かりました。突然死の抑制効果は虚血後に投与してもみられたことから、心筋梗塞などで心虚血に陥った後でもIM-17が有効である可能性を示しています。

以上の結果は、IM-17が虚血再灌流障害を抑制し、狭心症や心筋梗塞などの虚血性心疾患に対する保護効果を持つことを示しています。

今後の期待

本成果は、虚血性心疾患の新しい治療薬や治療法の開発に貢献すると期待できます。また、虚血再灌流障害は心臓だけではなく、脳や腎臓などさまざまな臓器でもみられることから、他の臓器での保護効果も期待できます。

現在、共同研究チームはIM化合物の作用機序解明を進めており、虚血再灌流障害の詳しいメカニズムが解明されれば、新しい治療法の開発につながると考えられます。

原論文情報

  • Kosuke Dodo, Tadashi Shimizu, Jun Sasamori, Kazuyuki Aihara, Naoki Terayama, Shuhei Nakao, Katsuya Iuchi, Masahiro Takahashi, and Mikiko Sodeoka, "Indolylmaleimide Derivative IM-17 Shows Cardioprotective Effects in Ischemia-Reperfusion Injury", ACS Medicinal Chemistry Letters, doi: 10.1021/acsmedchemlett.7b00454

発表者

理化学研究所
主任研究員研究室 袖岡有機合成化学研究室
主任研究員 袖岡 幹子 (そでおか みきこ)
専任研究員 闐闐 孝介 (どど こうすけ)

報道担当

理化学研究所 広報室 報道担当
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補足説明

  1. 虚血性心疾患
    心筋に血液を運ぶ血管が動脈硬化などで閉塞し、血流が遮断された状態(虚血状態)になることにより生じる心疾患の総称。狭心症や心筋梗塞などが含まれる。
  2. 保護効果
    心筋に与える障害を軽減し、心機能を維持する効果。
  3. IM化合物
    袖岡主任研究員らが開発したIM-54をはじめとする一連の化合物。インドリルマレイミド(indolylmaleimide)骨格を持つことから、IM化合物と命名された。
  4. 虚血再灌流障害
    血管が閉塞して組織に血液が流れない状態(虚血状態)が続いた後に、閉塞部位を開通(再灌流)した際に生じる障害。
  5. 活性酸素種
    スーパーオキシドアニオン、過酸化水素、ヒドロキシラジカルなど酸素分子が反応性の高い分子に変換されたもの。生体内ではタンパク質、脂質、核酸などの生体成分と反応して傷害を与える。
  6. ネクローシス
    細胞死の形式の一つ。細胞膜の機能が破綻することで細胞が膨潤し、最終的に細胞膜が破裂した形態変化を示す。
  7. 酸化ストレス
    生体内で過剰に発生した活性酸素種により誘起されるストレス。
  8. アポトーシス
    細胞死の形式の一つ。細胞の収縮、核クロマチンの凝集、核DNAの断片化、細胞の断片化などの形態変化を示す。制御された細胞死の代表として盛んに研究されている。
  9. 冠動脈
    心臓で心筋に血液を運ぶ動脈血管。

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IM-54からIM-17への構造改変の図

図1 IM-54からIM-17への構造改変

IM-54の持つアルキル鎖末端にアミノ基(-CH2-NH2)を導入することで、水溶性および代謝安定性が向上した。

虚血再灌流障害により誘発される不整脈に対するIM-17の保護効果の図

図2 虚血再灌流障害により誘発される不整脈に対するIM-17の保護効果

IM-17の静脈内投与により死亡率が大きく減少し、その効果は虚血後再灌流前に投与してもみられた。

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